空は不穏に染まっていた。そのさなかに立ち、青年、刀誓は鬼の来る時を待っていた。
「結界はまだか!」
 あたりは緊迫している。悲しみに嘆く声を、上役が叱咤する。
「なにも考えるな。われらは使命を果たすのみ」
 その声も過剰なほどに厳しい。あたりは悲壮に満ちていた。
 そのとき、ぴい――と笛の音が届く。つめたく辺りを裂き、その音は、前線に立つ刀誓たちのもとに届いた。
 刀誓は、槍を一度ふるい、構えた。笛は、準備あいなったとの、結界師からの合図だ。
 朗々とした歌が、足元より響き渡る。幾筋もの光が、のぼり、光の壁となり、青年たちと地上を隔てる。これにて、準備はあいなった。あとは待つのみ。
「来たぞ!」
 待たずして、空の奥がうなる。そして、鈍色の空が、ひずみ、ひびが入る。そうしてひずみは口を開きだした。そこから禍々しい光が走る。それは稲光に似ている。
 ひずみの口が開いた。その向こうで。
 ――やわらかな、衣の袖がなびく。
 そうして音もたてずに、ゆらり舞のように、鬼は、その姿を現した。
 それは美しい、ひとりの少女の姿をしている。肌は鬼の証に、妖しい光を放っていた。周囲に悲痛な動揺が走る。ただ一人、刀誓だけが、まっすぐに見据え、彼女に武器を構えていた。
 少女はふらりと手を伸べた。扇をのべるかのごとくの動き――そして、その口唇は異形の咆哮を上げる。舞うように飛びかかる少女と、刀誓は、対峙する。そして、二人は打ち合い、戦い始めた。
 それは、息の合った二人舞いのようであった。誰にも入ることなど許されない。
 ひらり、少女の胸に下げた、赤い宝珠が翻る。その輝きに、刀誓の目の奥に、悲愴が浮かぶ。
「茅根――わが妻よ。今、楽にしてやる」

 そうして、彼の切っ先は――鬼の少女の胸を貫いた。


 ◆

「龍城の若様、朝です。起きてください」
 茅根は、布団の丸みに声をかける。
「刀誓様」
 返事はない。何度繰り返しても、同じである。茅根は少々困り果てた顔をして、それに手をやった。
「兄様」
 次の瞬間、にゅっと手がのび、思わぬ早業で茅根を布団にひきこんだ。
「きゃっ!」
 温みに包まれ、茅根は顔を真っ赤にした。頭の上で、笑う声が聞こえる。茅根は焦りと恨めしさに、「兄様!」と、とがめる声をあげた。
「おはよう、茅根」
「ひどい、起きてらっしゃったんではないですか」
「なに、油断しているようだから、兄は心配でな」
 青年――刀誓は、笑いながら身を起こした。寝起きの鈍りなど一切感じない。そうして、さっと身を離される。
 そのからりとした様子に、茅根は身勝手に切なさを覚える。かぶりを振って、立ち上がる。
「朝餉の支度をしてまいります」
「なんだ、つれないな。兄はさみしいぞ」
「……もう、子供ではありませんから」
 茅根は、ぎゅっと手を胸の前に組み合わせ、足早に去っていった。その後ろ姿を、刀誓は見送る。はだけた胸元に、赤い宝珠が揺れていた。

