生活は安定していたが、寝ている最中に山崎の夢を見てうなされる事が多くなっていった。最初は二週間に一回程度だったものが一週間おきとなり、今では三日に一回は見るようになっていた。
見る夢は決まって会話でのやりとり。山崎の顔は真っ白で生を感じさせない表情で語りかけてくるのである。これだけでも充分不気味だった。
「どう?どんな気分?どんな気分?」
変わらぬ口調で俺に言ってくるのだ。
「止めろ、俺じゃない」
「いいや、お前だよ。お前が死に追いやったんだ」
「違う!違うッ!」
「反省の色が全く無いな」
山崎が笑った。
「違う……」
「まだまだ呪ってやるからな。まだまだ全然足りない。俺が受けた苦しみと比べれば」
山崎がすっと俺の首元に手を伸ばしてくる。止めようとするが、圧倒的な力に抗う事が出来ずに首まで到達してしまう。思いっきり絞められて息が出来なくなる。いや、それどころがこのままだと骨を折られてしまう。
そう思った瞬間にいつも目が醒めるのである。全身汗で濡れていて、呼吸も浅く回数が多くなっていた。
その夢を見るとまだまだ許されていないのだと感じた。山崎にも、俺自身にも。
鳥井と出会ったのはそんな生活を十か月くらい続けた日だった。そう、あの日は丁度別の地域へと移動しようとしていたのである。
その駅に用事があったわけではなく、同じホームで乗り換えがしやすいというだけで、降り立ったのであった。アナウンスに従っただけだった。
降りた後、次の電車までまだまだ時間があった。時刻も昼前という事もあって備え付けてある椅子には誰も座っていなかったので、ありがたく座る事にした。
普段ならば、小説でも読んで時間を潰す所なのだが、今日に限って景色でも見ながら風に当たるのも良いと思い、そうしていたのである。
ふと女子高生の姿が視界入ってきた。平日の昼間だというのにそんな姿なので、制服姿はかなり目立っていた。遅刻か、体調が悪くて早退したのか。それにしても何か様子がおかしかった。まず鞄を持っていない。それに空いているホームでまだ電車が来るまで時間があるというのに、点字ブロックの線の前で立っていたのである。雰囲気は落ち着いている印象。いや、落ち着いているというより、何だか悲壮感が漂っていた。
見える範囲で顔を確認すると、泣いていた。世界に絶望したように虚ろだった。
まさか――。山崎の顔が頭の中によぎる。まさか、死のうとしているのではないか。自殺しようとしているのではないか。
声を掛けて止めるべきだろうか。いや、勘違いという可能性もある。そうでなかったとしても俺に関係あるのだろうか。そうだ、関係ない。あの女子高生が生きようが死のうが俺には関係ないのだ。
しばらく女子高生を眺めていたが、その場から一向に動こうとしない。次第に時は経過してホーム内にアナウンスが流れる。どうやら快速電車がくるらしい。通り過ぎてしまうのでこれには乗る事が出来ない。それなのに女子高生は立っている所から離れようとはしなかった。
奥から電車がやってくるのが見える。すると女子高生は一歩前へと進んだ。やっぱり死ぬ気なのだ。
そう思ったら身体が勝手に動いていた。関係ないとか勘違いだとか、そんなのはどうでも良くなっていた。手に届く所にある命が失われる。それは駄目だ。駄目な事だ。
俺は自分でも驚く程早く椅子から立ち上がると思いっきり走り、女子高生の横から体当たりしてみせた。
咄嗟の事に自分でも何が起こったのか把握出来ないままに電車が通過する轟音に包まれて、気が付くと二人してホームに倒れ込んでいた。
どうやら間に合ったらしい。
電車が通り過ぎた後に押し倒すような形になってしまった事に気がついて、上半身を持ち上げて離れる。
女子高生の顔を見た。起きた事を飲み込めていないように驚いた顔をしていて、次の瞬間に泣き始めてしまった。
