結局白銀と触れ合ってしまい、この日はこのまま白銀の広い部屋で寝てしまった。大きなベッドで裕太は寝かされる。ベットだけではなく、部屋全体もSLDKばりに広かった。


 センスのいい北欧風の家具が並んでいた。白銀は裕太にベットを譲ると自分はソファで寝ると言っていたが、案の定、裕太がうとうとするとベットに潜り込んで彼を抱きしめてきた。裕太は抵抗するのも面倒なので、そのまま寝てしまった。抗議して何とか新品の下着を手に入れ、疲れてしまったからだ。


 翌日、裕太は白銀と『日の丸デパート』に行くことになった。裕太が目を覚ますと、白銀に誘われたのだ。白銀は仕事の自由がきくらしく、裕太と共に昼過ぎまで眠っていた。絶滅危惧種の動物の博物館で、館長をしているという事だった。

 
 その博物館は有名な『国立・生命の地球博物館』という、都心の一等地にある博物館だった。白銀は学芸員の資格を持っていた。そして副業では生成AIの管理をしていた。豪邸はほぼ『AⅠ御殿』のようだが、給料が低くとも絶滅危惧種の動物に関わる学芸員の資格に誇りを持っているようだ。


 うっかり仕事に誇りを持つ白銀を見て、うっとりしてしまった裕太だが、気を取り直して白銀を警戒した。裕太のハリネズミの半獣の小さな尻尾も気持ち警戒で小さく動く。


 「なんだよ裕太。そんなに警戒して。フシュフシュ言ってるぞ」


 「はっ‼」


 裕太は食事中だというのにフシュフシュと喉を鳴らして無意識に警戒してしまい、恥ずかしく思った。食事中なのにマナーがなっていない自分を恥じらった。


 「裕太は私を警戒・・・ ・・・するだろうな。色々な事をしてしまったから・・・ ・・・」


 「もうっ‼」


 威嚇のフシュフシュは収まったが、顔が真っ赤になった。朝食の美味しい洋食のプレートをぺろりと食べた裕太は、ニホンオオカミの半獣の一族は執事が代々いて、そもそも働かなくても生活は保証されるほどの財産があると聞いた。


 「財産はあるんだ。だから裕太には正直、嫁にきて欲しいんだが・・・ ・・・」


 と言われたが、裕太は殴って全力で拒否をした。


 広いお風呂を借りてから、デパートに二人は向かった。一緒に入ろうとしつこい白銀をかわすのが大変だったが、一緒に風呂なんかに入ったら、また性的な事をされる予感しかなかったので、全力で拒絶し、先に白銀をバスルームに送った。


 『デパートから帰ってきたら・・・ ・・・』


 と言葉のあやで言ってしまった裕太に、白銀は満足そうに微笑むと、颯爽とシャワーに向かった。裕太はまずいことを言ってしまったと後悔したが、どうにもなるものでは無い。


 何人もいるオオカミの半獣や獣人の執事を引き連れて、送迎車に乗り裕太と白銀は『日の丸デパート』に向かった。デパートに着くと従業員がズラリと並び、白銀を招き入れた。


 白銀は相当のVIPのようだ。VIPならば、裕太の下着くらい裸にさせず用意できるはずだが・・・ ・・・と彼は思ったが、それとこれとは別の様だ。


 「いらっしゃいませ、白銀様‼」


 とヒトの男性・[[rb:佐久間 > さくま]]が出てくると、裕太は着せ替え人形になり、あれもこれも洋服を着替えさせられた。白銀は今回は自分の服や物は買わず、全て裕太のものだけ買うようだ。裕太が試着した服を


 「全部」


 と言って買い占めた。


 あっという間に買い物が終わってしまったが、これは白銀が裕太の


「買い物の後で・・・ ・・・」


 を期待していると気付いてしまった。裕太が車にすぐ乗らずわたわたしていると、白銀は支配人に呼び止められていた。執事たちの多くは白銀に続く。裕太がほっとすると、遠くから声が聞こえてきた。


「あれ?裕太ちゃんじゃないの?」


 馴れ馴れしい呼び方をされるような知り合いは裕太にはいないので疑問に思って振り向くと、そこにはホワイトタイガーらしき半獣がいた。裕太と同い年くらいの男だが、体格は白銀に近く、がっしりしていた。


