こうして、裕太と白銀の奇妙な同居生活がはじまった。同時に何故か身体を重ねるようになってしまった。裕太は『宿泊代』としてはじめは身体を差し出していたが、白銀に『愛してる』『好きだ』と宝物の様に扱われ、だんだん本当に白銀に引かれていってしまった。


 白銀は身請けしてくれたけど『えっち』だし、怒ると怖いけれど、裕太にはひたすら優しかった。男同士ではあるものの、両片思いのような関係になってしまった。両思いとはいかないのは、裕太が意地を張っているからだ。周りのボディーガード達からも『もうさっさとくっついてしまえ』と思われているが、鈍感な裕太は白銀の本当の思いもボディーガード達の思いもちんぷんかんぷんで、周りはため息をついた。


 そんな生活も、二週間が経とうとしていた。裕太は今日も今日とて庭の掃除をしていた。裕太の必死の抵抗で、メイド服は免除された。


 「これでメイド服だったら、最悪だよ〜」


 裕太はぶつぶつ言いながらはき掃除を続けた。すると突然びゅうううと大きな風が吹いた。


 「・・・ ・・・きゃっ・・・ ・・・!」


 突然の突風に裕太がよろめいて転びそうになると、がしりと身体を支えられた。


 「・・・ ・・・し、白銀・・・ ・・・?え、違う・・・ ・・・?」


 見ると裕太の身体を支えているのは、以前口論になった『干支シリーズ』でホワイトタイガーの半獣のタイガだった。


 「な、なんでタイガがここに・・・ ・・・⁉」


 裕太は必死にタイガの腕の中から逃れようとするが、強く抱きしめられてしまう。


 「案外簡単に調べられたよ。裕太ちゃん玉の輿じゃん。白銀ってヤツ?ニホンオオカミなの?すんげぇ金持ってんじゃん、良かったな」


 「そ、そんなことタイガさんには関係ないでしょ・・・ ・・・‼放してよ!」


 「嫌だね。離さねーよ。お前、ちょっと来いよ。接待要員が必要なんだよ」


 「接待要員って・・・ ・・・なんでそんな酷い事ばっかり言うの⁉」


 裕太はぶんぶんとタイガを引き剥がそうと必死だが、なかなか離れてくれなかった。


 「調べたけど、裕太ってもう親が居ないんだろ?だったら行方不明になっても誰も疑問に思わないじゃん」


「・・・ ・・・‼・・・ ・・・」


 あまりの暴言に、裕太は口をぱくぱくさせた。ショックで力が抜けた裕太をタイガは抱きとめる。


 「そうだよ。そうやって大人しくしてろよ。人形みたいに・・・ ・・・痛ぇ‼」


 裕太は見上げるとタイガは白銀に殴られ、裕太を支える力が一気に弱まった。裕太は転げそうになるが、白銀が瞬時に抱き止めてくれた。


 「し、白銀っ・・・ ・・・!」


 「大丈夫か?裕太。すまない、コイツがただでは引き下がらないと思って、警備を弱めていたんだ。案の定、引っかかったが・・・ ・・・」


 「ちくしょう、バカにしやがって!」


 タイガは腹を立てて、ポケットから折りたたみナイフを取りだした。


 「や、危ない・・・ ・・・‼」


 裕太は白銀に向けられるナイフから彼を守ろうとタイガに立ち向かった。しかし、その身体を白銀に引っ張られると、逆に抱きしめられて守られてしまった。


 「・・・ ・・・し、白銀・・・ ・・・!」


 「はぁっ‼」


 タイガより体格の良い白銀は、ナイフを遠くに投げ、数発タイガにお見舞いし、突き飛ばすと、再び裕太を守った。裕太は恐怖でふるふると震えてしまった。 


 「お前、裕太が好きなんだろ?なんでこんな酷い事ばかりしてるんだよ」


 タイガは起き上がってあぐらをかいてふてくされると、白銀に向かって応えた。


 「だってよ・・・ ・・・同じ『干支シリーズ』なのにコイツのほうが幸せそうで、ズルくて・・・ ・・・」


 「・・・ ・・・ズルい?・・・ ・・・」
 

 裕太はむっと眉間にしわを寄せると、タイガに向かって話しだした。


 「ちょっと、なんでぼくが幸せでズルいんだよ。妓楼にいて幸せな訳がないだろ?」


