アルバイトが終わるのがこんなに待ち遠しく思ったのは久しぶりだった。早く私達の家に帰りたかった。
定時になって仕事を終えると速攻で職場を出て、ややスキップのように早歩きで帰る。家に戻るのがとても楽しみだった。
帰ったらまた少し掃除でもしようかな。そんな風に考えるだけでも嬉しくなってしまう。
そんな浮かれた気持ちはアパートに辿り着くと一気に吹き飛んでしまった。
アパートの前で愕然と棒立ちしてしまう。
私達の家が……。廃墟のボロアパートが灰色の布シートに囲われて重機によって取り壊されていたのである。
作業は早くすでに半分くらいの解体は終わっていた。私達が住んでいた部屋もそこには既に無かった。不法侵入がバレた結果なのかと思ったけれども、それにしてはあまりにも早すぎる。きっと元々取り壊す予定だったのだろう。
部屋の中に居なくて良かったと安心したけれども、昨日買ってきた家具はどうなったのか心配になった。けど、もう壊されてしまったに違いない。
キャリーケースをアルバイト先に行く前にコインロッカーに預けていた事が唯一の救いだった。確か彼も持って行っていた気がする。だから、私達が失ったものは昨日購入したものだけだった。
突っ立っていても仕方がないので近くにあった公園へと向かい、ブランコに乗りながら気ままに揺れる。
夜へと向かっていく涼しい空気の中に塩の匂いを感じて、そういえば近くに海がある事を思い出す。
まだ間に合うかなと思ったら青木が急いで公園へとやってきたので、どうやら遅かったみたいだ。
「ここに……居たのか」
青木は走ってきたみたいで、息を整えながら言う。
「うん、他に行く所なかったし」
本当は海に行こうとしてきたけど、それは言わなかった。
「無事で良かった。また海にでも行ったんじゃないかと思って、先にそっちに行ったよ」
なんだ、どうやら私の行動は筒抜けみたい。じゃあ、どちらにせよ、駄目だったんだ。
「家、壊されちゃったね」
「ああ、そうだな。いずれはと思っていたが、こんなに早かったとは思わなかった」
「予想……してたんだ」
私はそんな考えすら及ばなかった。ショックだったし落ち込んだけど、何だか本気で家探しをしていた時と比べて落ち込み具合は少なくて済んでいる。少しは耐性が出来たのだろうか。
「また、探す?探すの?それとも――」
それとも何もかも投げて、楽になる?私の問いかけに、青木は一瞬黙った。
「また、探そう。ここじゃない何処かで。幸せの場所を」
南へ。そう、まだ私達は南に行ける。何が待ち受けてるのか分からないけれど、日本の端っこの島ならば、何処か私達を受け入れてくれる気がした。
沢山、探したけど、安寧の地が見つからなかったということはここではないのだろう。
私達のゴールは何処?いや、始まりの場所は何処にあるのだろう。
次こそ何かを見つけたい期待と不安が入り混じっていた。最南端まで行けば、幸せになれる場所を見つける事が出来るのだろうか。
青木は手を伸ばして差し出してくる。私はその手を掴んで、ブランコから立ち上がるとそのまま一緒に駅に向かって歩き始めた。
定時になって仕事を終えると速攻で職場を出て、ややスキップのように早歩きで帰る。家に戻るのがとても楽しみだった。
帰ったらまた少し掃除でもしようかな。そんな風に考えるだけでも嬉しくなってしまう。
そんな浮かれた気持ちはアパートに辿り着くと一気に吹き飛んでしまった。
アパートの前で愕然と棒立ちしてしまう。
私達の家が……。廃墟のボロアパートが灰色の布シートに囲われて重機によって取り壊されていたのである。
作業は早くすでに半分くらいの解体は終わっていた。私達が住んでいた部屋もそこには既に無かった。不法侵入がバレた結果なのかと思ったけれども、それにしてはあまりにも早すぎる。きっと元々取り壊す予定だったのだろう。
部屋の中に居なくて良かったと安心したけれども、昨日買ってきた家具はどうなったのか心配になった。けど、もう壊されてしまったに違いない。
キャリーケースをアルバイト先に行く前にコインロッカーに預けていた事が唯一の救いだった。確か彼も持って行っていた気がする。だから、私達が失ったものは昨日購入したものだけだった。
突っ立っていても仕方がないので近くにあった公園へと向かい、ブランコに乗りながら気ままに揺れる。
夜へと向かっていく涼しい空気の中に塩の匂いを感じて、そういえば近くに海がある事を思い出す。
まだ間に合うかなと思ったら青木が急いで公園へとやってきたので、どうやら遅かったみたいだ。
「ここに……居たのか」
青木は走ってきたみたいで、息を整えながら言う。
「うん、他に行く所なかったし」
本当は海に行こうとしてきたけど、それは言わなかった。
「無事で良かった。また海にでも行ったんじゃないかと思って、先にそっちに行ったよ」
なんだ、どうやら私の行動は筒抜けみたい。じゃあ、どちらにせよ、駄目だったんだ。
「家、壊されちゃったね」
「ああ、そうだな。いずれはと思っていたが、こんなに早かったとは思わなかった」
「予想……してたんだ」
私はそんな考えすら及ばなかった。ショックだったし落ち込んだけど、何だか本気で家探しをしていた時と比べて落ち込み具合は少なくて済んでいる。少しは耐性が出来たのだろうか。
「また、探す?探すの?それとも――」
それとも何もかも投げて、楽になる?私の問いかけに、青木は一瞬黙った。
「また、探そう。ここじゃない何処かで。幸せの場所を」
南へ。そう、まだ私達は南に行ける。何が待ち受けてるのか分からないけれど、日本の端っこの島ならば、何処か私達を受け入れてくれる気がした。
沢山、探したけど、安寧の地が見つからなかったということはここではないのだろう。
私達のゴールは何処?いや、始まりの場所は何処にあるのだろう。
次こそ何かを見つけたい期待と不安が入り混じっていた。最南端まで行けば、幸せになれる場所を見つける事が出来るのだろうか。
青木は手を伸ばして差し出してくる。私はその手を掴んで、ブランコから立ち上がるとそのまま一緒に駅に向かって歩き始めた。