『干支シリーズ・・・ ・・・⁉」


 こんな身近に干支シリーズの半獣に出会うなんて、裕太はびっくりして固まった。


 「裕太ちゃん、お店辞めちゃったんでしょ?オレ、ずっと前から行こうと思ってたからガッカリしたよ。身請けされたんだって?相手はあのオオカミ?あ、タメ語でいいよ」


「あの、あなたは・・・ ・・・」


 裕太は腕をぶんぶんと握られ、捕らえられてしまった。


 「ああ、悪い悪い。自己紹介もまだだったな。オレ、ホワイトタイガーだから『タイガ』。なんか馬鹿みたいだろ?事務所の社長が決めたんだ。育ての親だけど」


 「育ての、親・・・ ・・・?」


 裕太は気になって声にしてしまった。


 「そう。実の親が金に困ってオレを養護施設に売り飛ばしたらしくて、モデル事務所の社長が引き取ったってだけ。オレ、モデルしてるんだ。結構有名だけど?」
 

 そんな話を聞いてしまったら、なんだか腕が振り払えなくなった。


 「ごめんなさい、テレビはあまり見ないから・・・ ・・・。でも目立つ仕事なんて危なくないの・・・ ・・・?」


 「まぁ、誘拐されそうになるなんて、『干支シリーズ』の宿命じゃない?だったら逆に利用してやるよ」


 なんだか、少し白銀みたいに強い人だ。


 「偉いねタイガさん・・・ ・・・ぼく、尊敬しちゃうよ。同じ『干支シリーズ』として・・・ ・・・」


 その時、タイガの目の色が変わった。


「同じ『干支シリーズ』ね・・・ ・・・」


 そう言うと、裕太の腕をぐいと掴んだ。


 「た、タイガさん・・・ ・・・?」


 「いいよな裕太は。アンアン犯されてるだけで楽な人生だよな。それで身請けまでされて・・・ ・・・。お前、前の仕事楽しんでただろ?お前に入った友達が皆言ってんだよ。あんな淫乱は居ないってよ」


 「い、淫乱なんて・・・ ・・・‼」


 突然、仲間だと思ったタイガに牙を向けられ、裕太は身をすくめた。しかしがっしりと身体をホールドされてしまう。


 「今のご主人サマだけで満足なの?相手してやるから、こっち来いよ」


 裕太は物凄い力で身体を引き寄せられた。


 「い、いや・・・ ・・・‼」


 裕太は心が真っ暗になった。せっかく自分と同じ『干支シリーズ』の仲間に出会えたのに、淫乱扱いされ、暴言を吐かれて・・・ ・・・。裕太の瞳から、涙が零れ落ちた。


 「い、いや・・・ ・・・‼」


 「いいから来い・・・ ・・・!」


 タイガに引っ張られた次の瞬間、裕太はぎゅっと目をつぶった。殴られる・・・ ・・・‼裕太がそう思った瞬間、ゴンと鈍い音が聞こえた。


 「おいてめえ、人のモノに勝手に触んな」


 恐る恐る裕太は顔を上げると、タイガが腹を思い切り殴られ、横に伸びていた。傍には・・・ ・・・白銀の姿があった。


 「し、しろがねっ・・・ ・・・」


 裕太は驚いたやら安心したやら、訳が分からなくなっていた。そんな裕太を白銀はぎゅっと抱きしめた。


 「すまない、裕太・・・ ・・・怖い思いをさせたね・・・ ・・・。おい、お前ら‼何の為のボディーガードだコラぁ‼」


 「ちょ、ちょっと白銀、みんなは執事さんでしょ?」


 タイガを撃退した時といい荒い口調の白銀にも驚いたが、まさか・・・ ・・・。


 「このひとたちは、みんなボディーガードさんなの⁉」


 「ああそうだよ。ボディーガード兼執事だよ。ったく、本業はボディーガードだってのに。最近、平和だったから平和ボケしてんだろ」


 「も、も、申し訳ありません‼裕太様、白銀様・・・ ・・・‼」


 相変わらずタイガは横に伸びたままだし、ボディーガードは怒った白銀に震えあがるし・・・ ・・・。怖い思いをした裕太だったが、嫌な思いも吹き飛んでしまった。


 「ねぇ白銀、ぼくはなんとも無かったんだから、そんなに怒らないでよ」


 「腕」


 「え?」


 「腕が紅く腫れてる」


 「あ・・・ ・・・」


 裕太は自分の腕を見て確認すると、タイガが掴んだ部分が赤くなっていた。


 「可愛そうに・・・ ・・・何か奴に言われていなかったか?涙まで流して・・・ ・・・」


 白銀は裕太を優しく抱きしめていると、タイガが起きた。


 「いってえな・・・ ・・・‼警察呼ぶぞ・・・ ・・・‼」


 タイガは白銀に殴りかかって来たが、するりと白銀は交わして、タイガの腕をひねった。


 「いてててて‼もう分かったよ‼」


 タイガは本気で観念したのかは分からないが、トラだけに素早く走り去って行った。


 「大丈夫か?裕太・・・ ・・・」


 白銀は涙ぐむ裕太のにキスを落とした。 


 「ん、大丈夫だから・・・ ・・・」


 裕太は白銀には触れられても嫌悪感がないことを不思議に思った。


 帰宅する送迎車の中、二人は無言だった。白銀は


「なにか嫌なことを言われたんだろ?」

 
 とお見通しだった。出会って数日の白銀に、裕太はあっさり見抜かれて恥ずかしい気持ちでいっぱいだった。白銀は腫れた裕太の手首を優しくなぞった。