次の日の朝、アルバイトの為指定された会社へ電車と路上バスを使って向かう。入り口に到着するとそこには担当者が私を待っていてくれてすぐに分かった。
担当者はスーツを着ていて私は私服だったので恰好に不安になったけれど、特に何か聞かれるような事もなく、更衣室まで案内される。
ロッカーを開けると、どんな体型の人でも着られるようなダボダボの作業服が入っていて、着替えて更衣室から出ると、早速、指定された場所まで移動して仕事を始めた。
青木は室内で簡単な仕事だと言ったけれど、そんな事は無かった。モップを持って力を入れながら床掃除を一時間するだけで体力のほとんどを持っていかれてしまう。これだけでもう嫌になったけれど、まだバイトが終わる時間までまだまだあった。
私は考えるのを止めて、情勢のままに清掃を続けていった。いつもより体感時間が五倍に感じながら時間が過ぎ去っていくのを、じっと待ち身体だけ動かしていった。
そして、アルバイト終了の時刻となり、着替えて受付にヘトヘトになりながら行くと、お金が入った封筒を受け取る。銀行振込でもいいのだけれども、こっちのほうが良いと青木は言っていた。何でも口座からの引き落としは履歴が残ってしまい、どこのATMから引き落としたのか丸わかりらしい。だから警察が本気で捜索したら居場所がバレるから止めた方がいいという理由だった。
受付の人に現金の手渡しに珍しがっていたけど深くは聞かれる事はなかった。それならもう関係ない。
帰って休みたい。さっさと帰ろうとした所、担当者がやってきて引き止められてしまう。何だろう。何かまだあるのだろうか。それとも家出中なのがバレたのか。そう思ったけれど、杞憂だった。
「日雇いだけれど、明日も来られない?」
どうやら私の仕事ぶりが気に入られたらしい。何故なのか、まるで自覚が無かったのだけれども。
明日はゆっくり休みたい。今日の日がまた明日も繰り返されるなんて想像しただけでも嫌だった。けれども、これが日雇いにしては簡単な部類の仕事であると青木に言われた事と、貰った封筒の薄さを思い出して承諾してしまう。
今度こそぐったりとした気持ちで帰る。会社の外に出るともう夕方だった。もう一日が終わってしまう感覚になる。
気合だけで、足を進めて段ボール部屋へ到着するとそのまま床へと倒れ込んでしまった。
慣れない事をやったので余計に疲れたような気がした。くたくたになりつつ買い溜めていた総菜弁当を食べ、明日も仕事があるのでそのまま寝る事にした。
そのままバイトを三日ほど続けて入れ込む。清掃の仕事は思っていたよりもハードで働いているだけで、私の精神状態は疲弊していた。
三日目も次の日の催促をされたけれども、断ってしまった。こういう事が出来るのは日雇いバイトの良い所である。三日でこんな調子だと先が思いやられるけれど、慣れない事をしているのだから今後もっと働けるようになればいいのだと自分に言い聞かせた。
何もする事が無くなった次の日、私は段ボールの部屋で横になりながらお財布の中身を見てみた。お金は思ったよりも貯まっていない。食事代が思っていたよりも掛かってしまっている。自炊なんて出来ないから全て外食かスーパーの総菜弁当だ。その消費がかなりの痛手となっていた。さらにシャワー代が出費を後押ししていた。
何もかもが嫌になる。生きていくだけでこんなに大変だったなんて思わなかった。お金が貯まらないから洋服だって買えないし、娯楽だって行えない。何の為に生きているのか分からなくなる。これじゃあ、働く為に生活しているみたいだ。そんな事はないのだろうけれど、そんな風に思ってしまう。
そんな事思うなら今からでも今日のバイトを入れて、稼げばいいのに、身体は動かない。
結局はそういうものなのである。
青木はどうやって今までやってきたのだろうか。彼は私よりも高い給料の肉体労働を中心に行っているにも関わらず、殆ど休まずに働いていた。今日だって働きに出ている。どこにそんな体力があるのだろうか。青木は何かスポーツでもしていたのだろうか。
そんな風に思いながら、夕方まで腐るようにダラダラと横になって過ごした。次第に耐えられなくなって公園内を散歩し始める。
気分は暗くて重い。何気なく見回し、散歩している周りの歩いている人達を見ると足取りは軽く動いているように見えて、対しての私の足は鈍い。
まるで他の人達は何にも苦労をしていないように、苦痛を感じていないようにしているように思えてしまった。もちろんそんな事はない。分かっている。分かっているのだけれども、そう感じてしまって妬んだ。
私、そんなに甘く生きて来たのかな。そんなつもりなんて無かったのに。
しばらく歩いていると、あるベンチに見知った人が座っているのを発見した。
「青木?」
その人物は文庫本を読んでいて、声を掛けると顔を上げて私の方を見た。顔を確認すると、やっぱり青木だった。
「こんな所で何をしているの?」
隣に座り込んで声を掛ける。青木は椅子の端に移動して避けたような気がしたけど、気にしない。
「別に。昼間に段ボール部屋に居ると補導されかねないから、ここで本を読んでるだけだよ」
「何それ」
私、今日一日段ボール部屋でゴロゴロしていたのだけれど。何も起きなかったし、青木が警戒しすぎなんじゃないの?
