1、綺麗ごとじゃない青春のなかで




●青春なんて、消えてしまえ


 すでに失敗だらけで、
 もう、嫌で、嫌で、嫌で。
 陽キャに憧れながらも、陰キャ沼にハマる。

 そんな私の青春は、
 10代のまま、脈を打っても、
 姿見で見る私は、儚さを(まと)ったままだよ。

 賞味期限ギリギリの少女時代が、
 あと少しで終わる今、
 これから先、どうすればいいのか、
 ビジョンを白いシーツの上で、今日も思案する。




●汚れたままでもキラキラしていてほしい

 
 汚れたままでもキラキラしていてほしい。
 幸せについてなんて、
 まだなんにもわからないけど、
 ただ、毎日をギリギリで続けているだけだよ。

 夕日よりも、月のほうが好きな私だから、
 不安を抱えたまま、月明かりに、そっと手を伸ばす。




●真空ROMした、ちっぽけな私


 古いブラウン管のiMacのボタンを押し、
 カタカタの読み込み音を聞く、深夜。
 若い癖に、もう、色させたみたいに、
 今がものすごく生きづらいんだよ。

 誰あてでもない手紙を、
 ネットに接続されていない、
 ROMにデータ化する。


 

●嘘で塗り固めないと、自分を保てない君へ


 嘘で塗り固めないと生きていけないんだよね。
 そんな君の嘘は人のことを考えて過ぎている嘘なんだよ。

 だけど、気がついて。
 君のことをわかってくれる人は君自身だってことを。
 だから、もう、嘘つかないようなところを見つけて、
 自分らしさのゆりかごに少しだけ近づいてみてほしい。

 もっと、自分勝手に。
 強く、強く。




●壊れそうだよ


 壊れそうだよ。
 想定していた未来が描けなくて。
 怖いんだよ。
 相思相愛が存在しないから。

 絡まった爆弾のコードを、
 冷静に治し、適切な線を切るように、
 慎重に人生を進んでいたはずなのに、
 どうして、上手くいかないの?





●風呂キャンが市民権を得ても


 風呂キャンが市民権を得ても、
 面倒を押し付ける社会はあまり変わらないね。
 毎日が嫌なニュースだらけだから、
 とりあえず、レモンキャンディを、口に入れて、
 熱暴走したスマホを再起動する。





●現状維持ディストピア


 ディストピアのなかで、
 どうすることもできない二人は、
 逃げる選択を続けて、諦めない映画を見たよ。

 現状維持バイアスを疑い始めた瞬間、
 人生って、初めて自由になるのかなって、
 そんなことを考えながら、
 ネトフリのおすすめが気になって、
 ソファで寝転がりながら、選択ボタンを押す。


 


●ロマンスを乞い、最上級のきゅんを求める


 愛されたいって、
 叫びたくなって、
 結局、そんなことなんて、
 このワンルームの中じゃできないよ。

 だから、モヤモヤした気持ちに、
 きゅんを少しだけ入れるために、
 推しのライブ配信を右手の人差し指で、
 そっと、タップした。




●深夜の住宅街の風は微温かった


 最悪な日になった今日、
 自分が無価値でちっぽけに思えたよ。

 泣き腫らしたあとに出る深夜の住宅街は、
 いつものように薄暗くて青く見えるね。
 こんなに暗いのに、ほんのりと、
 南風で春をかすかに感じる。

 最悪が冷たい青で、
 最高が温かい赤なら、
 誰だって、赤い方の蛇口をひねるよね。

 今のこの気持ちは、
 それくらいシンプルなことだってことくらい、
 わかっているよ。




●私を保てないよ


 保てないよ。
 一般常識とか、ルールのなかで私を保てないよ。

 自分を出した瞬間、
 刺さる視線、冷たい言葉、
 そういうものがすごく嫌になったんだ。

 ルールだから、
 そういう決まりだから、
 それだけじゃ、私のなかでは理由にならないよ。

 綺麗な言葉で自分を着飾ったもん勝ちの社会じゃ、
 いくらレベル上げしても、
 私がちっぽけに思えるよ。

 だから、無い天井を理想とする社会から、
 そっと、離れられるように、
 私が私であれるように、
 今日から、TikTokを始めてみたよ。
 
 偉いね、今日の私。





●承認欲求エフェクト


 承認欲求の塊で何が悪いの?
 愛し愛されることと、
 愛し合いされたいことの違いはなに?