 ◆

 もう十六。茅根が龍城の家に引き取られて、すでに十年が経とうとしていた。
 茅根らは、人を脅かす鬼を討つ「導手」の一族である。導手は前線で鬼と対峙し討つ「祓鬼師」と、後衛で結界をはり、援護する「結界師」からなる。その他にも多くのお役目はあるが、大きな役割としては、この二役が双璧を成した。
 茅根は結界師としての名家である遠森家の次女として生まれたが、母がたいそう難産で産後の肥立ちも悪かったため、厭われていた。
 小さな離れに乳母と二人きり、教育も与えられず住まわされた茅根を、見つけたのが訪ねてきていた刀誓であった。
 刀誓は龍城家の後継たる「若様」であり、龍城は祓鬼師の筆頭である。
 刀誓はすぐに、茅根が遠森の血を引いていることを察した。そして茅根のおかれた立場に憤り、遠森とやりあった末、引き取ってしまったのである。
「名前はなんという?」
 茅根は、あの日のことを、忘れたことはない。
 やせぎすの自分の手を取り、じっと顔を覗き込んできた、明朗な笑みを浮かべた少年。彼はまだ齢十であったが、その手はすでに武器を握る者らしく硬かった。
 龍城の家に来て、わからぬことばかりで、怯える茅根を、刀誓は笑って励ましてくれた。
「大丈夫だ。これから、私がお前の兄になろう」
 そう言って、何もかもを与えてくれた。結界師としての教育も、人としての喜びも。そして、恋心も。

「いただきます」
 膳に向う刀誓を、茅根はそっとうかがう。その胸には、いつものとおり、美しい赤い宝珠のお守りが下げられている。
 刀誓が下げるそのお守りは、彼がいまだ、心に決めた相手がいないことを示していた。それは、龍城家が代々、生涯をともにするものに贈る誓いの宝珠だからだ。
 刀誓の父である現当主の刀心も、妻である鞘花に贈り、そして刀誓が生まれ、彼が後継と決まったときに、受け継がれた。
 刀誓が、それを手離すとき。それが、彼が生涯を共にする相手を選んだときだ。
 そして、自分が、刀誓の傍から離れるときだ――茅根は静かに思う。
「茅根、私は後継ゆえ、いずれ妻をとる。しかし、お前は変わらず私の妹だ」
 それが、刀誓の口癖であった。
「だから安心して、ずっと私の家にいなさい」
 茅根は初めて聞いたとき、嬉しかった。ずっと兄様の傍にいられる、そう思ったから。
 幼かった。今はそう思う。悲しく切なく思うようになったのは、茅根が少女となり、刀誓に恋したからであろう。
 刀誓はもう二十歳になる。いつ妻を迎えても、おかしくはなかった。
 刀誓は、きっとずっと茅根を気にかけてくれるだろう。妹として、ずっと、遇してくれるだろう。
 けれども、それは茅根にはとても悲しく、苦しいことだった。
 政略結婚が主である導手の一族のなか、恋愛結婚を許される数少ない家が、この龍城だ。そして、龍城の当主は、代々、激しい恋の情熱をもって、宝珠をささげてきた。
 そのような方を傍においた兄様に、守られることに喜ぶことができるほど、もう茅根は子供ではなかった。
「茅根、どうした」
 刀誓が、こちらを見ていた。茅根は、「なんでもありません」と笑った。このように、若様の朝餉に付き合うことが許され、なんとありがたいことだろう。この朝を、茅根は、最近指折り数える。
 兄様が、宝珠をささげたならば、私はきっと、この家を出ていこう。
 そして、これからは一人の結界師として、育てていただいた恩を、精一杯返していこう。
 刀誓の顔をじっと見つめながら、茅根は誓うのだった。

 遠森から、使者が来たのは、まもなくのことであった。



「縁談、にございますか?」
「ええ」
 龍城の奥方である鞘花は、頷いた。書状を手にした彼女の美貌に、押し殺された不快が浮かんでいる。
 そうして、鞘花は茅根に、書状の内容を伝えてくれた。それはかなり遠回しに、茅根の心を傷つけまいとする気遣いが見えた。
「ああ……」
 茅根ははじめ、なんと答えていいかわからなかった。目の前の優しい奥方の心を、一番慰められる方法がすぐに浮かばなかったのである。
 