「それに、ここは眺めがいい」
正面を見ると確かに見晴らしは良かった。程よい住宅と緑が見える。その素朴さが私の心を落ち着かせた。
いい所、知ってるじゃない。私にも早く教えて欲しかったな。
「バイト、どうだ?」
青木がぼそりと言った。心配の言葉を掛けられた事に少し意外に思った。
「うん、まぁまぁかなぁ」
少し、濁したけれど、本当はもう心は疲れ切っていた。本当はもう働きたくない。
「初めのうちはバイト続きの生活、慣れないだろ?オレもそうだったから。分かる」
そっか。青木にも、そんな時期があったんだ。もしかしたら、今みたいにバリバリ働いていたわけでもないのかも知れない。
もしかしたら、私の事を心配してくれているのだろうか。
「心配してくれたんだ。ありがとう」
そう伝えると彼はそっぽを向いてしまった。本当に照れ屋なんだから。
話す事はこれで終わりかのように、手に持っていた文庫本を読み始めてしまう。今はこうして隣に居てくれるだけで良かった。
夕日が沈むまで青木と隣に座って景色を眺め、暗くなりそうな段階で段ボール部屋と一緒に帰った。
何だか少し元気が出て来た。私ももう少し頑張らないといけない。改めてそう思った。
よし、頑張ろう。
担当者はスーツを着ていて私は私服だったので恰好に不安になったけれど、特に何か聞かれるような事もなく、更衣室まで案内される。
ロッカーを開けると、どんな体型の人でも着られるようなダボダボの作業服が入っていて、着替えて更衣室から出ると、早速、指定された場所まで移動して仕事を始めた。
青木は室内で簡単な仕事だと言ったけれど、そんな事は無かった。モップを持って力を入れながら床掃除を一時間するだけで体力のほとんどを持っていかれてしまう。これだけでもう嫌になったけれど、まだバイトが終わる時間までまだまだあった。
私は考えるのを止めて、情勢のままに清掃を続けていった。いつもより体感時間が五倍に感じながら時間が過ぎ去っていくのを、じっと待ち身体だけ動かしていった。
そして、アルバイト終了の時刻となり、着替えて受付にヘトヘトになりながら行くと、お金が入った封筒を受け取る。銀行振込でもいいのだけれども、こっちのほうが良いと青木は言っていた。何でも口座からの引き落としは履歴が残ってしまい、どこのATMから引き落としたのか丸わかりらしい。だから警察が本気で捜索したら居場所がバレるから止めた方がいいという理由だった。
受付の人に現金の手渡しに珍しがっていたけど深くは聞かれる事はなかった。それならもう関係ない。
帰って休みたい。さっさと帰ろうとした所、担当者がやってきて引き止められてしまう。何だろう。何かまだあるのだろうか。それとも家出中なのがバレたのか。そう思ったけれど、杞憂だった。
「日雇いだけれど、明日も来られない?」
どうやら私の仕事ぶりが気に入られたらしい。何故なのか、まるで自覚が無かったのだけれども。
明日はゆっくり休みたい。今日の日がまた明日も繰り返されるなんて想像しただけでも嫌だった。けれども、これが日雇いにしては簡単な部類の仕事であると青木に言われた事と、貰った封筒の薄さを思い出して承諾してしまう。
今度こそぐったりとした気持ちで帰る。会社の外に出るともう夕方だった。もう一日が終わってしまう感覚になる。
気合だけで、足を進めて段ボール部屋へ到着するとそのまま床へと倒れ込んでしまった。
慣れない事をやったので余計に疲れたような気がした。くたくたになりつつ買い溜めていた総菜弁当を食べ、明日も仕事があるのでそのまま寝る事にした。
そのままバイトを三日ほど続けて入れ込む。清掃の仕事は思っていたよりもハードで働いているだけで、私の精神状態は疲弊していた。
