―1—
「重力の弾丸」
もうダメかと覚悟を決めたとき、背後から拳大ほどの黒い球体が飛んできた。
すでにガインの爪がオレの頬を掠める寸前まで迫っていたが、間一髪のところで黒い球体がガインの腕を弾き返した。
あらゆる攻撃を受けても痛がる素振り一つ見せなかったガインだが、この日初めてその鋭い赤眼を細めた。
ガインの興味はオレからオレの背後の誰かに変わっていた。
「龍の火炎——」
近距離から火炎砲を吐き出そうと口を開くガイン。
しかし、火炎砲が放たれることはなかった。
「瞬雷」
ガインの頭上に雷が落ちたのだ。
激しい光に目を開けていることすら叶わない。遅れて大地を震わす轟音が鳴り響いた。
「ガハッ」
黒い煙を吐き、地面に吸い寄せられるようにして倒れるガイン。
「神楽坂、暗空、よく持ち堪えてくれた」
「榊原先輩、天童先輩」
生徒会副会長の榊原先輩が「後は任せろ」とオレと暗空をガインから守るように立ち塞がった。
「可愛い後輩に怪我させたんだ。もちろんそれなりの覚悟はできてるよね?」
天童先輩の笑みが少し怖い。
雷帝という異名を持っているだけあって、指先からバチバチと電撃が弾けている。
学院の序列3位と序列5位。学年はオレたちと1つしか変わらないが2人の背中を見ていると安心感が違う。
「爆ぜろ!」
何の予兆も無く、先輩たちが立つ地面が爆発した。2人はそれぞれ重力と電撃の盾を出現させて衝撃から身を守る。
「よくも私の従者ガインを痛めつけてくれたね! 主として許さない!」
軽やかな足取りで近づいてくる少女の声。
爆発で舞い上がった砂煙が徐々に晴れ、その姿が明らかになる。
黒いマントを羽織り、頭にも同じく黒の三角帽子を被っている。
十字架が描かれた眼帯を右目にしており、左目は綺麗な黄色。
手には木の杖を持っていて、その先端にはルビーのように赤く輝く宝石が付いている。
滝壺先輩のイラストのままだ。まさに魔法少女をこの世に具現化させた姿と言っていいだろう。
「私は世界最強の魔法少女ウィズ! 悪を滅ぼす正義の味方☆」
ウィズが杖を振ると、彼女の背後で再び爆発が起きた。
爆風で背中まで伸びた灰色の髪がなびく。
「決まった」
満足気な表情を見せるウィズ。
何と言うかかなり個性的な性格らしい。
「それはそうと、ガインが倒されるなんて君たちもしかして強い?」
ウィズはガインの尻尾を掴むと、驚くべきことにそのまま後方に投げ飛ばした。
あの巨体をいとも簡単にだ。
この少女、ただ者ではない。
「重力の弾丸」
これ以上好き勝手にさせるわけにはいかないと、榊原先輩が重力の塊を放つ。
対するウィズは、杖を前に構える。
「制圧せよ! 私の可愛い蝶々たち。火蝶の行進」
杖の先が赤く輝き、炎を纏った蝶が次々と吹き出してきた。
初めに飛び出してきた火蝶が『重力の弾丸』にぶつかった瞬間、激しい爆発が起きる。
火蝶の行進は止まらない。
杖の先から解き放たれた蝶の数は25匹。
1匹1匹が高い爆発能力を持っている。
ゆらゆらと左右に揺れながら着実にこちらに近づいてくる。
「雷撃の舞い」
天童先輩の手の平から雷撃が放たれる。
地面と平行方向に放たれた雷撃は、一瞬にして広範囲に駆け巡る。宙を舞う火蝶もこの攻撃を避けることは難しかったようで、至る所で爆発の連鎖が起こる。
「なるほど。火蝶の行進を防ぐとは、相手にとって不足無し! よしっ、私も力の枷を外すとしよう☆彡」
バサッと黒マントを翻すウィズ。
杖を斜め上空に向け、「この魔法を唱えた後には何も残らない」などと怪しげなことを言っている。
「世界を無に帰す爆裂魔法! 爆裂流星群!」
メラメラと燃え上がる巨大な岩が八つ、太陽から学院目掛けて降ってきた。
まさに規格外。
ガインでさえ災害級の強さだと思っていたが、このウィズとかいう魔法少女はそれを超えるかもしれない。
もし、あれが直撃したらここら辺一帯は何も残らないだろう。
先輩2人の顔色を窺う。
榊原先輩が人差し指の先に高エネルギーの塊を生成していた。