 承認欲求をバカにする風潮は、
 平均点ばかりを気にする人たちの特徴じゃない?

 真ん中にいることが、そんなにいいことなの?
 普通とか、常識の真ん中にいることが、そんなにいいの?

 じゃあ、平均より下は落ちぶれているとか、
 見下している時点で、あなたの承認欲求は満たされているよね。
 
 そんな世界、大嫌いだから、
 自分は承認欲求を素直に認めて、
 今日もエフェクトをかけて自撮りをする。





●革命チークとリップ

 
 革命なんて、大富豪だけで十分だよ。
 180℃世界が変わったあとは、
 また、180℃回って、
 結局、もとに戻るんだからさ。

 そんなもの、チークとか、リップとかの
 流行りと変わらなくない?

 そんなことより、
 今、まさに身近で、
 自分のことをバカにする存在が、
 リップを塗るだけで、
 すっと、目の前から消えて欲しい。

 その方が、私の幸福度に革命が起きるから。

 



●ギリギリで優しいを維持している


 ギリギリすぎる毎日を笑顔で誤魔化して、
 「優しいね」の第一印象を維持している。

 だけど、本当の自分は、
 こんなことで笑わないし、
 人間関係のコツは、愛想よくってことを知っているから、
 自分のことなんて、二の次にして、
 どんなことも、ポジティブに反応する。

 そうすれば、自分のまわりは明るくなると信じていた。
 だけど、思った以上に自分への違和感が拭えなくて、
 結局、今日も、ベッドの上で静かに泣いている。




●いろんなことがあるけど


 マシュマロを溶かし、クッキーをまぶして、
 四角く型どるように、君は真面目で優しいよね。

 君と二人で、雪がちらつくなか、
 バス停でバスを待っていると緊張するよ。
 その緊張で、君のことを
 友達以上に思っているのが伝われたばいいのに。
 そう思ってたら、綿雪がどんどん空から落ちてきた。




●バスミルクに優しさを


 Spotifyで大好きなラブソングを流しながら、
 今日もゆっくりお風呂に入るために、
 バスタブを洗っているよ。

 泡を綺麗にシャワーで流し切り、
 給湯ボタンを押した。
 まだ水深が浅いバスタブにバスミルクを入れ、
 服を脱ぎ、白くした世界にそっと足をつけた。




●世紀末に流行った曲を歌いながら
 

 情報弱者だっていい。
 情緒不安定だっていい。
 情動中毒だっていい。
 
 SNS中毒者で溢れた社会だから、
 スクラップの情報だらけで、
 息苦しいよ。

 だから、自己肯定感をMAXにするために、
 今日も、世紀末に流行った曲をカラオケで歌い続ける。
 
 


●優柔不断少女


 夏になると冬が恋しくて、
 冬になると夏が恋しい私は、
 ものすごく優柔不断で、
 そのなびきやすい性格は唯一自慢できるよ。

 去年の夏の終わりに、
 スーパーアウトレットセールで買った、
 白いTシャツを着て、
 エアコン強にして、
 雪見だいふくをゆっくり味わう。




●幸せになってね

 
 幸せになってね。とか、
 そういうことを誰かに囁いてほしい。
 
 だけどね、
 もう、それを聞くこともできないくらい、
 最近、頑張れないんだ。

 どうせ、上手くいくでしょ。と、
 どうしようもならないよ。が頭のなかで繰り返すから、
 自分と関係ないことを考えるために、
 SNSを開き、情報の海に潜り、逃避を始める。




●青春を卒業する日


 賞味期限間近の制服姿でプリを唯一の親友と撮る。

 親友とは、青春なんて消えてしまえばいいって、
 いつも屋上で話して、
 春の憂鬱な曇り空とか、夏の爽やかな青空とか、
 秋の高く澄んだ青空とか、冬は閉鎖された屋上のロープを一緒に見たり、
 決まりとか、ルールとか、四季とか、
 そういうことについて、ふたりきりで深く話し合った。

