イジメから逃げて、幸せの場所を探しながら

「ねぇ、ここ」
 駅へと戻る途中、外見からでも分かるくらいボロな古いアパートを見つける事となる。地面には雑草が所構わず生えていて、建物の屋上までツタが茂っていた。どの部屋も夜だというのに明かりがついていない。どう見ても廃墟だった。
 入り口の門にはロープが付けられてきて入れないようになっていたが、私達は特に合図を出す事もなく、潜って中へと入った。
 一階は駄目そうだったので鎖かけの階段をゆっくりと登っていき二階へと上がる。半分腐っているような扉もあったけど、その中でも綺麗な扉を見つけて、ドアノブを回して引いてみた。すると鍵が掛かっていないのかすんなりと開いた。
 部屋の中を見てみると外観のボロさとは打って変わって綺麗に感じた。七畳くらいの部屋と六畳の畳の寝室の二つの部屋。ホコリ臭いけど、これで廃墟にするのには勿体無い気がした。
「ここなら住めるんじゃない?」
 青木の顔を見てそう提案してみる。寝泊りするだけの部屋になりそうだけど、公園で段ボール生活だって同じようなものだ。ライフラインは何も通ってないけれども、些細な問題なような気がした。
 どう思うだろうか。私の考えを否定するだろうか。また考えが甘いって怒られるだろうか。または動かないだろうか。
 不安だったけれども、顔をまじまじと見つめていたら、青木はゆっくりと頷いてくれた。それだけで伝わる。それだけで充分嬉しかった。
 当初の予定とはだいぶ違う形になったけど、ここが私と青木の安寧の地になるのだろう。ここでなら幸せになれるような気がした。
 とりあえず、床に横になった。フローリングになっていて、ふかふかで寝心地が良い。これなら布団入らずだ。
 安堵感に包まれて大きく大の字になって寝る。隣で青木も同じようにしてくる。
 思っていたよりも疲れていたのか、そのまま睡魔が襲ってきて寝てしまった。疲れていたのは私だけでは無かったみたいで、次の日に目覚めると横で同じように寝ていた青木が居た。
 起き上がって窓を開けて外を見てみる。陽はとうに高くなっていて昼間に近い時刻となっていた。
 喉がイガイガして痛い。痰をまとめて形だけの台所で吐き捨てる。風邪でも引いてしまったのかと思ったけど、そうではなく青木の姿を見たら納得出来た。彼の身体は埃だらけで真っ白になっていたのである。よく見たら私も同じだった。埃まみれの部屋で寝たから喉が痛くなったのだ。
 まだ寝ている青木を起こすように、玄関のドアも開けて換気を始めた。今日は掃除だなと予定が決まる。とりあえず、辺りを散歩しようとアパートを出た。
 辺りを歩いてみると数分の所にトイレと水飲み場が設置された公園を見つける事となる。これで水回りは何とかなるだろう。ますます、あの部屋で過ごせるような気がしてきた。
 公園で顔を洗うと探索を再開させる。さらにコンビニがある事を把握すると、アパートまで戻った。
 部屋の中に戻ると青木が真っ白なままのそのそと動いていて思わず笑ってしまう。どうやら起きたみたいだ。
 そのまま一緒にアパートを出ると、先程見つけたコンビニでご飯を買って公園のベンチで食べ始めた。
「掃除用品買うからホームセンターに行こうよ。家具も揃えよう?」
「ああ、いいよ」
 即答してくれたので、私達はご飯を食べ終わった後、周囲の情報を集める為に駅前に戻ってネットカフェに入り、ついでにシャワーを浴びて身体を綺麗にすると電子端末で調べ始める。
 すると、わりと近い所にホームセンターがある事が分かった。ここなら、歩いて行けそうな距離だった。
 ネットカフェを出る前に明日のアルバイトを電子端末から予約を行うとそのままホームセンターへと赴いた。そこは想像していたよりも規模の大きいお店で中に家具やら雑貨やら何もかも揃っていてそれだけで気持ちは昂った。
「何だか、新婚さんみたいだね」
 二人で一緒に選びながら家具を買い揃えるのはとれも嬉しい。返事はなく、青木はただ俯いただけだったけれども、照れ隠しなのはすぐに分かった。
 簡易的な布団と小さいテーブルと遮光式のカーテンと電池式のランプを買う。そのまま何処にも寄らずに、私達は廃アパートへと帰っていった。重いテーブルは青木が持ってくれて、何だか少し男らしさを感じた。
 アパートに着くと、早速掃除をし始めて、部屋中の埃っぽいのを何とか取り除く事が出来ると、二人して疲れてしまったので、明日に備えて寝てしまった。