一方、天童先輩は雷の障壁を展開させている。
攻撃と防御で役割を分担させる作戦のようだが、それではウィズの攻撃を相殺することも、防ぎきることもできないだろう。
オレがわかっているのだから先輩たちも理解しているはずだ。
「先輩?」
暗空がそう声を漏らしたのも無理はない。
榊原先輩と天童先輩の両方が同時に技を解除させたのだ。
そうしている間にも降り注ぐ岩石。
オレも融合技の反動で異能力を発動できそうにない。
詰みだ。
数秒先の未来のことを考えると目を覆いたくなる。
「八岐大蛇ッ!」
校舎の屋上に8つの頭と8つの尾を持つ青い大蛇が出現した。
大蛇は、巨大な鋭い歯で降り注ぐ岩石を1つ残らず噛み砕く。
砕いた石の欠片が雨のように降ってくる。
この技は馬場会長の魔剣・蒼蛇剣によるものだ。
「俺たちが1番最後になるとはな。すまない」
馬場会長と滝壺先輩、橋場先輩が合流した。これで生徒会のメンバーが勢揃いしたことになる。
合流するや否や馬場会長が魔剣を斜めに振り、ウィズに斬撃を放つ。
ウィズの背後に倒れていたガインがいち早く反応し、強固な鱗で斬撃を防いだ。
しかし、斬撃の威力に耐え切れなかったのか腕から血が噴き出した。
「ガイン! 火炎渦!」
ウィズの杖から炎の渦が放たれる。
馬場会長を遠ざけることが目的だろう。
「水の波動砲」
滝壺先輩が繰り出した攻撃技が『火炎渦』を打ち消す。
炎と水の衝突で湯気が上がった。
「これくらいの攻撃で会長の手を煩わさせる訳にはいきません」
先程まで押されていたのが嘘のよう。
序列1位から序列5位がオレと暗空の前に1列に並んでいる。この人たちが敵じゃなくてよかった。
ウィズの攻撃と入れ替わりで、ガインの尻尾の鞭が湯気を切り裂いて襲い掛かってきた。
「筋肉武装!」
橋場先輩が筋肉の鎧を身に纏う。
オレと模擬戦をしたときは腕だけの強化だったが、全身を一気に強化させた感じだ。
まるで鍛錬を積んだボディビルダーのようだ。
「筋肉ッ!」
謎の雄叫びを上げながらガインの尻尾を受け止めた橋場先輩。
そのまま尻尾を脇に挟むと回り始めた。
「ぬおおおおおーーーーーーーー!!!!!!」
足の血管が浮かび上がり、より一層筋肉が膨れ上がる。
引きずられていたガインの体がゆっくりと浮かび、ガインは橋場先輩にされるがまま投げ飛ばされた。
筋肉恐るべし。
これが橋場先輩の本来の姿なのだろう。
この状態の橋場先輩と戦っていたら勝てていたかわからないな。
「ガインとウィズを持ってしても制圧できないか」
空気が凍り付く。
いつからそこに立っていたのか、白髪青眼の少年——シューターがオレの隣で囁いた。
表情に感情が込められていない。
「必要ならハバネロを置いていくことも考えないといけないか」
「!?」
瞬きをした一瞬の間でシューターはウィズの目の前に移動していた。
「必要ない! 右目の封印を解放すればこんな敵一瞬で」
「ウィズ、言い訳するくらいなら初めから解放でもなんでもすればいいのに」
味方とは思えない冷たい言葉。
反異能力者ギルド最後の1人、黒髪短髪の少女ハバネロが投げ飛ばされたガインの腕を撫でながらそう言った。
反対の手には、滝壺先輩のイラストにあった黒い模様の入っている刀が握られている。
「まあいいだろう。2人共次は無いぞ。俺とハバネロは当初の目的を果たす。全てはゼロのために」
シューターはハバネロとガインの近くまで足を進めると再び姿を消した。
同時にハバネロの姿も消えていた。
今の今までそこにいたはずなのに目で追うことができなかった。
「暗空、動けるか?」
馬場会長が第2校舎に視線を向けながら暗空に聞いた。
「はい大丈夫です」
「シューターを追うからついて来い。榊原、ここの指揮はお前に任せる。この中で全体が1番見えているのは榊原だ。みんなを頼んだぞ」
「わかりました」
馬場会長と暗空が第2校舎に向かい、オレたちはガインとウィズの攻撃を食い止めることに。
反異能力者ギルドと異能力者育成学院の総力戦が幕を開ける。
