【プロローグ】

 今から百年ほど前――この大陸には「魔王」と呼ばれる脅威が現れた。

 世界を破滅へ導こうとする邪悪かつ強力な支配者であり、彼に仕えるモンスター軍団は人々の暮らしを脅かしていた。しかし、多くの冒険者の命を懸けた長い戦いの末、ついに人類は魔王を討ち滅ぼすことに成功した。

 そして、世の中はすっかり平和になった。
 街道を歩いてもモンスターに襲われる危険はめったになく、人々は安穏とした日々を享受している。

 だが、かつて魔王を倒すために血反吐を吐いて戦っていた冒険者たちにとっては、皮肉な現実が待ち受けていた。
 平和になったがゆえに、仕事がなくなったのだ。
 モンスター討伐クエストは激減し、冒険者ギルドも解散に追い込まれ、彼らは社会に取り残された。

 やがて王国は「冒険者は一般職に転職せよ」というお触れを出す。
 突然の方針転換に、慌てふためく冒険者は少なくなかったが、「働かなければ食べていけない」というのは世界の理。みな手探りながらも、新たな職業を探すべく動き始めた。

 そんな失業冒険者たちを受け入れるのが、王国の中心にそびえる白亜の神殿――ボーデブルグ神殿。ここでは「ジョブチェンジの儀式」を行うことで、冒険者は別の職業に生まれ変わることができる。
 そして神殿には、冒険者の転職希望を聞き取り、次なる職業の求人を紹介してサポートする巫女たち――つまり“転職エージェント”が多く在籍していた。
 今や神殿は、モンスター退治の拠点ではなく、就職あっせん所さながらの賑わいを見せているのである。

 そして、この物語の主人公こそ、その神殿で今年から巫女として働き始めた新人――アンナ・ボーデブルグ。
 様々な冒険者が華々しく活躍した時代の終焉を迎え、逆に“職探しの時代”が始まった世界。
 その中でアンナたち神殿の巫女たちが活躍する“転職サポート奮闘記”が、今ここに幕を開ける――