 要するに、こういうことらしい。
 遠森家の長女――茅根の姉である実咲はこの間、婿をとった。それが頭領筋のやんごとなき身分のお方だったゆえ、さすが五名家の遠森と、たいそう華やかな知らせとなったのであるが、この度めでたく実咲は身ごもったらしい。
 それで、その子に後顧の憂いなく、全てを継がせてやりたいので、茅根には嫁に行って出ていってもらう。そう書いてあった。
 いま、龍城の家に世話になっている茅根だが、いまだ遠森の籍にいる。それは、「万が一のことがあったときの保険」として、頭領じきじきの命であった。
 遠森としては、龍城に出張られ頭領からお叱りを受けた上に、籍は抜けないなどという不愉快千万の目にあい、茅根をいっそう疎んじた。
 なので、それは茅根にとっては、「それは私がいてはお邪魔だろう」と思うことなのであるが――自分を案じる者の前で、それをするのは無神経にもほどがある。
「奥方様、私の為に御心を痛めないで下さい」
「茅根ちゃん」
 結局そのままの気持ちを、言葉に表すことにした。頭を下げて、礼を言う。鞘花は、悲しげに目を伏せ苦笑する。すっと流した目はこんな時でも美しい。
「あなたに気遣わせては世話がないわね。単に、私が気に食わないだけなのよ」
「奥方様……」
「あなたのことは私たちが守りますから、好きになさい。そう言いたかったのよ」
 優しく笑まれ、茅根はじんと胸が温かくなる。自分はなんと人に恵まれたことか。頭を下げて、礼を言った。
 部屋を辞して、茅根は廊下をゆきながら、そこでようやく顔を苦悩に曇らせた。
 縁談。
 いつかはくるとはわかっていた。しかし、いつかはいつかであると、ずっと目を背けていた。
 刀誓が妻を迎えるならば、自分もまた嫁ぐ。導手に生まれた以上は、婚姻は必然なのだから。
「そうだとしても、私は……」
 兄様のことが好きだ。兄様だけを思って生きていたい。そのようなことは許されないとしても、それが今の茅根の正直な願いであった。
 鞘花は好きにしてよいと言ってくれたが、そこまで龍城にお世話になるわけにもいかない。自分はここを、出ていくと決めているのだから。肩を落として、茅根は今後のことを思い、重い息をついた。



「茅根。縁談の話が来たとは、まことか?」
 刀誓に尋ねられたのは、その日の夜のことであった。夕餉を終え、腹ごなしの修練を終えた刀誓が、行きがかった茅根にそう聞いた。
 茅根は、とうとう聞かれたと、内心頭を抱えた。それでも同時に、知ってほしい気持ちもあり、複雑な心境を抱いていた。
「はい。遠森家からそうお達しがありました」
「そうか」
 刀誓が、顔をしかめる。それが、母親そっくりであったため、茅根はやわらかく笑んだ。
「私が縁談など、なんだか不思議ですよね」
 茅根はそこから言葉を継げなくなった。切ない気持ちでいっぱいになる。刀誓は、「そんなことはない」と言う。
「お前は良い子だ。誰しもお前を連れ合いにしたいだろう」
「兄様」
 まっすぐな言葉に、茅根は頬を赤らめた。胸がとくりと高鳴る。刀誓は、優しく茅根の頭を撫でた。茅根は、期待を込めて刀誓を見上げた。刀誓は闊達に笑う。
「しかし、どの家の妻となっても、私が兄であることは、忘れてくれるな」
 茅根の気持ちが、がくりと落ちたのは、言うまでもなかった。「はい」とどうにか返すと、満足げに笑まれる。そして、肩を叩き去っていった。
 悲しい。何度繰り返されたやり取りだとしても。どうあっても、自分は刀誓が好きなのだ。だから優しい言葉をかけられると期待してしまうし、いつもの自分の思い違いとわかると落ち込んでしまう。
「はあ……」
 茅根はとぼとぼと、湯殿の支度に向かったのであった。



