イジメから逃げて、幸せの場所を探しながら

 目的のショッピングモールがある最寄り駅に到着し、改札抜けると青木はすぐにコインロッカーを見つけて、そこにキャリーケースを預けた。すると彼の荷物はリュックだけとなる。彼はもう知っているのだ。移動する時は大きな荷物はなるべく持っていない方がいい事に。
 参考になる。私も真似してバッグは二つに分ける事にしよう。
 そのまま五分程度歩くと、ショッピングモールに到着した。
 なんだか懐かしい気分になる。ここは何度も来た事がある馴染みの場所だ。中学の頃に仲が良かった友達と来た事を思い出す。その友達は高校進学と共に遠くに引っ越してしまったのでそれからは疎遠となってしまっていた。
 大きな建物を見るだけで心が浮かれてしまう。買い物が出来る。その高揚感から足取りが早くなってしまう。早く中に入りたい。
 早歩きで入口に向かい、いざ中へ入ろうとした時に青木の存在を思い出した。浮かれて忘れてしまっていて、振り向くと特に急いでいる様子もなく、俯いてとぼとぼとついて来ていた。
「早く来なよ」
 青木の所まで一旦戻ると手を掴む。そのまま強く引っ張って中へと入った。
「待てよ」
 手を繋いだ事が恥ずかしいのか青木は止めるように言ってきたけど、無視してぐいぐいと引っ張る。
「待てってば」
 今度は手を思いっきり振って繋いだ手を振りほどき、その場に立ちすくんだ。
「何よ、そんなに恥ずかしいの?」
「違う。浮かれているようだから言っておくが、目立つようなお洒落な服は買うなよ」
「はぁ?」
 大きなショッピングモールまでやってきて、お洒落な服を買わないとか意味が分からなかった。
「なるべく黒に近い色の服を選べ。ゆったりとしたものだ。体型が分からないように。履くものもズボンだけにしろよ」
「だから、何でよ」
「これから何処で生活していくか分からないからだよ。女って分からない方が絶対にいい」
 青木の話を聞いて浮かれた気持ちがゆっくりと沈んでいった。そうか、私は家出をしたのだ。もう普通の生活は出来ないのだろう。今後寝起きするところは公園とか路地裏になる。確かにどんな輩が居るか分からない。目立たない方がいい。
「分かったわよ」
「それと、髪の毛も切れ」
「はぁ!?」
 こいつ、女の子に向かって髪の毛を切れって言ったのか?信じられない。
「そんなの、死んだ方がマシだわ」
「それでも、生きるんだ」
 青木は即答したけれど、そこまでして生きていく意味なんてあるのだろうか。
「嫌なら帽子でも買えばいい」
「まぁ、それならいいけどさ」
 それから青木は必要なものや準備するものを説明していったが、どれも地味なものばかりだった。
 だんだんと面白くなくなっていく。折角ショッピングモールに来たというのに。なんか台無しだった。
「以上だ。それじゃあ二時間後にあそこのベンチで集合な」
 説明が終わると青木はすぐ近くにあった休憩の為に備え付けられてある長椅子を指差した。
「一緒に来ないの?」
 てっきりついて来てくれると思ったのに。
「俺も準備するものがあるからな」
 そういうと彼は私を置いてすぐに何処かへと行ってしまう。だからさっき長々と説明していたんだと納得する。
 二時間後にここに集合ってあまりにも短すぎる。青木は女の子と買い物に行ったこと無いんだな。
 まずは資金調達だ。私は慣れた足取りでATMの設置場所に向かう。ショッピングモールの構造は全て把握している。もう庭にいるようなものだった。
 ATMにたどり着くと財布からキャッシュカードを取り出して、入っているお金を全て取り出した。青木から小まめに引き出すとそこから居場所が分かってしまう可能性があるので、一回で全てを出した方がいいというアドバイスに従ってである。
 そんなにお金を貯めていたわけではないけれど、でも何も持っていないよりもマシだった。助かった。
 お金を取り出して財布の中に詰め込むと一気に安心感が押し寄せてくる。このショッピングモールにあるもの全て何でも買えるような気がしてきた。
 次に旅行用品が売っている店に向かった。先に物を入れるバッグやキャリーケースを買わないと。それに入る分だけ買い物すればいいから、目標が定まりやすくなる。
 お店の中にはお洒落なピンク色の可愛いキャリーケースが売っていて、本当はそれを買いたかったけれども、青木の言った事を思い出して何処でも見かけるような銀色の地味なものと、落ち着いた茶色の小さいリュックを買った。
 リュックは普段の持ち運び用のもの。これに入れるのは最小限にして、キャリーケースに入る分が旅で持てる最大量だろう。
 お店を出ると早速通路でキャリーケースを開けて中を確認する。大体容量が見定まったら、今度は日用品を買う為に緑色の看板の大きな雑貨屋へと向かった。歯ブラシに、籤、それに化粧道具等、色々揃えるといよいよ洋服を揃える番となった。
 本当は一番楽しい時間なのに、地味な服しか買えないなんて何だか嫌すぎた。どうにかならないのかなぁ。
 しぼんだ気持ちで私は行きつけの洋服店へと急いで向かった。