部屋に戻ると、青木が上半身を起こしてベッドの上で座っていた。少しは良くなったのだろうか。
「青木、大丈夫なの?」
「ああ……大丈夫だ」
いつもと同じく短い返事。けれども活気がない。近づいて表情を見ると朦朧としていて虚ろだ。
「大丈夫じゃないね。とりあえず薬買ってきたから少しでもいいから何か食べて飲んでよ」
袋から薬を出して青木に見せつけると彼は首を横にゆっくりと振った。
「その薬は効かない」
「そんな事はないでしょ?」
パッケージには鼻と喉の痛み、そして咳に効果があると記載されてある。今の青木の症状とピッタリだと思うんだけど。
「俺には合わないんだ。それに薬なら常備している」
何だ、そうなんだ。それなら初めてから言ってよ。そしたら風邪薬なんて買ってこなかったのに。少し安い物を買ってきたとはいえ、高いものなんだから。
私は床に乱暴に置かれていた青木のキャリーケースへと向かった。中を漁ってその常備薬とやらを投げつけてやろうと決めた。
「おい、止めろ」
キャリーケースに触れようとしたら、先読みされて体調が悪いとは思えない程強い口調で止められてしまう。
「どうして?」
「いいから。開けるな。ケースごと渡してくれ」
なんで、どうして。
命令口調にも苛ついたけど、隠し事をしている事もさらに苛ついた。
私と青木の距離はわりとある。今、彼の体調は良くなく、すぐに動く事が出来ない。
そう確認すると、私は青木のキャリーケースのファスナーを思いっきり開けた。
青木が叫ぶ。構うものか。何を隠しているというのだろうか。バッグを思いっきり開くとそこには――。
「学校の制服?」
そこには見慣れた制服が入っていた。バッグから取り出して広げてみる。一体誰のだ?サイズや皺のつきかた、汚れ具合にとても見覚えがあった。これ――。
「私のだ」
どうして青木が持っているのだろうか。
いや、それよりも――。
信じられない。背筋に悪寒が走る。気持ち悪い。最初のショッピングモールで捨てたはずだから、それからずっと持っていたという事なのだろう。一体何のために?何に使う為に?
「何よ、これ」
「それは……」
青木の口調が重い。頭が働かない事もあるだろうし、気まずさもあるのだろう。返って好都合だ。言い訳なんてさせない。
「ヤダ……。気持ち悪い」
この制服で何をしていたか想像するだけで虫唾が走る。
一体どういうつもりで……。今まで私と一緒に居たのだろう。私の事を助けたのだろう。そんなつもりだったのだろうか。
「違うんだ……」
力なく青木は言う。何がどう違うと言うのだろうか。何も違わなくない。青木の鞄に私の制服が入っていた。それだけはどこまでも真実だ。
「イヤ……」
もう青木と一緒に居る事は出来ない。一緒の部屋に居る事自体が無理だ。
私は近くにあった青木の財布を手に取ると思いっきり開けた。中には私が想像している以上に入っていて驚く。そこからおもむろにお札を掴むとそのまま私のキャリーケースを持って、部屋から飛び出してホテルを出た。
とにかく、青木から離れないと。その一心で走り出す。
青木も、他の奴と変わらず、私の事を利用していただけと知ってしまうと何だか無償に悲しくなった。
心の中でサヨナラを告げると、そのまま駅まで急いだ。
「青木、大丈夫なの?」
「ああ……大丈夫だ」
いつもと同じく短い返事。けれども活気がない。近づいて表情を見ると朦朧としていて虚ろだ。
「大丈夫じゃないね。とりあえず薬買ってきたから少しでもいいから何か食べて飲んでよ」
袋から薬を出して青木に見せつけると彼は首を横にゆっくりと振った。
「その薬は効かない」
「そんな事はないでしょ?」
パッケージには鼻と喉の痛み、そして咳に効果があると記載されてある。今の青木の症状とピッタリだと思うんだけど。
「俺には合わないんだ。それに薬なら常備している」
何だ、そうなんだ。それなら初めてから言ってよ。そしたら風邪薬なんて買ってこなかったのに。少し安い物を買ってきたとはいえ、高いものなんだから。
私は床に乱暴に置かれていた青木のキャリーケースへと向かった。中を漁ってその常備薬とやらを投げつけてやろうと決めた。
「おい、止めろ」
キャリーケースに触れようとしたら、先読みされて体調が悪いとは思えない程強い口調で止められてしまう。
「どうして?」
「いいから。開けるな。ケースごと渡してくれ」
なんで、どうして。
命令口調にも苛ついたけど、隠し事をしている事もさらに苛ついた。
私と青木の距離はわりとある。今、彼の体調は良くなく、すぐに動く事が出来ない。
そう確認すると、私は青木のキャリーケースのファスナーを思いっきり開けた。
青木が叫ぶ。構うものか。何を隠しているというのだろうか。バッグを思いっきり開くとそこには――。
「学校の制服?」
そこには見慣れた制服が入っていた。バッグから取り出して広げてみる。一体誰のだ?サイズや皺のつきかた、汚れ具合にとても見覚えがあった。これ――。
「私のだ」
どうして青木が持っているのだろうか。
いや、それよりも――。
信じられない。背筋に悪寒が走る。気持ち悪い。最初のショッピングモールで捨てたはずだから、それからずっと持っていたという事なのだろう。一体何のために?何に使う為に?
「何よ、これ」
「それは……」
青木の口調が重い。頭が働かない事もあるだろうし、気まずさもあるのだろう。返って好都合だ。言い訳なんてさせない。
「ヤダ……。気持ち悪い」
この制服で何をしていたか想像するだけで虫唾が走る。
一体どういうつもりで……。今まで私と一緒に居たのだろう。私の事を助けたのだろう。そんなつもりだったのだろうか。
「違うんだ……」
力なく青木は言う。何がどう違うと言うのだろうか。何も違わなくない。青木の鞄に私の制服が入っていた。それだけはどこまでも真実だ。
「イヤ……」
もう青木と一緒に居る事は出来ない。一緒の部屋に居る事自体が無理だ。
私は近くにあった青木の財布を手に取ると思いっきり開けた。中には私が想像している以上に入っていて驚く。そこからおもむろにお札を掴むとそのまま私のキャリーケースを持って、部屋から飛び出してホテルを出た。
とにかく、青木から離れないと。その一心で走り出す。
青木も、他の奴と変わらず、私の事を利用していただけと知ってしまうと何だか無償に悲しくなった。
心の中でサヨナラを告げると、そのまま駅まで急いだ。