三日目も次の日の催促をされたけれども、断ってしまった。こういう事が出来るのは日雇いバイトの良い所である。三日でこんな調子だと先が思いやられるけれど、慣れない事をしているのだから今後もっと働けるようになればいいのだと自分に言い聞かせた。
何もする事が無くなった次の日、私は段ボールの部屋で横になりながらお財布の中身を見てみた。お金は思ったよりも貯まっていない。食事代が思っていたよりも掛かってしまっている。自炊なんて出来ないから全て外食かスーパーの総菜弁当だ。その消費がかなりの痛手となっていた。さらにシャワー代が出費を後押ししていた。
何もかもが嫌になる。生きていくだけでこんなに大変だったなんて思わなかった。お金が貯まらないから洋服だって買えないし、娯楽だって行えない。何の為に生きているのか分からなくなる。これじゃあ、働く為に生活しているみたいだ。そんな事はないのだろうけれど、そんな風に思ってしまう。
そんな事思うなら今からでも今日のバイトを入れて、稼げばいいのに、身体は動かない。
結局はそういうものなのである。
青木はどうやって今までやってきたのだろうか。彼は私よりも高い給料の肉体労働を中心に行っているにも関わらず、殆ど休まずに働いていた。今日だって働きに出ている。どこにそんな体力があるのだろうか。青木は何かスポーツでもしていたのだろうか。
そんな風に思いながら、夕方まで腐るようにダラダラと横になって過ごした。次第に耐えられなくなって公園内を散歩し始める。
気分は暗くて重い。何気なく見回し、散歩している周りの歩いている人達を見ると足取りは軽く動いているように見えて、対しての私の足は鈍い。
まるで他の人達は何にも苦労をしていないように、苦痛を感じていないようにしているように思えてしまった。もちろんそんな事はない。分かっている。分かっているのだけれども、そう感じてしまって妬んだ。
私、そんなに甘く生きて来たのかな。そんなつもりなんて無かったのに。
しばらく歩いていると、あるベンチに見知った人が座っているのを発見した。
「青木?」
その人物は文庫本を読んでいて、声を掛けると顔を上げて私の方を見た。顔を確認すると、やっぱり青木だった。
「こんな所で何をしているの?」
隣に座り込んで声を掛ける。青木は椅子の端に移動して避けたような気がしたけど、気にしない。
「別に。昼間に段ボール部屋に居ると補導されかねないから、ここで本を読んでるだけだよ」
「何それ」
私、今日一日段ボール部屋でゴロゴロしていたのだけれど。何も起きなかったし、青木が警戒しすぎなんじゃないの?
「それに、ここは眺めがいい」
正面を見ると確かに見晴らしは良かった。程よい住宅と緑が見える。その素朴さが私の心を落ち着かせた。
いい所、知ってるじゃない。私にも早く教えて欲しかったな。
「バイト、どうだ?」
青木がぼそりと言った。心配の言葉を掛けられた事に少し意外に思った。
「うん、まぁまぁかなぁ」
少し、濁したけれど、本当はもう心は疲れ切っていた。本当はもう働きたくない。
「初めのうちはバイト続きの生活、慣れないだろ?オレもそうだったから。分かる」
そっか。青木にも、そんな時期があったんだ。もしかしたら、今みたいにバリバリ働いていたわけでもないのかも知れない。
もしかしたら、私の事を心配してくれているのだろうか。
「心配してくれたんだ。ありがとう」
そう伝えると彼はそっぽを向いてしまった。本当に照れ屋なんだから。
話す事はこれで終わりかのように、手に持っていた文庫本を読み始めてしまう。今はこうして隣に居てくれるだけで良かった。
夕日が沈むまで青木と隣に座って景色を眺め、暗くなりそうな段階で段ボール部屋と一緒に帰った。
何だか少し元気が出て来た。私ももう少し頑張らないといけない。改めてそう思った。
よし、頑張ろう。

