そう決意してから一週間も経たない時の事である。俺は結局そのレトロゲームを買う事を諦めてしまって、それに伴いゲームの意欲も無くなっていた。同時にワールドカップ開催の時期になっていた事もあり、俺の興味は完全にサッカーの方へと移行していた。最近藍沢と話す内容もそればっかりとなっていた。
その日も中休みに藍沢と向かい合って話をしていた。しかし悪い予感はすでにあった。以前サッカーの話をしていた時に山崎はやってきた経緯があったからだ。
話している最中、ちらりと山崎の様子を伺うとピクリと身体が動いているのが分かった。きっと聞き耳を立てているのだろうな。でも、俺はもう山崎と関わりたくなかった。ズレた話を一方的にされるのは御免だ。
予想通りに藍沢と話始めて五分と立たないうちに勢いよく山崎は席から立ち上がるとそのままこちらへと向かってくる。そして、何食わぬ顔で俺達の前に立ったのである。
「ねぇねぇ、何の話何の話??」
いつもの口調で話しかけてきた。何の話って、分かってるから来たんだろう?
「うるさいな。来るなよ。お前の好きな話じゃないから。あっちにいけよ」
俺は山崎の方を見ないで手で向こうに行けと振った。そのまま藍沢と話を続けようとする。
「でも、さっきサッカーって――」
山崎は食い下がった。
「お前と話がしたくないんだよ。席に戻れよ。デブビーバー」
山崎の顔を睨みつけながら言い放つとその瞬間に衝撃を受けた表情に変化した。
「……ああ、そうかい。分かったよ」
一瞬の間を置いて、山崎はくるりと背を向けて自分の席へと戻っていく。気にしていないようなフリをしているが声が震えていたのでバレバレだった。
山崎が自分の席に戻ると藍沢が顔を近づけて小声で話しかけてくる。
「おい、言い過ぎじゃね?」
「だって嫌だろ。話がめちゃくちゃにされたらさ」
俺の言い方に藍沢は笑った。
「まぁ、そうな。確かにな」
この時、確かに藍沢は同意したのである。それはよく覚えていた。
俺の心は少しだけだけど、スカッとした気分になっていた。やっと山崎に一矢報いたと思った。今まで散々にやられてたから尚更である。
そのまま藍沢と話を再開させたが、山崎がこちらを見る事は一切なく、真っ直ぐ黒板の方をじっと見つめているだけで動かなかった。
それが山崎ときちんと会話した最後のものとなった。
それ以降、山崎とまともに言葉を交わさなかった。当たり前だ。あんな言い方をすれば、誰だって近づいてこなくなる。意図的にやったことが功を成したのである。
けれども、別に無視をしていたわけでは無かった。事務的要件を伝えなければならない時にはきちんと声を掛けていたし、クラス内で団結力が必要な祭事の時には話しかけていた。
個人的に反りが合わないから、仲良くしない。関わりを避ける。ただ、それだけだったのである。
山崎もその辺りは分かっているみたいで、俺と藍沢の居るグループには一切話しかけて来なかった。その代わりに、別のグループへと話しかけに行き始めるようになったのである。
状況は俺達の時とは変わらない。山崎は変わらぬ口調で他のグループに近づいて「何の話?何の話?」と近づいてきて一方的に話を始めるのである。
そのグループも初めは律儀に山崎の話を聞いているのだが、それを二、三度繰り返すうちに煙たがられて追い払われるようになる。そうなるとまた別のグループへと話しかけに行くというのを繰り返していった。
俺はそんな行動をぼんやりと見ては、変な事を繰り返し行なっているなぁと思っていただけであった。
そんな事を繰り返していくうちに、山崎はどんどんと孤立していき、どのグループからも嫌がられるようになる。そうなると何処にも行く所が無くなってしまい、新学期が始まって三ヶ月が経過する頃には新学期当初のように教室に来ては真っ直ぐ黒板を見つめて時が経つのを待っているようにぼんやりとしているだけとなった。
これだけでも見るに耐えられない状況なのだが、何故かデブビーバーというあだ名が浸透して、山崎の事を誰も本名で呼ぶ事が無くなっていったのである。
流石に哀れに思ったが、どうする事も出来ない。自業自得だ。誰にでも嫌われるような話し方をするのがいけないのだ。そう思って俺は何もやらなかった。
ある日の休み時間、誰かが投げたのか、丸めた紙屑が山崎の背中に当たって跳ね返る。それでもあいつは微動だにせず、ただまっすぐ黒板の方向を見ているだけだった。
「あー、デブビーバーに当っちまったよ。わりぃわりぃ、その先のゴミ箱に入れたかったんだ」
クラスのお調子者が落ちた紙屑を拾いに行き、ごみ箱に捨てる。その言葉が何処まで本当か分からない。けれどもその行動を見ていたクラスメイトの大半がくすくすと小さく笑っていたのである。
哀れだな。もしかしたら知らない所でもっと酷い事が行われているかも知れない。俺は見ているだけで何もしなかった。いや、何かする道理もないし義理もない。山崎の事は嫌いだしな。
もう関係のない事だ。そう思っていた。
その日も中休みに藍沢と向かい合って話をしていた。しかし悪い予感はすでにあった。以前サッカーの話をしていた時に山崎はやってきた経緯があったからだ。
話している最中、ちらりと山崎の様子を伺うとピクリと身体が動いているのが分かった。きっと聞き耳を立てているのだろうな。でも、俺はもう山崎と関わりたくなかった。ズレた話を一方的にされるのは御免だ。
予想通りに藍沢と話始めて五分と立たないうちに勢いよく山崎は席から立ち上がるとそのままこちらへと向かってくる。そして、何食わぬ顔で俺達の前に立ったのである。
「ねぇねぇ、何の話何の話??」
いつもの口調で話しかけてきた。何の話って、分かってるから来たんだろう?
