そんな状況が一学期中続くようになる。山崎は行事でも除け者にされていった。体育祭では見た目通りに運動が出来ない為、走るのが遅くて邪魔者扱いされていたし、秋に予定されている修学旅行のメンバー決めの時にも山崎は余り、誰が山崎を引き受けるかを負けジャンケンで決めたりしていた。
そんな酷い扱いを受けていたが、山崎の様子は変わらない。ただ教室でじっとしているだけだった。急に動き出して、懲りずに誰かに話しかけに行ったりした事もあったが、すぐにあっちに行けと追いやられていた。そうするとまたじっと動かなくなっていた。
もしかしたら神経が鈍いのかもしれない。それか嫌われているのが分からないのか。
どちらにせよ、山崎の行動をクラスメイト全員が嫌がっていたので除け者扱いが終わるような事は無かった。
そんな状況のまま一学期が終わり夏休みへと突入する。夏休みが始まり数日経つと、関わりも無くなり、目に触れる事も無くなったので俺はすっかり山崎という存在を忘れていしまっていた。
事態が変わったのは、夏休み最後の日。その日の事は良く覚えている。
俺は自分の部屋で一人、宿題を終わらせる作業に没頭していたのである。休みの間、藍沢と仲良くなったクラスメイトと遊び暮れたツケが溜まっていた。
本当は藍沢に手伝って欲しかったのだが、どうやら用事があるらしく、さらに宿題はもう終わらせてしまっているとの事だった。そんなわけだったので仕方がなく、朝から一人で宿題をしていたのである。
一人で黙々と宿題を行っていたおかげか日も暮れて夕刻に差し掛かろうとしている時間には終わる目処が付き始める。
その辺りで疲れが出始めたので、少し休憩をしようと部屋を出て、リビングへと向かった。
リビングでは大学近くのアパートに離れて住んでいる二歳上の兄貴が夏休みを利用して家に帰っていて、テレビを見ながらくつろいていた。さらに奥にある一体型となっているキッチンには母親が居て、どうやら夕食の支度をしているらしく、美味しそうな匂いが充満していた。
「よぉ、捗ってるか?弟よ」
兄貴が声を掛けてくる。視線はテレビから離そうとしない。
「やっと目処が付いて来た所だよ」
返事をしながら母親の邪魔にならないようにキッチンに入り冷蔵庫の中から飲み物をコップに移すとそのままリビングの自分の椅子に座る。
「計画的にやらないからこうなるんだぞ」
「うるせーな」
余裕そうな兄貴に少し苛立ちを覚えた。大学ではまだまだ夏休みが続くらしい。羨ましい限りだ。
何でも普通にこなす兄だが抜けている所も少しだけあり、今回の事も俺を心配しての声掛けで中々に憎めないのだが、今回ばかりは言い返したくなった。
「財布、テーブルに置きっぱなしだぞ。あぶねーな。ちゃんと自分の部屋に持って行けよ」
「おお、わりぃわりぃ」
兄はテレビからやっと目を離しソファから立ち上がるとテーブルの所まで近づいてきて、財布を手に取った。
「なんか、ここに置いてあると勝手がいいんだよな」
「いつか、盗まれるぞ」
冷たい言い方をしたが、兄は大きく笑っただけだった。
「この家に盗むやつなんて居ないよ」
「あらあら、そしたら今度あったらお母さんが取ってしまおうかしら。おかずが潤うわ」
一段落済んだのか、エプロンで手を拭きながら母親がリビングの方にやってきて会話の中に入ってくる。
「おいおい、勘弁してくれよ」
何処までも冗談なのだが、兄貴は財布をポケットの中に仕舞いこんだ。
「しかしあんた達、並んでいると本当に似てるわね。一瞬だとどちらか分からなくなるわ」
母親が並んでいる俺達兄弟を見比べてふふふと笑った。
「おいおい、母親がそれだと困るぜ」
「兄貴と似ているなんて勘弁してくれ」
二人で一斉に文句を言ったが、母親はまるで聞いて貰えなかった。
突然、固定電話が鳴り響く。
俺も兄も電話に出るつもりはなく、母親もその事を分かっていたので、ハイハイと誰に対するものなのか分からない事を言いながら電話に出た。
