イジメから逃げて、幸せの場所を探しながら

「そんな事があって、駅に着いて、電車に轢かれて死のうとした所を貴方に助けられたの」
 私の話は終わったけど、青木は硬直したままだった。試しに顔の前で手を振ったけれども、無反応だった。そんな酷い話はしていないつもりだったのだけれどな。
 このままだと拉致があかない。ここまで話したのだ。もう私が聞いてもいいだろう。
「それで君は、どうして旅をしてるの?何か逃げ出したの?私と同じ?イジメられたの?」
「いや……俺の事はいいよ」
 ぶっきらぼうだけど、何かを隠したようであった。まぁ、いいけどさ、私だけ長々と理由を話して何か損した気分になった。

 この時、青木が虐める側の人間で、それが理由で逃げていると知ったら、一緒に旅をしただろうか。今となっては分からない。

「それで、どのくらい旅をしてるの?」
「半年以上だな。色んな所を点々としてきた」
「幸せになれる所を探していたの?」
 青木は頷いた。
「そうだ、俺が生きられる場所をずっと探してきた」
 生きられる場所。その言い方が凄く分かるような気がした。
 私ももう元居た場所には戻れない。あそこでは生きられない。だから死のうとしたのだ。
 私も探さないと。生きられる場所を。
「私も一緒に探していいんだよね?生きられる場所を」
 それはもしかしたら、それは青木と一緒の場所かも知れなかった。彼は返事をせずに、黙ってけれども、否定しなかったので黙認したのと一緒だ。
「お前……制服だな」
 青木が急に話題を変えた。これ以上この話を続けたくないとも感じ取れた。だから素直に応じる事にする。
「うん、学校出て行ってそのままだったから」
 どうせ死ぬならどんな格好でも同じだと思ったし着替えようという発想すら無かった。
「お金、持ってるのか?」
 お金。言われてから思い出す。死ぬつもりだったから何にも考えていなかった。鞄は学校に置いてきてしまったから多分無いかな。などと思いつつスカートのポケットを探るとそこには固いものが入っていて取り出すとお財布だった。
 良かった。運良く入っていたみたい。
 財布を見た青木はふぅと安心したように息を吐いた。
「とにかく着替える必要があるな。制服だと目立ちすぎる」
「じゃあ、あそこがいいかなぁ」
 私はこの近くで一番大きなショッピングモールの名前を出した。すると青木は眉をひそめる。
「どうしてそこなんだ。もっと個別の小さなお店に寄ればいいだろ。誰かに見つかりやすくなるぞ。昼間に制服だと警察に連絡される可能性あるし、家出の身って事を忘れてないか?」
「そんなの関係ないよ。それに木を隠すなら森っていうじゃない?」
 ショッピングモールなら平日の昼間でも人は多いと思った。
「あのな……」
 青木はまだ何か言いたげであった。
「一括で揃うなら、それでいいじゃないの。旅で必要なものも揃えないといけないし」
 そう言いながら青木の荷物をゆっくりと見た。リュックとキャリーケースの二つ。それに比べて私は何も持っていない。
 私も用意しなくちゃいけない。何もかも。これからどのくらい旅をするのか分からないのだから。
 青木は唸った後、分かったよと短く返答しただけでまだ不満に持ってそうだったけれど、それ以上は何も言ってこなくなった。
 なんか口数が少ない。私を助けた時には流暢に沢山話していたのに。あの時は興奮していて今の状態が素の青木なのか。それとも何か隠しながら話しているから口が重いのか。
 どちらにせよ、私はまだ青木という人物がどんな人なのか分からなかった。でも死のうとしていたところを助けてくれたのだからきっといい人なのだろう。
 だから、とりあえず信じてみる事にした。