「重力の弾丸」
もうダメかと覚悟を決めたとき、背後から拳大ほどの黒い球体が飛んできた。
すでにガインの爪がオレの頬を掠める寸前まで迫っていたが、間一髪のところで黒い球体がガインの腕を弾き返した。
あらゆる攻撃を受けても痛がる素振り一つ見せなかったガインだが、この日初めてその鋭い赤眼を細めた。
ガインの興味はオレからオレの背後の誰かに変わっていた。
「龍の火炎——」
近距離から火炎砲を吐き出そうと口を開くガイン。
しかし、火炎砲が放たれることはなかった。
「瞬雷」
ガインの頭上に雷が落ちたのだ。
激しい光に目を開けていることすら叶わない。遅れて大地を震わす轟音が鳴り響いた。
「ガハッ」
黒い煙を吐き、地面に吸い寄せられるようにして倒れるガイン。
「神楽坂、暗空、よく持ち堪えてくれた」
「榊原先輩、天童先輩」
生徒会副会長の榊原先輩が「後は任せろ」とオレと暗空をガインから守るように立ち塞がった。
「可愛い後輩に怪我させたんだ。もちろんそれなりの覚悟はできてるよね?」
天童先輩の笑みが少し怖い。
雷帝という異名を持っているだけあって、指先からバチバチと電撃が弾けている。
学院の序列3位と序列5位。学年はオレたちと1つしか変わらないが2人の背中を見ていると安心感が違う。
「爆ぜろ!」
何の予兆も無く、先輩たちが立つ地面が爆発した。2人はそれぞれ重力と電撃の盾を出現させて衝撃から身を守る。
「よくも私の従者ガインを痛めつけてくれたね! 主として許さない!」
軽やかな足取りで近づいてくる少女の声。
爆発で舞い上がった砂煙が徐々に晴れ、その姿が明らかになる。
黒いマントを羽織り、頭にも同じく黒の三角帽子を被っている。
十字架が描かれた眼帯を右目にしており、左目は綺麗な黄色。
手には木の杖を持っていて、その先端にはルビーのように赤く輝く宝石が付いている。
滝壺先輩のイラストのままだ。まさに魔法少女をこの世に具現化させた姿と言っていいだろう。
「私は世界最強の魔法少女ウィズ! 悪を滅ぼす正義の味方☆」
ウィズが杖を振ると、彼女の背後で再び爆発が起きた。
爆風で背中まで伸びた灰色の髪がなびく。
「決まった」
満足気な表情を見せるウィズ。
何と言うかかなり個性的な性格らしい。
「それはそうと、ガインが倒されるなんて君たちもしかして強い?」
ウィズはガインの尻尾を掴むと、驚くべきことにそのまま後方に投げ飛ばした。
あの巨体をいとも簡単にだ。
この少女、ただ者ではない。
「重力の弾丸」
これ以上好き勝手にさせるわけにはいかないと、榊原先輩が重力の塊を放つ。
対するウィズは、杖を前に構える。
「制圧せよ! 私の可愛い蝶々たち。火蝶の行進」
杖の先が赤く輝き、炎を纏った蝶が次々と吹き出してきた。
初めに飛び出してきた火蝶が『重力の弾丸』にぶつかった瞬間、激しい爆発が起きる。
火蝶の行進は止まらない。
杖の先から解き放たれた蝶の数は25匹。
1匹1匹が高い爆発能力を持っている。
ゆらゆらと左右に揺れながら着実にこちらに近づいてくる。
「雷撃の舞い」
天童先輩の手の平から雷撃が放たれる。
地面と平行方向に放たれた雷撃は、一瞬にして広範囲に駆け巡る。宙を舞う火蝶もこの攻撃を避けることは難しかったようで、至る所で爆発の連鎖が起こる。
「なるほど。火蝶の行進を防ぐとは、相手にとって不足無し! よしっ、私も力の枷を外すとしよう☆彡」
バサッと黒マントを翻すウィズ。
杖を斜め上空に向け、「この魔法を唱えた後には何も残らない」などと怪しげなことを言っている。
「世界を無に帰す爆裂魔法! 爆裂流星群!」
メラメラと燃え上がる巨大な岩が八つ、太陽から学院目掛けて降ってきた。
まさに規格外。
ガインでさえ災害級の強さだと思っていたが、このウィズとかいう魔法少女はそれを超えるかもしれない。
もし、あれが直撃したらここら辺一帯は何も残らないだろう。
先輩2人の顔色を窺う。
榊原先輩が人差し指の先に高エネルギーの塊を生成していた。