 数日後。
「や、茅根どの」
「石突の若様。いらっしゃいませ」
「いえ、お世話になります。つまらぬものですが、皆で食べてください」
 そう言って、石突の若様は、包みを茅根に手渡した。風呂敷につつまれたそれは、おいしいと評判の菓子屋のものである。いつもながら、親切な方である。彼もまた、遠森、龍城と並び「五名家」と称される家なのであるが、腰が低く気さくであり、下の者にもたいそう好かれていた。
 今日は、親友である刀誓と、ともに鍛錬をしに、訪れたというわけである。
「刀誓どのは、また鍛錬ですか」
「はい。朝餉を済まされてからすぐ」
「まったく、頭が下がりますね」
 友とはいえ、招いた客を出迎えないのもどうかと言う話だが、石突は寛大な青年で、感心して見せた。
 談笑しながら縁側を歩いていると、何やら騒々しい気配がする。
「なんでしょう」
 身を乗り出し、客人よりはやく安全を確かめようとした茅根を制し、石突がすっと身を乗り出した。そして「あっ」と声をあげる。
「刀誓どの!何をしてるんですか」
石突の焦った声に、茅根もまた「えっ」と困惑の声を上げ、そちらへ向かう。
「ああ、寛治。出迎えず失礼した」
「そんなことはどうでもいいですよ、何してるんですか」
「何、腕比べをな」
 刀誓の前には、男たちの山、山、山。うめく彼らは、高く積まれていた。唖然とする茅根をよそに、石突は庭先に下りる。茅根も続いた。
「ああ、ああ、ああ!知った顔の祓鬼師ばかりですね!なんですか、今日はみな龍城に稽古にでも?」
「なあに。彼らは茅根の夫候補よ」
「えっ」
 からりと返されたそれに、声をあげたのは茅根だった。刀誓は、山を見上げ、なんてことのないように言う。そうして、足元にまかれた書状をつかみあげた。
「皆、茅根を欲しいと申し出てきたのでな。私がひとつ見定めてやった」
「はあ⁉」
「き、聞いていません!」
 石突の素っ頓狂な声と、茅根の慌てた声が重なる。刀誓はあっけらかんと答える。
「まだ知らせる必要はないゆえな」
「い、いやいや。それは茅根殿への書状なのでしょう。必要ありますよ」
「ない。私は、私を倒せるものでなければ、茅根を任せる気はないゆえ」
「え……」
 そう言って、刀誓は、茅根をじっと見る。
「可愛いお前の夫だ。誰より強い男でないと許さん」
 その熱い目に、思わず茅根の胸が高鳴ってしまった。石突が、頭を抱える。
「あなたね、自分の強さをわかっていってますか?当代一ですよ」
「その私を打ち倒そうという気概のない男にはやれん」
「あのね……茅根どのが行き遅れてしまいますよ」
 茅根は、期待してはいけない、と思いながらも、その無茶苦茶な理屈に、どうしても心が止められなかった。そんな無茶をおっしゃるということは、もしかして、兄様は自分をどこにもやりたくないと思ってらっしゃるのかしら。
「刀誓どの。そんなに言うなら、あなたが茅根どのをもらうのが一番にございませんか」
 茅根の気持ちを汲んだように、石突が刀誓に言う。茅根は核心を突かれ、真っ赤になった。そしてじっと刀誓を見る。刀誓は、腕組みをして、返した。
 「ふざけるな、寛治。私は茅根を妻にもらう気は、毛頭ない」
 はっきり、あまりにはっきりした声音だったので、平地だというのにやまびこが聞こえそうであった。茅根はがんっと頭を打たれたような衝撃を受け、思わずうなだれた。なんてことはない。以前からわかっていたことではないか。でも、でも。今、このような状況でまで、それを言われると、ダメージは計り知れない。
 刀誓は、茅根の肩を優しくたたく。
「安心するといい。お前にはきっといい男を、兄が見定めてやる」
 あんまりにも朗らかな声音。茅根の目に、じわりと涙がにじんだ。震える手で、「兄」の手を払う。
「兄様の、馬鹿っ!」
 そうして顔をおさえ、茅根はその場を後にしたのだった――。