「うるさいな。来るなよ。お前の好きな話じゃないから。あっちにいけよ」
俺は山崎の方を見ないで手で向こうに行けと振った。そのまま藍沢と話を続けようとする。
「でも、さっきサッカーって――」
山崎は食い下がった。
「お前と話がしたくないんだよ。席に戻れよ。デブビーバー」
山崎の顔を睨みつけながら言い放つとその瞬間に衝撃を受けた表情に変化した。
「……ああ、そうかい。分かったよ」
一瞬の間を置いて、山崎はくるりと背を向けて自分の席へと戻っていく。気にしていないようなフリをしているが声が震えていたのでバレバレだった。
山崎が自分の席に戻ると藍沢が顔を近づけて小声で話しかけてくる。
「おい、言い過ぎじゃね?」
「だって嫌だろ。話がめちゃくちゃにされたらさ」
俺の言い方に藍沢は笑った。
「まぁ、そうな。確かにな」
この時、確かに藍沢は同意したのである。それはよく覚えていた。
俺の心は少しだけだけど、スカッとした気分になっていた。やっと山崎に一矢報いたと思った。今まで散々にやられてたから尚更である。
そのまま藍沢と話を再開させたが、山崎がこちらを見る事は一切なく、真っ直ぐ黒板の方をじっと見つめているだけで動かなかった。
それが山崎ときちんと会話した最後のものとなった。
それ以降、山崎とまともに言葉を交わさなかった。当たり前だ。あんな言い方をすれば、誰だって近づいてこなくなる。意図的にやったことが功を成したのである。
けれども、別に無視をしていたわけでは無かった。事務的要件を伝えなければならない時にはきちんと声を掛けていたし、クラス内で団結力が必要な祭事の時には話しかけていた。
個人的に反りが合わないから、仲良くしない。関わりを避ける。ただ、それだけだったのである。
山崎もその辺りは分かっているみたいで、俺と藍沢の居るグループには一切話しかけて来なかった。その代わりに、別のグループへと話しかけに行き始めるようになったのである。
状況は俺達の時とは変わらない。山崎は変わらぬ口調で他のグループに近づいて「何の話?何の話?」と近づいてきて一方的に話を始めるのである。
そのグループも初めは律儀に山崎の話を聞いているのだが、それを二、三度繰り返すうちに煙たがられて追い払われるようになる。そうなるとまた別のグループへと話しかけに行くというのを繰り返していった。
俺はそんな行動をぼんやりと見ては、変な事を繰り返し行なっているなぁと思っていただけであった。
そんな事を繰り返していくうちに、山崎はどんどんと孤立していき、どのグループからも嫌がられるようになる。そうなると何処にも行く所が無くなってしまい、新学期が始まって三ヶ月が経過する頃には新学期当初のように教室に来ては真っ直ぐ黒板を見つめて時が経つのを待っているようにぼんやりとしているだけとなった。
これだけでも見るに耐えられない状況なのだが、何故かデブビーバーというあだ名が浸透して、山崎の事を誰も本名で呼ぶ事が無くなっていったのである。
流石に哀れに思ったが、どうする事も出来ない。自業自得だ。誰にでも嫌われるような話し方をするのがいけないのだ。そう思って俺は何もやらなかった。
ある日の休み時間、誰かが投げたのか、丸めた紙屑が山崎の背中に当たって跳ね返る。それでもあいつは微動だにせず、ただまっすぐ黒板の方向を見ているだけだった。
「あー、デブビーバーに当っちまったよ。わりぃわりぃ、その先のゴミ箱に入れたかったんだ」
クラスのお調子者が落ちた紙屑を拾いに行き、ごみ箱に捨てる。その言葉が何処まで本当か分からない。けれどもその行動を見ていたクラスメイトの大半がくすくすと小さく笑っていたのである。
哀れだな。もしかしたら知らない所でもっと酷い事が行われているかも知れない。俺は見ているだけで何もしなかった。いや、何かする道理もないし義理もない。山崎の事は嫌いだしな。
もう関係のない事だ。そう思っていた。

