再度撮られないか警戒する青木の手を引っ張ってアメリカンな街並みを抜けると今度は近未来感のあるエリアに移行し、そのエリアを象徴する様に巨大なロボットが佇んでいた。
「へぇ、よく出来てる」
 そのロボットをまじまじと見た青木が感心している。私も同じ意見だ。
「凄いね。大きいロボットだよ」
ロボットを良く見ると細かな部分や内部まで作り込まれていて、今すぐにでも動き出しそうな出来だ。とりあえず、シャッターを切る。
「男の子ってロボット好きなの?」
「男全般の話は分からないけど、俺は好きだよ」
「これって何のロボットなの?」
 何にも分からなかったので訊ねてみる。多分、男の子の方が詳しく知っている。と思ったけど、青木は首を横に振った。
「分からないけど、海外の奴だよ。大きくなって変身するロボットのリーダーだ。俺、その映画見た事無いんだよね」
 そうなんだ。ロボットが好きと言っていたけど、そこまで詳しくないみたい。何なら詳しく知っているのだろうか。
「折角だからそのロボットと一緒に、撮ってあげるよ」
「いいよ、別に」
「ロボット好きなんでしょ?練習もするんだよね?だったらいいじゃない」
 青木はするなんて言っていないとブツブツいいながらも渋々ロボットの隣に立って申し訳ない感じにピースのポーズをしたので私はその姿を写真に収めた。何だか不格好。笑顔だけの問題でも無い気がする。本当に写真撮られるの苦手なんだな。
 ロボットの近くに看板があって近くにアトラクションがある案内が書かれている。
「これ、行ってみる?」
「そうだな、行ってみようかな」
 そう言うと青木は私を置いて、早々にアトラクションのある方へと向かい始めてしまう。足取りは早く後ろを付いて歩くのがやっとの程だった。やっぱりロボットが好きだからなのかな。
 平日な事もあって、アトラクションはそんなに人が並んでいなくってすぐに中へと入る事が出来た。
 内容は車型の乗り物に数人で乗って暗い室内を進んでいくというもの。所々に巨大なスクリーンが設置されていてロボット同士が戦い合う映像が映し出したり、作り物のロボットが近づいて乗り物に攻撃したりするものというものだった。
 時にはいきなり光ったり、水飛沫が飛んできたり、乗り物が大きく揺れたりして中々凝った作りのアトラクションだった。内容は何だかよく分からないけれど、ハッピーエンドだったと思う。
 室内の暗い所を進んでいくアトラクションだった為、終わって外に出て太陽の光を浴びるとちょっとだけ気持ち良かった。
 思いっきり背伸びをする。まだ一つ目のアトラクションだったけど。うん、最高に楽しんでいる気がする。
 まだまだこの後もアトラクションにもどんどん乗らなくっちゃ。
 近くには別のロボットのアトラクションがあるみたいだった。こっちは何かに乗って進んでいくライド型ではなくって映画館のように席に座って観るタイプのシアター型らしい。
 今度はそこにしようと青木に提案するとすぐに了承してくれたので、そこに向かった。
 到着すると、丁度上映開始したばかりだったらしく、十五分くらい待たないといけないらしく、並んだ列は全く動く気配がなく、みんな床に座ったり、壁に寄りかかったりしながら待っていた。一応室内だけど、床に座るのはなんだか嫌だったので壁に寄りかかりながら並ぶ事にした。青木も私と同じようにしていた。
 待っている人達はみんな携帯端末や一緒に来た人達と話しているので、私も青木と話そうとしたけれども、彼は鞄から文庫本を出して読み始めてしまう。パーク内に本を持って来ていたんだ。隣に私がいるのに。
「何を読んでるの?」
 他にやる事も無いし、試しに聞いてみた。青木の事を知る良い機会の気もするし。
「小説」
 短く分かりきっている言葉を返してきた。それは見れば分かる。
「何の?」
「んー、ミステリーかな?」
 変な反応が返ってくる。ジャンルが分からないの?
「それって面白いの?」
「微妙だな」
 微妙なのに読んでるのね。変なの。っていうより、会話する気が無いな。これ。青木はすっかり読むのに集中していた。なんだ、面白いんじゃないの。
 そう思ってもう聞くのを止めてしまった。不毛で虚しさを感じてしまったのもある。
 青木はかなりガードが固い。どうやら、彼の事を深く知る事は出来なさそうだ。
 そのまま二人で開演時間まで一言も話さなかった。沈黙を気まずく思っていたのは私だけで、青木は黙々と小説を読み進めていた。
 正直公演時間になるまで苦痛だった。体感時間がかなり長い十五分がやっと経過して、中に入り座席に座り込んだ時は少し安堵感を覚えてしまった。
 アトラクションの内容は前で演技する役者が映像の中に入ったり出たりするものでかなり作られていて凄いと思った。内容は面白かったけど、その前の青木とのやりとりで疲れてしまったのもあって一つ目と比べてもあまり大きな感動はない。二連続で室内のアトラクションに入ったのも関係があるかも知れない。
 だから、次に見えてきた室内アトラクションには寄らずに過ぎ去ってしまった。
  道なりに沿ってエリアを歩いていく。すると今度は大きな花園が見えてきた。
 花を見るだけで嬉しくなってしまう。私は青木を置いて、花園に向かって走り出す。
「わぁ、綺麗な場所!日本じゃないみたい」
 こんなに花に囲まれた所に来たのは初めてかも知れない。思わずインスタントカメラを取り出して何枚か連続で撮ってしまった。
「天国みたい」
 私の中で天国のイメージはどこまでも広がる花畑で、まさにここみたいな場所である。
「違う、何処までも現実だよ」
 青木が横槍を入れてくる。そんな事、言われなくたって分かってるわ。でも、まるで異国みたいじゃないの。
 気分も晴れた事だし、次に見えたアトラクションには乗ろうと決めた。少し歩くと石器時代をモチーフにしたエリアに入っていて、よく広告でみる有名な怪鳥に掴まれて空中を飛び回るコースター型の乗り物が近くにあった。
「ねぇ、これに乗ろうよ」
 青木は首を横に振った。
「コースター系は怖いからいいよ」
「えっ!」
 コースター系が怖いだなんて。
「意外。へぇ」
 意外も何も青木の事は知らない事ばかりなのだけれども、そんな言葉が出てきた。
「なんだよ、ニヤニヤして。別に苦手なものがあってもいいだろ」
 言われて笑っている事を自覚して、頬を引き延ばそうとするけれども、すぐに戻ろうとしてしまう。
「そうね。でも私はこれきっと乗れると思うよ」
「何だよ、やっぱり馬鹿にしてるんじゃないか」
 青木の言い方と照れと僻みが混じった表情が何だか可笑しい。
「ふふふ〜。面白い〜」
「面白くないぞ」
 インスタントカメラを出して勝手に青木の顔を撮る。
「おい、止めろよ!」
 追いかけてきたけど、私は逃げて二人で園内を走った。
 なんだか、久しぶりに笑って走ったような気がして気持ちよかった。