一方、天童先輩は雷の障壁を展開させている。
攻撃と防御で役割を分担させる作戦のようだが、それではウィズの攻撃を相殺することも、防ぎきることもできないだろう。
オレがわかっているのだから先輩たちも理解しているはずだ。
「先輩?」
暗空がそう声を漏らしたのも無理はない。
榊原先輩と天童先輩の両方が同時に技を解除させたのだ。
そうしている間にも降り注ぐ岩石。
オレも融合技の反動で異能力を発動できそうにない。
詰みだ。
数秒先の未来のことを考えると目を覆いたくなる。
「八岐大蛇ッ!」
校舎の屋上に8つの頭と8つの尾を持つ青い大蛇が出現した。
大蛇は、巨大な鋭い歯で降り注ぐ岩石を1つ残らず噛み砕く。
砕いた石の欠片が雨のように降ってくる。
この技は馬場会長の魔剣・蒼蛇剣によるものだ。
「俺たちが1番最後になるとはな。すまない」
馬場会長と滝壺先輩、橋場先輩が合流した。これで生徒会のメンバーが勢揃いしたことになる。
合流するや否や馬場会長が魔剣を斜めに振り、ウィズに斬撃を放つ。
ウィズの背後に倒れていたガインがいち早く反応し、強固な鱗で斬撃を防いだ。
しかし、斬撃の威力に耐え切れなかったのか腕から血が噴き出した。
「ガイン! 火炎渦!」
ウィズの杖から炎の渦が放たれる。
馬場会長を遠ざけることが目的だろう。
「水の波動砲」
滝壺先輩が繰り出した攻撃技が『火炎渦』を打ち消す。
炎と水の衝突で湯気が上がった。
「これくらいの攻撃で会長の手を煩わさせる訳にはいきません」
先程まで押されていたのが嘘のよう。
序列1位から序列5位がオレと暗空の前に1列に並んでいる。この人たちが敵じゃなくてよかった。
ウィズの攻撃と入れ替わりで、ガインの尻尾の鞭が湯気を切り裂いて襲い掛かってきた。
「筋肉武装!」
橋場先輩が筋肉の鎧を身に纏う。
オレと模擬戦をしたときは腕だけの強化だったが、全身を一気に強化させた感じだ。
まるで鍛錬を積んだボディビルダーのようだ。
「筋肉ッ!」
謎の雄叫びを上げながらガインの尻尾を受け止めた橋場先輩。
そのまま尻尾を脇に挟むと回り始めた。
「ぬおおおおおーーーーーーーー!!!!!!」
足の血管が浮かび上がり、より一層筋肉が膨れ上がる。
引きずられていたガインの体がゆっくりと浮かび、ガインは橋場先輩にされるがまま投げ飛ばされた。
筋肉恐るべし。
これが橋場先輩の本来の姿なのだろう。
この状態の橋場先輩と戦っていたら勝てていたかわからないな。
「ガインとウィズを持ってしても制圧できないか」
空気が凍り付く。
いつからそこに立っていたのか、白髪青眼の少年——シューターがオレの隣で囁いた。
表情に感情が込められていない。
「必要ならハバネロを置いていくことも考えないといけないか」
「!?」
瞬きをした一瞬の間でシューターはウィズの目の前に移動していた。
「必要ない! 右目の封印を解放すればこんな敵一瞬で」
「ウィズ、言い訳するくらいなら初めから解放でもなんでもすればいいのに」
味方とは思えない冷たい言葉。
反異能力者ギルド最後の1人、黒髪短髪の少女ハバネロが投げ飛ばされたガインの腕を撫でながらそう言った。
反対の手には、滝壺先輩のイラストにあった黒い模様の入っている刀が握られている。
「まあいいだろう。2人共次は無いぞ。俺とハバネロは当初の目的を果たす。全てはゼロのために」
シューターはハバネロとガインの近くまで足を進めると再び姿を消した。
同時にハバネロの姿も消えていた。
今の今までそこにいたはずなのに目で追うことができなかった。
「暗空、動けるか?」
馬場会長が第2校舎に視線を向けながら暗空に聞いた。
「はい大丈夫です」
「シューターを追うからついて来い。榊原、ここの指揮はお前に任せる。この中で全体が1番見えているのは榊原だ。みんなを頼んだぞ」
「わかりました」
馬場会長と暗空が第2校舎に向かい、オレたちはガインとウィズの攻撃を食い止めることに。
反異能力者ギルドと異能力者育成学院の総力戦が幕を開ける。