しばらくすると軽やかだった母親の口調が急に重くなる。それだけで何か起こった事を察した。顔を見ると視線が合ったが母親は、ええ、はい、分かりましたしか言わず、それ以上の意図が掴めなかった。
一体何の話をしているのだろうか。仕事場の話だろうか、それとも父親に何かあったのだろうか。それか――。
想像は何処までも広がるが、何か確信を持てたわけではなく、俺と兄はただ母親が電話を終えるのを待つ他無かった。
数分後、母親は電話を切る。その後、俺にこう言ってきた。
「トモ、同じクラスの山崎くんって知ってる?」
「知ってるけど、何?」
内心、舌打ちをする。夏休み中に聞いたい名前では無かった。山崎が一体何だって言うんだよ。
「死んじゃったんだって。自殺」
「えっ……?」
兄貴が俺の方を見たが、何も言ってこない。
突然の単語についていけない。あの山崎が自殺?言葉がそれ以上出てこない。
「遺書もあるって。何だか虐められたとか書いてあるみたい。その中にあんたの名前があったみたいなんだけど……何したの?」
冷や水を掛けられたように頭の中が真っ白になって何も答えられなかった。
遺書の中に俺の名前?何でだ?確かに俺はあいつの事を嫌っていた。けれどもそんなのクラスの奴ら全員そうだった筈だ。俺が遺書に書かれるなんて意味が分からなかった。何もしていない。
悪い予感だけが俺を包み込んでいた。
母親は何も言わない事を答えとして受け取ったらしく、それ以上何も言ってこなくなる。気まずい雰囲気の中、母親が連絡網を次に回す為に電話をかけ始める。
「お前、一体何をしたんだよ」
兄貴が、電話の邪魔にならないように小声で俺に問い詰めていく。
「なにもしてねぇよ」
そう、何もしてない筈だ。それなのに、兄貴の視線がさらに強くなって痛くなったような気がした。
気まずくなってリビングを離れ、自室へと戻った。
何が起こったのか分からず、まるで整理が出来なかったが、山崎が死んでしまった事一点だけは理解出来た。
何かの、間違いだよな?
そんな酷い扱いを受けていたが、山崎の様子は変わらない。ただ教室でじっとしているだけだった。急に動き出して、懲りずに誰かに話しかけに行ったりした事もあったが、すぐにあっちに行けと追いやられていた。そうするとまたじっと動かなくなっていた。
もしかしたら神経が鈍いのかもしれない。それか嫌われているのが分からないのか。
どちらにせよ、山崎の行動をクラスメイト全員が嫌がっていたので除け者扱いが終わるような事は無かった。
そんな状況のまま一学期が終わり夏休みへと突入する。夏休みが始まり数日経つと、関わりも無くなり、目に触れる事も無くなったので俺はすっかり山崎という存在を忘れていしまっていた。
事態が変わったのは、夏休み最後の日。その日の事は良く覚えている。
俺は自分の部屋で一人、宿題を終わらせる作業に没頭していたのである。休みの間、藍沢と仲良くなったクラスメイトと遊び暮れたツケが溜まっていた。
本当は藍沢に手伝って欲しかったのだが、どうやら用事があるらしく、さらに宿題はもう終わらせてしまっているとの事だった。そんなわけだったので仕方がなく、朝から一人で宿題をしていたのである。
一人で黙々と宿題を行っていたおかげか日も暮れて夕刻に差し掛かろうとしている時間には終わる目処が付き始める。
その辺りで疲れが出始めたので、少し休憩をしようと部屋を出て、リビングへと向かった。
リビングでは大学近くのアパートに離れて住んでいる二歳上の兄貴が夏休みを利用して家に帰っていて、テレビを見ながらくつろいていた。さらに奥にある一体型となっているキッチンには母親が居て、どうやら夕食の支度をしているらしく、美味しそうな匂いが充満していた。
「よぉ、捗ってるか?弟よ」
兄貴が声を掛けてくる。視線はテレビから離そうとしない。
