序列主義の異能学院

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 鍵を受け取った生徒から解散となるため、オレたちは昼飯を食べに行く者と生活の拠点となる寮へ向かう者との2通りに分かれた。

 オレは後者。
 まず自分の目で室内をチェックしておきたい。
 部屋はどのくらい広いのか。陽当たりは良いのか、悪いのか。隣の住人の生活音はどの程度で聞こえるのか、など。

 実際にその場に行かないと掴めない情報は多い。

 体育館の脇を通り、校舎の前を通り越し、数分進むと左手に公園が出てくる。
 ブランコに滑り台、ジャングルジムという定番な遊具が並び、木の陰にはベンチが2つやや離れた位置に設置してある。
 学校帰りや休みの日など、一息つきたいときに利用できそうだ。

 そんな公園内に女子2人と男子1人の姿があった。
 女子の方は制服を着ているから1年生ということがわかる。男の方は黒いパーカーにジーンズを履いている。
 生徒会以外の生徒は休みのはずだから2年生か3年生のどちらかだろう。パーカー男は何やら興奮した様子で女子2人に詰め寄っていた。

 オレは気配を消して少し近づき、木の陰から成り行きを見届けることにした。

「先輩に向かってなんだよその口の利き方は。中学で何勉強してきたんだ?」

「ご、ごめんなさい。でも、でも……」

風花(ふうか)ちゃん、こんな人に謝らなくていいよ」

 オレと同じバスに乗っていた茶髪の少女、明智(あけち)ひかりが千代田風花(ちよだふうか)のことを隠すように前に立った。
 どうやら千代田(ちよだ)がまたトラブルに巻き込まれたみたいだ。

「あっ? ぶつかってきたのはどう見てもそっちだろ」

「私にはあなたからぶつかってきたように見えましたけど」

 先輩相手にも明智は引かない。

「本当に生意気な餓鬼だな。あなたじゃねー。俺は異能力者育成学院序列24位の土浦陸(つちうらりく)だ。このままじゃ(らち)が明かねーから正々堂々バトルで決着をつけねーか?」

「バトル?」

「この学校に入ったんだ。知らないとは言わせないぞ。うちの学校のルールでは、月に1度だけ自分より序列の高い人にバトルを申し込むことが出来るんだ。申し込まれた方はそれを断ることができない」

 『下剋上システム』と呼ばれるそれは勝敗によって大きく運命が分かれる。
 まず、この学校の序列がどのようにして決まっているのかという点だが、全て『序列システム』によって管理されている。

 学校側が年に数回開催するイベントや下剋上システムのバトルで勝利することによって得られるポイント、バトルポイントの総数によって序列が決定する。

 先ほど下剋上システムに基づくバトルの勝敗によって運命が左右されると言ったが、挑戦者側が勝利すればバトルを受けた側のポイントの半分を奪うことができる。
 逆に負けてしまった場合は、自分のポイントの半分を相手に支払わなくてはならない。

 しかし、オレや明智は新入生なので当然バトルポイントを所持していない。
 その場合は、自動的に10ポイントが相手に支払われるらしい。ただしポイントがマイナスになることはない。

 これらの細かいシステムに関しては、全て学校から送られてきた事前案内に載っていたことだ。
 全て暗記しているオレは例外として、明智がこのルールをどこまで理解しているかが問題だな。

 明智にとってデメリットはない。
 しかし、校内で行われた全てのバトルデータは映像として残るため、もし明智が土浦に破れた場合、その事実が消えることは無い。
 データが残るからなんだ言われてしまえばそれまでの話なのだが。

「つまり私があなたに勝負を挑むってこと?」

「そうなるな。そんで、次は眼鏡だ」

 千代田を見て舌なめずりをする土浦。
 千代田は土浦から視線を逸らして自分の体を抱きしめた。

「そうはなりません。土浦陸(つちうらりく)さん、あなたに勝負を申し込みます。それで私があなたを倒します」

「明智さん——」

「いいの風花ちゃん、私は理不尽なことが許せないだけだから。バトルが終わったら寮で風花ちゃんの中学時代の話とか好きなことの話とか色々聞かせてねっ」

 明智が優しい笑顔から一変、勝負師の顔に変わった。
 戦う覚悟を決めたようだ。

「よしっ、決まりだ」

 土浦が不気味に口角を上げた。