「この中に柊斗が入ってるなんて信じられねえ」
ソファのまえにあるコーヒーテーブルには骨壺が置かれていた。
部屋には誰もおらず、明智の独り言だった。
葬儀は2週間前に終わり、菊池家の墓に納骨するまでは柊斗と一緒にいたいと無理を言って連れてきた。
明智はまだ柊斗が亡くなってから一度も泣いてはいなかった。
柊斗が亡くなったのは一ヶ月前の事で、火葬まで時間がかかった。
出張中に柊斗と連絡を取れなくなった事を不審に思い、会社に連絡すると出社しておらず、すぐに警察と柊斗の親に連絡して見に行ってもらった。
胸騒ぎがした。
警察から電話がかかってきて意識不明で発見されたと聞かされ、すぐに大阪から新幹線で東京に向かう。
震える手をぐっと握り、気持ちを堪えていると、名古屋を出たところで警察からまた電話が来た。今いる席番号を伝えると名古屋駅から乗って来た警察官に新幹線の中で声をかけられ、身分証明を確認された。これはただ事ではない。
「柊斗は」
「署でお話しましょう」
柊斗は警察と両親が部屋を確認すると、寝室でベッドに横になって布団をきちんとかけて亡くなっていた。
寝室は窓が開けっ放しで部屋の中には春の風が吹き込んでいた。一階の部屋についている占有庭に出るテラス窓も開いていて、玄関の鍵も閉まってはいなかった。
1週間後の土曜日の夜が日本代表の試合で、事前の練習のために竜也と國近も日本にいた。
明智自身には鉄壁のアリバイがあった。発見される前日は新幹線の終電後まで仕事があり、ホテルに宿泊して、ホテルには防犯カメラもある。
柊斗とは寝る直前まで連絡は取っていた。
『見て、サロゲートマザーから送られて来たんだ』
『順調そうだな』
『動画も送る。よく見て』
『え?』
『双子。説明があっただろ。卵子ドナーが若いから授精卵移植後に、一卵性双生児になる確率が通常の妊娠より高い』
『でも100件に1件くらいって話じゃ…』
『ビンゴ。遺伝かもな?俺も一卵性双生児。追加でお金はかかる。サロゲートマザーがハイリスクで働けないから…』
『わかった。俺たち双子の親か…』
『名前は明智が考えて。今度聞かせて』
たった一ヶ月前の事なのに夢のようだ。
「柊斗、赤ちゃん順調だってよ。ほら見ろ」
骨壺にエコーの動画を見せた。
急に耐えきれないほど胸が痛み、泣くかと思ったが泣けなかった。
「早く帰って来い、柊斗」愛しい人の永遠の不在を、束の間の留守のように感じた。
骨壺を目の前にソファに座ったまま何時間も過ぎて、気がつくと夜の11時になっていた。
インターホンが鳴る。柊斗が帰って来た、と思い見に行くと南雲だった。無言で解錠ボタンを押す。玄関の鍵は掛かってはいなかった。
「よお」
「遅くに悪い。國近連れてきた」
大きな影がのっそりと入って来た。
「来いよ。柊斗に会ってやって」
ソファのまえにあるコーヒーテーブルには骨壺が置かれていた。
部屋には誰もおらず、明智の独り言だった。
葬儀は2週間前に終わり、菊池家の墓に納骨するまでは柊斗と一緒にいたいと無理を言って連れてきた。
明智はまだ柊斗が亡くなってから一度も泣いてはいなかった。
柊斗が亡くなったのは一ヶ月前の事で、火葬まで時間がかかった。
出張中に柊斗と連絡を取れなくなった事を不審に思い、会社に連絡すると出社しておらず、すぐに警察と柊斗の親に連絡して見に行ってもらった。
胸騒ぎがした。
警察から電話がかかってきて意識不明で発見されたと聞かされ、すぐに大阪から新幹線で東京に向かう。
震える手をぐっと握り、気持ちを堪えていると、名古屋を出たところで警察からまた電話が来た。今いる席番号を伝えると名古屋駅から乗って来た警察官に新幹線の中で声をかけられ、身分証明を確認された。これはただ事ではない。
「柊斗は」
「署でお話しましょう」
柊斗は警察と両親が部屋を確認すると、寝室でベッドに横になって布団をきちんとかけて亡くなっていた。
寝室は窓が開けっ放しで部屋の中には春の風が吹き込んでいた。一階の部屋についている占有庭に出るテラス窓も開いていて、玄関の鍵も閉まってはいなかった。
1週間後の土曜日の夜が日本代表の試合で、事前の練習のために竜也と國近も日本にいた。
明智自身には鉄壁のアリバイがあった。発見される前日は新幹線の終電後まで仕事があり、ホテルに宿泊して、ホテルには防犯カメラもある。
柊斗とは寝る直前まで連絡は取っていた。
『見て、サロゲートマザーから送られて来たんだ』
『順調そうだな』
『動画も送る。よく見て』
『え?』
『双子。説明があっただろ。卵子ドナーが若いから授精卵移植後に、一卵性双生児になる確率が通常の妊娠より高い』
『でも100件に1件くらいって話じゃ…』
『ビンゴ。遺伝かもな?俺も一卵性双生児。追加でお金はかかる。サロゲートマザーがハイリスクで働けないから…』
『わかった。俺たち双子の親か…』
『名前は明智が考えて。今度聞かせて』
たった一ヶ月前の事なのに夢のようだ。
「柊斗、赤ちゃん順調だってよ。ほら見ろ」
骨壺にエコーの動画を見せた。
急に耐えきれないほど胸が痛み、泣くかと思ったが泣けなかった。
「早く帰って来い、柊斗」愛しい人の永遠の不在を、束の間の留守のように感じた。
骨壺を目の前にソファに座ったまま何時間も過ぎて、気がつくと夜の11時になっていた。
インターホンが鳴る。柊斗が帰って来た、と思い見に行くと南雲だった。無言で解錠ボタンを押す。玄関の鍵は掛かってはいなかった。
「よお」
「遅くに悪い。國近連れてきた」
大きな影がのっそりと入って来た。
「来いよ。柊斗に会ってやって」