 そして、3月になった今日。
 「不適合な青春だったね」と言って、
 加工された自分たちの顔を見て笑いあった。
 




●綺麗ごとじゃない青春のなかで


 綺麗ごとじゃない青春のなかで、
 嘘や裏切りばかりで、
 本当の自分がなくなってしまったみたいで、
 生きる意味とか、将来の夢とか、
 問われても、何もわからないよ。

 とにかく、休みがほしい。
 飽きるくらい。
 とか言っても、休みなんてくれないのが、
 青春だから、自分の中から、少しでも嘘を減らして、
 なんとか、今をやり過ごしたい。








2、メビウスの輪をヘアバンドで作った





☆メビウスの輪をヘアバンドで作った



 メビウスの輪をヘアバンドで作った。

 テーブルに宇宙ができた瞬間、
 彗星が最接近するニュースが流れた。

 オレンジジュースを飲んで、
 何も考えないで輪を見る。

 今、目の前に飛び込む情報に惑わされて、
 興味もないのに星を探しに行きたくなった。

 もう少しだけ、流されない軸が欲しい。






☆グズだと思わないで欲しい


 「調子悪い日は、大人しくしたらいいよ」

 そう言って、君はマグカップを手元に置いた。
 コーヒーの香りが立ち、
 香ばしい甘さが空気を凛とさせた。

 頭がまわらないけど
 グズだと思わないで欲しい。
 そう思い、コーヒーを一口飲んだ。

 礼を言うと、君は微笑み、
 そっと部屋を出ていった。




☆先なんてわからないから


 深くなった緑のゆらめきを
 バルコニーから眺めている。

 煙草がもうすぐ燃え尽きそうだ。
 フィルターぎりぎりまで、
 吸うのは身体に良くないけど、
 そのまま吸っていたい気分なんだよ。

 先なんてわからないから、
 今を生きるだけだけど、たまに辛くなる。

 吸い終わってすぐ、
 遠くで踏切が鳴り始めた。







☆好きで大人やってるワケじゃない



 秋雨がガラスを打ち付けている。
 日が短くなったから
 すでに街灯が目立ち始めている。

 カフェの中は変わらず大人しくざわついている。
 Mac bookの画面は何も変わらず、
 コーヒーだけが減っていた。

 別に好きで大人やってるワケじゃないんだよ。

 キーボードで打ち込んだ後、
 deleteを連打した。





☆寄り添うだけで十分なのに


 冷たい雨に打たれた。
 今日もずぶ濡れで玄関の電気をつけた。

 ぶどうの美味しい季節に
 なぜか、馴染めなくて、
 毎日が憂鬱で締め付けられる。

 秒針が常に回り
 気持ちだけが置き去りにされる。

 この世界は、寄り添うだけで十分なはずなのに。
 実際は殺伐としている。
 時間がないのはなぜ?




☆雨の水曜日にさよならを告げる

 雨の水曜日にさよならを告げる。
 深夜の公園は雨がしとしと降っていて、
 水瓶の中のように暗く湿っていた。

 雨の夜中にさよならを告げたい。

 深夜の公園は自問自答に最適で、
 ここで未来を決めては
 明るい希望を作る。

 どうして生きるのって、
 こんなに面倒なんだろう。

 頬に雨粒があたった。





☆もし、過去に行けるなら


 秋雨が空想を曇らせる。
 冷たさが切なさを作る。

 自問する帰り道
 責める声が脳内で反響する。

 ビニール傘の下は雨音が鈍く響いている。
 
 もし、過去に行けるなら、
 臆病を超えたい。

 このまま沈むように
 青く深いところまで連れて行ってくれない?

