基本的に、有栖と志乃は性格も容姿も真逆と言っていい。

 かたや、ゴスロリ的な服装を身にまとうことに始まり、髪、ネイル、肌、ボディメイクとこだわりが強く、更にはそれでい強くかつ社交的――トキオさんと加賀美さんがいつも見かけだけ妥協してくれれば客前にも出せるのにと悩んでいる――な有栖。

 かたや、薄手のグレーのカーディガンに黒いロングスカート。黒髪は染めたことどころかあまり手入れしたことはありませんとばかりに目を覆い隠し、常に下を向きながらにして他人の状態を察知できる能力と人が話すのと同等以上に文字を打てるタイピング能力を駆使している――これまた少しだけでも初対面の人でも喋ってくれたらとトキオさんと加賀美さんが悩んでいる――志乃。

 そんな正反対で、仕事上でも意見はぶつかり合うことも多い二人だが、意外と仲は良い。そんな二人は今、意見を一致させて(・・・・・)僕に詰め寄っていた。

「もう一度聞きたいんですけれど、そのお隣であるのぞみさんに、風間先輩は『好きです』って伝えたんですよね? それはさっきの説明で一字一句変わらず?」

『志乃:むしろ変わっていてほしい』

 モニターの志乃のチャットと、眉間にシワを寄せている有栖の言葉に、僕は恐る恐る言う。

「えっと、嬉しくなっちゃって報告しちゃったんだけど、まずかったかな? でも……その後も普通だったし」

「普通だったし、じゃないですよ。のぞみさんの心境が伺い知れます。どこの世界に言うだけ言って立ち去った挙げ句に、その後通常営業する人がいるんですか!?」

『志乃:なお、その後業務提携で更に友好的……うう、想像しただけでストレスで吐く』

「ええ? そんなにかなぁ。時々ご飯も作ってもらってたし、仕方ないなぁって感じでにこにこと対応してくれてたんだけど」

 僕が、二人の度重なるダメ出しにそう返すと。二人は少しひそひそと相談するように顔を近づけて話す。

「どう思う?」「…………(ふるふる)」

 有栖の言葉に、首をふる志乃。

「でもでも、それならもっと前のタイミングで避けられそうなものじゃない? ついこの間、プロジェクト始まる前までは大丈夫だったんだってば」

「…………うーん、色々と風間先輩目線だと疑わしいんですけど、思い当たる節はないんですよね?」

「多分……でも、トキオさんも気をつけるように言ってたから、やっぱり仕事関連の話なのかな、社内でも色々あるみたいだし」

 僕が、そう思い出すのも胸のあたりがグツグツとしてくる聞かされた内容を思い返しながらそう言うと。

「……社長がそう言ってたんですか?」

『志乃:どういう状況? そんなにプロジェクトがまずい? でも始まったばかりのはず』

 二人がそう反応した。僕の主観に反して、トキオさんが言っていたというだけで少し信じようとしているあたりに僕に対しての評価が見えるようだ。

「うーん、詳しくは話せないけど――――」

 そんな自分自身の信用については言及せずに、僕は内容はぼかしたままで、のぞみさんの過去を言いふらすような営業と、よくわからない愚痴――こちらは普通にそのままの内容を――を言う新人について話した。

 すると、二人は共にため息を吐いて言う。

「……のぞみさんって方、本当にストレスが半端なさそうなんですけど大丈夫ですか?」

『志乃:見えているだけで、空気の読めない営業×話の通じない新人×好意を報告したままの隣人兼業務提携先のコンボは中々痛い』

「うん、心配なんだよね……僕のせいもありそうっていうのはよくわかったんだけどやっぱりされてばかりってわけにもさ。課金もさせてくれないし……」

 僕がそう頷くと、有栖と志乃はそれぞれ顔を見合わせるようにして――志乃の目は隠れているが――言った。

「とりあえず、風間先輩は過度に干渉しない方がいいですね。でも仕事面では異常なほど有能なんですからそっちではフォローする形で」

「仕事以外は?」

「あちらが難しいって言っている以上はステイで。いいですね?」

 最後のいいですね、の語尾の強さに、僕は首を縦に振る。

「ただ、そもそもとして風間先輩に、会ったこともないのぞみさんという人のために言っておかないといけないことがあります」

「ん?」

 話が終わり、少し肩を落としていた僕がそんな有栖の言葉に振り返ると、有栖は真面目な顔で続けた。

「風間先輩に悪気がないのも、そういう経験がないんだろうなもわかるんですけど。その風間先輩ののぞみさんへの好きが、本当に自分の中で恋なのかは、ちゃんと考えておいたほうがいいですよ……その、のぞみさんも困ると思うので」

「…………わかった」

 正直、あまりわかった(・・・・)のかはわかっていなかったけれど。
 有栖の言葉は僕の心に波紋を広げて、僕はそう頷いた。