青木の事を知る為にも、色んなものに誘ってみよう。
 話しているうちにテーマパークの入口に着いたのでチケットを使って中へ入った。
「着いた!楽しみ!」
 まだ何もやっていないのに、嬉しくなってしまう。そんな私とは裏腹に青木は冷静に貰ったパンフレットを開いてじっくりと見ていた。
「それで、何処から向かうんだ?」
 別に何処からでも回ってもいいと言うような、何処のエリアも興味ないと言った風な冷たい言い方だった。
「なんで冷めてるのよ。夢広がる場所だよ?現実でない別の何処か。それって私達が求めて、探しているものじゃないの?」
 もしかしたら此処がその目的地かも知れない。
 私の思いが伝わったのか、青木はパンフレットを閉じた。
「そうだな。此処がそうなのかも知れないな。探そうか。夢のような所を」
 どうやら青木もやっと本気になったみたいだった。
 入口の派手なゲートを括り抜けるとお土産屋さんの建物の並びになり、さらに奥へと進んでいくと、中世を思い起こさせるようなアメリカンな街並みになっていた。
 そこに個体によって耳の数が一つだったり二つだったりする全身緑色のキャラクターのぬいぐるみが沢山居て、来場者に手を振ったり元気よく跳ねたりして歓迎してくれていた。
「まぁ、可愛い!青木、一枚撮ってよ!」
 ぬいぐるみに近づくと挨拶代わりに思いっきり抱きつく。ふわふわとしていて気持ちがいい。
青木に向かってポーズ取ったけれども彼はぼうっとして突っ立っているままだ。何をしているのだろうと思ったけれど、写真を撮れない事に気が付いた。携帯端末はきっとお互いに持っていないのだろう。
 仕方がなく青木の所に戻ると買っておいたインスタントカメラを何も言わずに手渡す。再びぬいぐるみの所へ戻るとポーズを取った。
 青木は少し呆気に取られていた様子だったけれど、すぐにダイヤルでフィルムを巻き上げると私に向けてシャッターを切った。
「ありがと。青木も撮る?」
 彼の所に戻るとインスタントカメラを受け取りながら一応聞いてみた。
「いや、俺は止めとく。しかしインスタントカメラか。よくこんなのあったな」
「うん、スーパーマーケットに売ってたよ」
 本当はデジタルカメラか、携帯端末のカメラで撮りたかったけど、今は両方とも無い。でも、このテーマパークに来て写真を一枚も撮らないなんて、ナンセンスな事この上無い事だとも思った。だから苦肉の策でインスタントカメラを買ったのであった。
 仕方がなくインスタントカメラを買ったけれども、何だか中学校時代の修学旅行を思い出して懐かしい気持ちになる。仲のいい友達がと一緒に色んな所を回って写真を撮りまくったっけな。
 あの子は今頃、どうしているのかな。確か、東北の私のおばあちゃんの家の近くに引っ越したと聞いたけれど……。
 まぁ、いいや!とにかく、今はテーマパークを楽しまないと!
「青木!」
 インスタントカメラのダイヤルを急いで巻きながら呼んだ。こちらを向いて気が緩んだ瞬間の顔をめがけてシャッターを押す。青木は咄嗟に手でカメラを遮ったけれども、もう何もかも遅かった。
「何をするんだよ!」
 珍しく怒っているらしかったので、笑って誤魔化した。
「ここに来て写真撮らないなんて勿体ないよ」
「俺、写真あんまり好きじゃない」
「そうなの?」
 魂が抜かれるからとかいうそういう理由??だとしたら申し訳ない事したかな。
「どんな表情していいのか分からないんだよ」
 何だ、そんな理由か。だったら――。
「だったらいいじゃない。これを期に練習したら」
「どんな練習だよ」
「笑顔のでしょ?」
 そう返した青木の顔はそこまで嫌そうな顔ではなかった。