 「でも妓楼で客に甘やかされてたんだろ?お前の容姿だし。その上身請けされて玉の輿だろ」


 「玉の輿って‼ぼくは嫁じゃないし、男だし!しかもお客なんてみんな乱暴で殴られてばっかりだったんだから‼店の人にも乱暴されるし、全然甘やかされてなんかないから!」


 裕太は興奮してフシュフシュと喉を鳴らして叫んだ。そんな裕太を白銀がなだめた。


 「裕太、落ち着いて。震えているよ?」


 「・・・ ・・・フシュ・・・ ・・・だってタイガさんが・・・ ・・・フシュッ・・・ ・・・」

 
 ハリネズミの小さな耳も尻尾もピンと立ってタイガを威嚇した。裕太は容姿で甘やかされていると判断されたようだ。確かに裕太の容姿は可愛く華やかで愛らしいが、だからこそ客の欲望を刺激させ酷い扱いをずっと受けていた。小さい頃の裕太は甘えっ子だったが、ずっと妓楼で甘えられる様な時は無かった。


 「・・・ ・・・なんで君はそんなに裕太に突っかかるんだ?裕太のファンなんだろ?好きなんだろ?」


 「・・・ ・・・それはそうだけどよ・・・ ・・・」


 タイガが消えそうな声で答える。


 「君も好きな子をいじめちゃうアレか?他の客と同じじゃないか」


 「・・・ ・・・なんか白銀が言ってもあんまり説得力ないよ・・・ ・・・」


 裕太は白銀に思わずツッコんでしまったが、白銀は白銀で元はお客なので、ついつい口を挟んでしまった。しかし白銀は、他の客とは違う。裕太を大切な『ひと』扱いして、宝物の様にして裕太に接し続けた。


 「タイガさんは、ぼくのこと好きでいてくれたの・・・ ・・・?」


 「〜〜あぁ、そうだよ、お前に惹かれてたよ!雑誌で見つけて、同じ『干支シリーズ』だって喜んでたのに、店に行ったら身請けされたって・・・ ・・・しかも相手は大富豪だろ?なんか同じなのに同じじゃないような気持ちになっちまって」


 タイガはぽつりぽつりと話しはじめた。


 「タイガさん・・・ ・・・ぼくを同じ『干支シリーズ』の仲間って思ってくれてたんだね・・・ ・・・」


 「・・・ ・・・仲間っていうか、下心しかなかったけどさ・・・ ・・・」


 「えっ⁉」


 裕太はフシュフシュ威嚇がおさまってきた様で、白銀から少し離れようとした。しかし白銀が裕太を腕の中にすっぽり隠すと離してくれなかった。


 「ほら、デパートで見たときもだけど、お前ら凄いいちゃいちゃして・・・ ・・・腹が立つ位に仲が良くて・・・ ・・・」


 「そんな・・・ ・・・ぼくと白銀は・・・ ・・・白銀は・・・ ・・・」


 裕太が言葉を濁すと、白銀が面白いものを見つけた様に笑った。


 「裕太、いい加減素直になれよ」


 「・・・ ・・・うっ・・・ ・・・‼」


 裕太はまたフシュフシュ音を出しながら、白銀の漆黒の瞳を見つめて応えた。


 「し、白銀が・・・ ・・・す、好きみたい・・・ ・・・っ」


 恥ずかしくなって、裕太の顔は真っ赤だ。それを嬉しそうに眺める白銀。そんな二人を見て、タイガは馬鹿馬鹿しくなったようで、


 「〜〜〜とにかく悪かったよ!もう邪魔はしないよ‼とにかくお幸せになっ!」


 二人の熱気に当てられたタイガ。白銀はタイガをひっ捕まえて警察にでも突き出してやろうと思っていた。しかし、『干支シリーズ』の半獣が刑務所暮らしとなると、何かと襲われたり身の危険が多くなってしまう。それを見越して、タイガ自身が改心してくれる事を望んだのだ。
 

 タイガはは二人の熱気に呆れてしょんぼりと帰っていった。タイガのホワイトタイガーの綺麗な耳と尻尾が差が下っていて台無しだった。白銀は裕太と目を合わせると、


 「嬉しいな、裕太の告白」


 と言ってにやりと口角を上げた。


「それは言葉のあやで・・・ ・・・んっ!」


 白銀が裕太の唇を貪った。分厚い舌を絡め、裕太も無意識に舌を差し出した。


「・・・ ・・・んっ・・・ ・・・」


「・・・ ・・・はぁ・・・ ・・・っ」


 お互いに顔を見合わせる。思いが繋がった後のキスは、より一層甘かった。