三章
明るい昼下がり。移り行く窓の外の風景を頬杖付きながら見ていた。ちょうど進行方向を向いていた為、何だか自分が早く進んでいるような気分になる。定期的にリズムよく私の身体を揺らしていて、それが少し気分を害した。
外はとてもいい天気で散歩日和だ。こうして座っているのが勿体ないぐらいに。ちょっと前から田園風景がずっと続いている。おばあちゃん家がちょうどこんな所だった事を思い出した。
急に外の風景が暗くなる。どうやらトンネルの中に入ったみたいだ。それと共に耳に少し圧が掛かった。
真っ暗な窓は車内の様子を反射させ、ボックス席に座っている冴えない私の顔が映し出された。さらに奥には反対の通路側に座っている青木も映っていて、そういえば居たんだなと改めて思い出した。
暗いトンネルなんて見ていても仕方がないので、窓ではなく直接青木の方を見た。私が見ている事なんて気がついていないようで読書に集中していた。
平日の為か、この車両には私達以外に客は居ない。とても静かで発せられる音は電車がレイルを弾く音と軋む音だけ。
青木はこれでいいのかもしれないけれど、私は暇で暇でどうしようもなかった。こんな時に携帯端末が欲しくなる。
他にすることもないので仕方がなく、青木に話しかける事にした。
テーマパークから帰ってきてから、私はアルバイトを適宜に入れて働いていた。二、三日働いたら一日だけ休む。それを繰り返していた。そんな生活を続けていたある日の夜、アルバイトから疲れて段ボール部屋に戻ると、青木が話しかけてきた。もう少し南下しようと提案してきたのである。
「都市部からもっと離れれば、物価も下がるかもしれない」
言っている事は尤もで、確かにそうだと思った。今は少しでも節約がしたい。それならば物価が安いに越した事はないだろう。
否定する理由も無い為、頷いて同意する。
「いつ、移動するの?」
「悪いんだけど、一週間先までバイトを入れてるんだ。その後でもいいか?」
「まぁ、私は構わないけれども」
「じゃあ、一週間後で決まり。それまでに荷物をまとめておけよ」
「まとめる程、荷物無いんだけど」
今の段ボール部屋は移動の際に処分してしまうだろうし。食品しか買ってないから荷物はキャリーケースの中に納まったものだけである。
青木は用が終わったらしく、自分の寝床に移動しようとする。それを引き留めようか一瞬悩んでしまった。
ホテルで泊まった時に聞いた寝言。その事を聞くかどうか迷ったのである。いや。今だけでなくずっと迷っている事であった。でも、聞いたらこの関係性が壊れてしまうような気がしてずっと聞けていないのだ。この日も私の口は重く、言葉を発する前に青木は寝床へと戻ってしまった。
どうやらまた聞く機会を失ったらしい。私の心の中でずっと靄となって渦巻いている疑問。寝言が本当ならば、それは青木がこの旅をしている核心だろう。
単に物騒な悪夢を見ていただけの可能性も否定は出来ない。あれから休みの日は昼間にネットカフェに行ってはそれらしき事件がないか調べたり、バイトに行くフリをしてこっそり図書館に行って過去の新聞を読み返したりした。けれども結局何も分からなかったのである。
聞いた単語が少なすぎるし、青木は未成年だから名前が報道されるわけでもない。そもそも情報不足なのである。
きっと直接聞いた方が早いと思ったのだけど、それが思っていた以上に難儀な事だったのである。
まぁ、いいや。聞くチャンスは幾らでもきっとある。そう自分に言い聞かせて、今の気持ちを誤魔化した。
明るい昼下がり。移り行く窓の外の風景を頬杖付きながら見ていた。ちょうど進行方向を向いていた為、何だか自分が早く進んでいるような気分になる。定期的にリズムよく私の身体を揺らしていて、それが少し気分を害した。
外はとてもいい天気で散歩日和だ。こうして座っているのが勿体ないぐらいに。ちょっと前から田園風景がずっと続いている。おばあちゃん家がちょうどこんな所だった事を思い出した。
急に外の風景が暗くなる。どうやらトンネルの中に入ったみたいだ。それと共に耳に少し圧が掛かった。
真っ暗な窓は車内の様子を反射させ、ボックス席に座っている冴えない私の顔が映し出された。さらに奥には反対の通路側に座っている青木も映っていて、そういえば居たんだなと改めて思い出した。
暗いトンネルなんて見ていても仕方がないので、窓ではなく直接青木の方を見た。私が見ている事なんて気がついていないようで読書に集中していた。
平日の為か、この車両には私達以外に客は居ない。とても静かで発せられる音は電車がレイルを弾く音と軋む音だけ。
青木はこれでいいのかもしれないけれど、私は暇で暇でどうしようもなかった。こんな時に携帯端末が欲しくなる。
他にすることもないので仕方がなく、青木に話しかける事にした。
テーマパークから帰ってきてから、私はアルバイトを適宜に入れて働いていた。二、三日働いたら一日だけ休む。それを繰り返していた。そんな生活を続けていたある日の夜、アルバイトから疲れて段ボール部屋に戻ると、青木が話しかけてきた。もう少し南下しようと提案してきたのである。
「都市部からもっと離れれば、物価も下がるかもしれない」
言っている事は尤もで、確かにそうだと思った。今は少しでも節約がしたい。それならば物価が安いに越した事はないだろう。
否定する理由も無い為、頷いて同意する。
「いつ、移動するの?」
「悪いんだけど、一週間先までバイトを入れてるんだ。その後でもいいか?」
「まぁ、私は構わないけれども」
「じゃあ、一週間後で決まり。それまでに荷物をまとめておけよ」
「まとめる程、荷物無いんだけど」
今の段ボール部屋は移動の際に処分してしまうだろうし。食品しか買ってないから荷物はキャリーケースの中に納まったものだけである。
青木は用が終わったらしく、自分の寝床に移動しようとする。それを引き留めようか一瞬悩んでしまった。
ホテルで泊まった時に聞いた寝言。その事を聞くかどうか迷ったのである。いや。今だけでなくずっと迷っている事であった。でも、聞いたらこの関係性が壊れてしまうような気がしてずっと聞けていないのだ。この日も私の口は重く、言葉を発する前に青木は寝床へと戻ってしまった。
どうやらまた聞く機会を失ったらしい。私の心の中でずっと靄となって渦巻いている疑問。寝言が本当ならば、それは青木がこの旅をしている核心だろう。
単に物騒な悪夢を見ていただけの可能性も否定は出来ない。あれから休みの日は昼間にネットカフェに行ってはそれらしき事件がないか調べたり、バイトに行くフリをしてこっそり図書館に行って過去の新聞を読み返したりした。けれども結局何も分からなかったのである。
聞いた単語が少なすぎるし、青木は未成年だから名前が報道されるわけでもない。そもそも情報不足なのである。
きっと直接聞いた方が早いと思ったのだけど、それが思っていた以上に難儀な事だったのである。
まぁ、いいや。聞くチャンスは幾らでもきっとある。そう自分に言い聞かせて、今の気持ちを誤魔化した。