 ◆
「何故だ」
「あのね、当然ですよ」
 心底不思議そうに、おろおろする幼馴染に、石突はあきれ顔を向ける。
「生殺しにすると言ったも同然ですよ。乙女心を察してあげなさい」
「生殺しとはなんだ」
 本当にわかっていないらしい。石突は頭痛のするこめかみをもんだ。これには、水を向けた自分にも責任がある。もう少し、噛みくだいて、この朴念仁に伝える。
「どうして、そこまで茅根どのをもらいたくないんです。あなたが一番あなたのお眼鏡にかなうでしょうに」
「私が?」
「茅根どのを守れるほどに強く、なにより大切に思ってらっしゃるでしょう」
 石突の問いに、刀誓はすこし憮然として答える。
「それこそ何度も言わせるな。茅根は私の妹だ」
 石突はため息をついた。刀誓は続ける。空は青く澄んでいた。
「龍城のいく道は、修羅の道だ。私は父上――今までの当主のような轍は踏まぬ」
 その言葉には、石突も黙らざるをえなかった。
 龍城の家は、五名家筆頭と言われる強さには、彼らの恐ろしい後継争いに起因していた。
 龍城は強さこそを至上とし、後継とは、龍城の中でもっとも強いものを表す。分家筋でも、強ければ本家を押しのけて後継となるのだ。龍城の家に生まれた子供は、強い鬼と必ずあたる。それは筆頭としての義務でもあるが、後継のふるい落としであった。
 何人もの子供が死ぬ――そして、その修羅の戦いを潜り抜けて、後継となり赤い宝珠の守りをいただくのだ。
 そして、本家の子どもは、死なぬ限り一人しか生まれず、分家筋を黙らせるために、一番危険な任務にばかりつく。
 幸い刀誓は圧倒的な強さで、後継の位を早くに得たが――友として、刀誓を見てきた石突は、彼がどれほど辛い思いをしたか、わかっていた。そして、それは、刀誓が死ぬまで続くのだ。
「恋愛結婚を許された家と、うたわれるが――私に言わせればくだらぬ」
 刀誓は続ける。
「愛するものが悲しむとわかっていて、何故、おのれの修羅の道に引き込む」
「それは、」
「そんなものはエゴだ。私は、千隼や柳陰のように、結婚は互いに情のないものとする」
 石突は、苦い顔をした。たしかに一理があるのかもしれない。しかし、それが本当に、友の幸せなのだろうか。
「茅根にも、必ず悲しい思いはさせない。だから、強い男でなければ認めぬ」
「では、そのお方が本当に表れたら、」
 石突はそう言って、言葉を止めた。刀誓の体から、あまりに強い闘気があふれたからだ。殺気というに近いそれに、石突は丹田に力をいれる。しかし――それは一瞬のことで、刀誓はふっと笑った。
「それは楽しみだ。私の強さもいっそう磨かれるだろう」
 そう言って、鍛錬用の槍を、どんと地にたたきつけた。そして、その場を後にする。泣きながら去っていった茅根を追うのだろう。
 そこまであたりもついて、石突は遠い目をした。どうしたものか、この拗れシスコン。胃痛までしてきて、石突は腹をさすったのだった。


  
「茅根、何を泣く」
「兄様」
 刀誓に引き止められ、茅根は泣き顔を隠した。わかっているとばかりに優しく迎えられた胸に、赤い宝珠が光る。悲しみに胸がつぶれる。
 このままでは、自分はどこにも行けず、この宝珠をささげる瞬間を見ることになる。なんとかしなければ――。
 
 この後、残る五名家の千隼や柳陰までもが、夫の座に名乗りを上げてくることになり、この争いはし烈を極め、石突の胃は痛み、茅根の生殺し状態は増すことを、誰もまだしらない。
 さて、茅根の運命や、いかに。