一体、彼女をここまで追い詰めたのだろうか。でも、死ぬ事はないと思い一緒に逃げる事を提案していた。
見る夢は決まって会話でのやりとり。山崎の顔は真っ白で生を感じさせない表情で語りかけてくるのである。これだけでも充分不気味だった。
「どう?どんな気分?どんな気分?」
変わらぬ口調で俺に言ってくるのだ。
「止めろ、俺じゃない」
「いいや、お前だよ。お前が死に追いやったんだ」
「違う!違うッ!」
「反省の色が全く無いな」
山崎が笑った。
「違う……」
「まだまだ呪ってやるからな。まだまだ全然足りない。俺が受けた苦しみと比べれば」
山崎がすっと俺の首元に手を伸ばしてくる。止めようとするが、圧倒的な力に抗う事が出来ずに首まで到達してしまう。思いっきり絞められて息が出来なくなる。いや、それどころがこのままだと骨を折られてしまう。
そう思った瞬間にいつも目が醒めるのである。全身汗で濡れていて、呼吸も浅く回数が多くなっていた。
その夢を見るとまだまだ許されていないのだと感じた。山崎にも、俺自身にも。
鳥井と出会ったのはそんな生活を十か月くらい続けた日だった。そう、あの日は丁度別の地域へと移動しようとしていたのである。
その駅に用事があったわけではなく、同じホームで乗り換えがしやすいというだけで、降り立ったのであった。アナウンスに従っただけだった。
降りた後、次の電車までまだまだ時間があった。時刻も昼前という事もあって備え付けてある椅子には誰も座っていなかったので、ありがたく座る事にした。
普段ならば、小説でも読んで時間を潰す所なのだが、今日に限って景色でも見ながら風に当たるのも良いと思い、そうしていたのである。
ふと女子高生の姿が視界入ってきた。平日の昼間だというのにそんな姿なので、制服姿はかなり目立っていた。遅刻か、体調が悪くて早退したのか。それにしても何か様子がおかしかった。まず鞄を持っていない。それに空いているホームでまだ電車が来るまで時間があるというのに、点字ブロックの線の前で立っていたのである。雰囲気は落ち着いている印象。いや、落ち着いているというより、何だか悲壮感が漂っていた。
見える範囲で顔を確認すると、泣いていた。世界に絶望したように虚ろだった。
まさか――。山崎の顔が頭の中によぎる。まさか、死のうとしているのではないか。自殺しようとしているのではないか。
声を掛けて止めるべきだろうか。いや、勘違いという可能性もある。そうでなかったとしても俺に関係あるのだろうか。そうだ、関係ない。あの女子高生が生きようが死のうが俺には関係ないのだ。
しばらく女子高生を眺めていたが、その場から一向に動こうとしない。次第に時は経過してホーム内にアナウンスが流れる。どうやら快速電車がくるらしい。通り過ぎてしまうのでこれには乗る事が出来ない。それなのに女子高生は立っている所から離れようとはしなかった。
奥から電車がやってくるのが見える。すると女子高生は一歩前へと進んだ。やっぱり死ぬ気なのだ。
そう思ったら身体が勝手に動いていた。関係ないとか勘違いだとか、そんなのはどうでも良くなっていた。手に届く所にある命が失われる。それは駄目だ。駄目な事だ。
俺は自分でも驚く程早く椅子から立ち上がると思いっきり走り、女子高生の横から体当たりしてみせた。
咄嗟の事に自分でも何が起こったのか把握出来ないままに電車が通過する轟音に包まれて、気が付くと二人してホームに倒れ込んでいた。
どうやら間に合ったらしい。
電車が通り過ぎた後に押し倒すような形になってしまった事に気がついて、上半身を持ち上げて離れる。
女子高生の顔を見た。起きた事を飲み込めていないように驚いた顔をしていて、次の瞬間に泣き始めてしまった。
一体、彼女をここまで追い詰めたのだろうか。でも、死ぬ事はないと思い一緒に逃げる事を提案していた。