 そしたら、答えが見つかる気がするから。




☆もっとを求めて


 大型旅客機が轟音を立て
 夜空に赤白を点滅させ
 頭上を飛んでいった。

 公園をランニングしている。
 涼しい風を背に受け、呼吸を一定にする。

 いくつもの白い街灯をくぐり
 ゆるいカーブを駆け抜ける。

 もっと、スマートでありたい。
 だけど、そうあれない。
 だから、弱いんだよ。

 息が切れた。








☆自由を求めて


 自由になりたいから、
 真夜中のコンビニで、
 濃厚バニラといちごパフェとモンブランをかごに入れた。

 時計の針は回る。
 すでに頭の中は鐘が鳴る。

 今日も上手く行かなかったことを
 忘れ去るために自分に魔法をかけたい。

 最高にとろける甘さの向こうにある
 明日の現実を思うと、
 ため息が出た。



☆朝、起きたら君がいないみたいに


 朝、起きたら君がいないみたいに
 秋雨が街を灰色にしていた。

 起きてコーヒーを淹れた。
 昨日、閉店前のパン屋で買った
 クロワッサンと一緒にデスクに持っていく。

 iMacを起動し、
 クロワッサンを食べる。
 低血糖で見た夢は、
 一人で箱の中に閉じ込められていた。

 しぶきが窓を溶かすように濡れていた。








3、青春の振り子が揺れる


 
☆君は魔法使い。


 雨が降り続ける夜の街を
 君と一緒に歩くと、
 なぜか憂鬱がファンタジックになるよ。



☆時間は平等。


 つらいときは泣いてもいいよ。

 どんなことがあっても、
 平等に時間は流れるから、
 時がすべてを溶かしてくれるよ。



☆もっと、君を受け止めたい。


 冷たい潮風で君が揺れる夕暮れは、
 どうして、君のことを
 泣かせようとしてくるんだろう。

 切なさで濡れた頬を
 さあ、拭って。





☆忘れないよ。


 突然の雨の所為で二人とも
 びしょ濡れになったけど、
 これだけは覚えておいてほしい。

 僕は濡れた君のこと、忘れないよ。



☆夜は静かだから、君といると落ち着く。


 月の明かりの下で、
 二人で手を繋ぎ、アイスを買いに行く。

 君と僕はなんで似ているんだろうって、
 君に聞いたら、
 君は当たり前じゃんと答えてくれた。



☆ループして揺れる。


 嫌われたくないから、
 普通を装っているけど、
 もう、限界かもしれない。

 普通がわからないから。




☆君への思いは重くて苦い。


 君の心の中の迷路を知るために
 今日もiPhoneに君への思いを綴り、
 アイスコーヒーを飲み、
 苦味を味わった。




☆甘いまま大人になりたい。


 大人になるには、
 苦味を知ることが重要だよと、
 君に言われて、寂しくなった。

 だったら、私は少女のままでもいいや。




☆あなたは優しいけど、遠い。


 あなたは、最高に夜の淵が似合うね。

 たまに遠い目をしているあなたは、
 自分のことで精一杯なのかもしれないね。

 ただ、これだけは言わせて。
 私はあなたを必要としているよ。





☆君を閉じ込めたゼリーをスプーンで掬う。


 君のすべてを知る必要なんてないけど、
 君のつらかった過去を
 透明な炭酸ゼリーに閉じ込めて、
 すべて受け止める自信はあるよ。





☆記憶を消したい。


 クリームブリュレをそっと、
 スプーンで叩くアメリのように、
 消せない記憶を割りたい。




☆あの日の約束のことを、きっと、君は覚えていない。


 日々の憂鬱を取り除くために、
 戻れないあの日の
 塩素ナトリウムの香りを思い出し、
 果たせなかった君との夏の約束を思い出した。



☆君は100%だった。


 花びらが落ちていくのを見ていると、
 なぜか君のことを思い出して、
 涙が溢れちゃったよ。




☆君に好意を伝えたい。


 最高すぎて君しか見れなくなったって、
 伝えたいけど、
 きっと重くなるだろうから、
 優しさの印に、
 レモンキャンディをひとつあげるね。



☆君にはお見通しだった。


 大丈夫じゃないときに、
 大丈夫って言えるほどタフじゃないから、
