律哉はこの国で伯爵の爵位を賜っている華族、桐ケ谷(きりがや)家に次男として生まれた。

 桐ケ谷家は長い歴史を持ち、かつそこそこ裕福。幅広く事業も手掛けており、律哉はなに不自由なく暮らしていた。

 次男なので、家督は継げない。だからこそ、手に職を着けようと士官学校に入学。そのままエリート軍人のコースを進み続けた。

 無我夢中で仕事に励んだ。それ以外のことは二の次で、職場の近くにアパートを借り、実家の邸宅には寄り付かなかった。

 特に両親が病で相次いで亡くなってからは、家のことは兄に任せっぱなし。年に二度、両親の墓参りに行くとき以外、兄とも会わなかった。……その所為で、変化に気が付くのが遅れてしまった。

 気が付いたのは、今から三年前。兄が事故で急逝したとき。

 兄は独身で、もちろん子供もいなかった。つまり、家督は自然と律哉に回ってくる。正直、気乗りはしなかった。次男として悠々自適に生きていけるものだと信じていた。仕事だけをしていればいいと、信じていたのだから。

 だが、親戚たちの強い要望を聞き、律哉は家督を継ぐことにした。……多分ではあるが、親戚たちは知っていたのだろう。

 ――律哉の兄が作った、多額の借金を。