「やっと目処が付いて来た所だよ」
返事をしながら母親の邪魔にならないようにキッチンに入り冷蔵庫の中から飲み物をコップに移すとそのままリビングの自分の椅子に座る。
「計画的にやらないからこうなるんだぞ」
「うるせーな」
余裕そうな兄貴に少し苛立ちを覚えた。大学ではまだまだ夏休みが続くらしい。羨ましい限りだ。
何でも普通にこなす兄だが抜けている所も少しだけあり、今回の事も俺を心配しての声掛けで中々に憎めないのだが、今回ばかりは言い返したくなった。
「財布、テーブルに置きっぱなしだぞ。あぶねーな。ちゃんと自分の部屋に持って行けよ」
「おお、わりぃわりぃ」
兄はテレビからやっと目を離しソファから立ち上がるとテーブルの所まで近づいてきて、財布を手に取った。
「なんか、ここに置いてあると勝手がいいんだよな」
「いつか、盗まれるぞ」
冷たい言い方をしたが、兄は大きく笑っただけだった。
「この家に盗むやつなんて居ないよ」
「あらあら、そしたら今度あったらお母さんが取ってしまおうかしら。おかずが潤うわ」
一段落済んだのか、エプロンで手を拭きながら母親がリビングの方にやってきて会話の中に入ってくる。
「おいおい、勘弁してくれよ」
何処までも冗談なのだが、兄貴は財布をポケットの中に仕舞いこんだ。
「しかしあんた達、並んでいると本当に似てるわね。一瞬だとどちらか分からなくなるわ」
母親が並んでいる俺達兄弟を見比べてふふふと笑った。
「おいおい、母親がそれだと困るぜ」
「兄貴と似ているなんて勘弁してくれ」
二人で一斉に文句を言ったが、母親はまるで聞いて貰えなかった。
突然、固定電話が鳴り響く。
俺も兄も電話に出るつもりはなく、母親もその事を分かっていたので、ハイハイと誰に対するものなのか分からない事を言いながら電話に出た。
しばらくすると軽やかだった母親の口調が急に重くなる。それだけで何か起こった事を察した。顔を見ると視線が合ったが母親は、ええ、はい、分かりましたしか言わず、それ以上の意図が掴めなかった。
一体何の話をしているのだろうか。仕事場の話だろうか、それとも父親に何かあったのだろうか。それか――。
想像は何処までも広がるが、何か確信を持てたわけではなく、俺と兄はただ母親が電話を終えるのを待つ他無かった。
数分後、母親は電話を切る。その後、俺にこう言ってきた。
「トモ、同じクラスの山崎くんって知ってる?」
「知ってるけど、何?」
内心、舌打ちをする。夏休み中に聞いたい名前では無かった。山崎が一体何だって言うんだよ。
「死んじゃったんだって。自殺」
「えっ……?」
兄貴が俺の方を見たが、何も言ってこない。
突然の単語についていけない。あの山崎が自殺?言葉がそれ以上出てこない。
「遺書もあるって。何だか虐められたとか書いてあるみたい。その中にあんたの名前があったみたいなんだけど……何したの?」
冷や水を掛けられたように頭の中が真っ白になって何も答えられなかった。
遺書の中に俺の名前?何でだ?確かに俺はあいつの事を嫌っていた。けれどもそんなのクラスの奴ら全員そうだった筈だ。俺が遺書に書かれるなんて意味が分からなかった。何もしていない。
悪い予感だけが俺を包み込んでいた。
母親は何も言わない事を答えとして受け取ったらしく、それ以上何も言ってこなくなる。気まずい雰囲気の中、母親が連絡網を次に回す為に電話をかけ始める。
「お前、一体何をしたんだよ」
兄貴が、電話の邪魔にならないように小声で俺に問い詰めていく。
「なにもしてねぇよ」
そう、何もしてない筈だ。それなのに、兄貴の視線がさらに強くなって痛くなったような気がした。
気まずくなってリビングを離れ、自室へと戻った。
何が起こったのか分からず、まるで整理が出来なかったが、山崎が死んでしまった事一点だけは理解出来た。
何かの、間違いだよな?