 いつも笑って誤魔化しているけど、
 君はそのことすら、わかるんだね。



☆ひび割れた水色をパテで埋める。


 泣いてしまいたいのに、
 日々は氷が元に戻るように過ぎ去るから、
 置いていかれている気分だよ。

 心の痛みが過ぎ去るまで、
 あとどれくらいかかるだろう。






4、幻の青春を見たかった



●君は夏の幻だった。

 心の傷が癒えないまま、
 大好きな季節がそろそろ終わりそうだ。

 笑いあったあの時がすでに遠く感じる。
 葉の色は深くなり、
 色づいたときには忘れられるかな。

 長い間、公園のベンチに座り、
 微温い憂鬱に浸り続ける。
 考えがまとまらない日々を終わらせたい。
 
 自分の中の時空が歪み言葉を思い出す。
 優しさの数だけ涙が溢れてしまうのは、
 どうしてだろう。
 



●常にいろんなことが変わっていくけど、このまま変えたくないこともある。

 朝なのに蒸し暑くなったのは、
 それだけ季節が進んだ証拠で、
 一年の中で最高に青が美しい。

 アイスコーヒーに映る電球色は
 ほっとできる環境にいる証拠で、
 何よりもこの時間を大切にしたい。

 時はこうしてゆっくり進むけど、
 変わりたくない気持ちは残される。

 一口飲んで、やっぱり少し苦いから、
 クリープを入れて、白い渦を作った。





●すっきりしないから、光が射す方に自然と歩みたくなる。

 もっと楽しいことを求めて、
 曇った空に右手を伸ばして、
 意識的に頭を空にする。

 水晶から世界を見るように、
 ガスで煙る朝を軽くしたい。

 もし、願いが叶うとしたら、
 ファンタジックな世界で余生を送ってみたい。
 
 大好きだった出来事をビーカーに入れて、
 世界に彩りを加えたい。





●夏は雨と晴れ。いつか止むけど、今すぐ止む魔法はない。

 プールに降り注ぐ土砂降りを教室から眺めている。
 揺れる水面は心と表裏で、憂鬱な恋みたいだね。

 このまま雨に打たれて、
 胸の痛みを溶かすのもいいかもね。

 イヤホンから大好きな曲が流れている。
 机に頬杖をついて、ため息を吐いた。

 きっと、上手くいくよ。

 耳元でそう言われて、
 憂鬱な恋が叶うかもと、ふと思った。





●レモン色が夏を酸味で盛り上げてくれる。

 泣きたいなら泣けばいいんだろうけど、
 こういうとき、都合よく涙が出ないのはなぜなんだろう。
 
 ようやく夏が来たから、
 レモンをかごに入れて海に行きたい。 
 
 酸味ですべてを忘れられるように、
 ソーダにかき混ぜてしまおう、不安な未来を濁して。

 いつも黄色を愛せば、未来が切り開ける気がした。







●朝の決意がずっと続けばいいのに。

 コンバースの紐を結び直して、かがんだまま前を向く。
 堤防や川辺は今日も静かに生きているのを感じる。

 まだ、人通りが少なく、
 朝は少しだけ冷たくて、
 普段の憂鬱なことなんて、
 口の中で溶けたキャンディみたいに
 甘くなくなるように思える。

 今日は楽しく行きてやるって、
 心のなかでそっと決意した。




●豪雨に打たれて、歩くのには強い精神力が必要。

 土砂降りに負けそうだから、強いハートが欲しくなった。

 夏は気まぐれで、
 たまに嫌いになるけど、
 早く過ぎ去ればいいのにとも思えない複雑な自分に嫌気が差す。

 口に含んだキャンディは、今、ゆっくりと口の中で溶けている。

 レモンの酸味を雲に加えるだけで、
 雨なんて消えたらいいのにって思った。




●あの夏、大好きだった君と雨に打たれたのを思い出した。

 夏の雨に打たれたくなる衝動は
 淡い思いを思い出すからだ。

 優しかったあの言葉は時が経つにつれて、
 憂鬱色にどんどん補正せれていく。

 大好きだった偽りがなかった気持ちは、
 アイスコーヒーの氷みたいに消えて、
 薄くなった苦味と風味が残った。

 どんどん過去に置いていかれそうだから、
 今に集中して、
 君のことなんて、忘れてしまいたい。




●信じることができる安定さは、イリュージョンかもしれない。

 雨の金曜日だから、
 黒い下地に白の水玉模様の傘をさした。

 明日は君と過ごす時間がこのまま続けばいいと、
 思える日になるのは約束されているから、
 今日も混雑する地下鉄に乗れそうだね。

 好きなままでいれることが幸せで、
 不安定さはわからなくなった気がする。

 マラカイトの深い緑のように、
 悪い魔力を跳ね返し続けたい。




●世界が透明になれば、君はもっと息がしやすくなると思う。

 屋上から街を見渡しながら、
 君と手すりに寄りかかり、
 理性と知性の違いや、
 愛情と温情の違いについて、
 結論のない話を永遠としている。

 君は通り雨みたいに透明だから、
 脆いガラスみたいに大切にしたい。

 青空を見ると、
 白い2本の線を描きながら、
 ボーイングが真上を通り過ぎていった。

 横にいる君の表情を見ると、
 君は静かに泣いていた。




●雨の朝はセンチメンタルで、深い傷跡がズキズキする。

 ありきたりな悩みを、
 捨てて飛び出すには過去を忘れる努力をしなくちゃ。

 カフェの外は今日も雨でガラスに濡れる透明の絵の具は、
 センチメンタルで街を覆っている。

 午後から晴れる予報を信じられないくらい、
 疑い深い今の自分に嫌気がさすけど、
 滲んでしまった気持ちを
 コーヒーとトーストで胸にしまって、
 外でやり過ごす準備をしよう。




●朝の電車は日常を整えてくれる。

 電車はいつもの橋を通過している。
 旭で輝く大きな川は今日も穏やかだ。
 ドアにもたれて、景色を見ながら、
 イヤホンから流れるお気に入りの曲で
 今日も憂鬱とさよならしよう。

 君がいない毎日は彩りに欠けていて、
 退屈な毎日を繰り返しているよ。

 ジンジャエールの辛さのように
 すっきりした日常は無理みたいだから、
 たまに涙もろくなるの。
 
 昔にトリップして、
 今を忘れそうになる。
 だから、前を向くしかないんだよ。




●たまに君の表情を思い出すと青い気持ちが瞬間的に蘇る。

 アイスコーヒーに入れた
 クリープは流氷の欠片みたいに
 表面に渦を作っている。

 赤いストローでかき混ぜながら、
 朝の憂鬱も一緒に溶けてくれたいいのにって思った。

 一口、含むといっぱいの苦味が広がり、
 そんなのを一瞬で忘れさせてくれる。

 数年前の君の微笑みを思い出した。
 泣いているようなその笑みは、
 その日、世界で一番美しかった。



●今、息ができないのは過去が重いから。

 カフェのオープンテラスで、
 このままゆっくりしていたいけど、
 季節は確実に巡ろうとして、
 最高の季節がもうすぐ終わってしまう。

 白いパラソルの下、影の中で一人、
 ソーダ水の先に広がる海をぼんやり眺める。

 置き去りにされた一瞬を
 ふと思い出して、
 少しだけ苦さを感じた。

 もし、マシュマロのような
 ふわふわとした気持ちを抑えられていたら、
 もう少しだけ、息がしやすくなったのかも。

 そう思うと、辛さが胸を占める。
 だから、このまま、
 憂鬱をソーダ水に混ぜたくなった。





●次は休日に会いたいな。

 昨日のバイバイが朝になると、
 リアルになるのは現実が来るからで、
 とりあえず、カフェで身体を馴染ませるよ。

 コーヒーの友のクロワッサンをかじるとサクサクしていた。

 前髪を一度かきあげたあと、
 ふと、思い出した。

 昨日の夜、楽しかったと、LINEで伝え忘れていた。

 遅れてごめんね 
 昨日はありがとう
 楽しかったよ
 来週はずっと一緒にいたいな 

 と、打ち込み、
 数秒見つめたあと、
 最後の1行だけ消して、送信した。








【初出】

 1章
 完全書き下ろし

 2章
 蜃気羊X(@shinkiyoh)
 https://twitter.com/shinkiyoh
 2021.9.1~10.31



 3章
 蜃気羊X(@shinkiyoh)
 https://twitter.com/shinkiyoh
 
 2023.5.27~7.21


 4章 
 蜃気羊X(@shinkiyoh)
 https://twitter.com/shinkiyoh
 
 2022.6.1~8.31