―1—
予選と本戦の間にあたる5月1日。
この日は大会期間で唯一の休日となっている。
予選通過者は各ブロック2人の合計8人。
昨日は4回戦、5回戦と立て続けに行われたため、予選通過者の体にもかなり疲労が蓄積されているはずだ。
久し振りの休みということもあってそれぞれが自分に合った休日を過ごしていることだろう。
「さて」
冷蔵庫の中の食材が底をつきそうだったので、オレはショッピングモール内にあるスーパーまで来ていた。
ここには肉、野菜、魚を中心に数多くの食品が販売されている。
普段は学食で済ませることが多いのだが、さすがにそれだけでは飽きてしまうので、気分転換も兼ねて自炊をすることもある。
とはいっても時間の関係上それほど凝ったものは作れていないのだが。
「そこのお兄さん、ちゃんと野菜食べてるかい? 1人暮らしだと栄養が偏りがちになっちゃうからね。今日は新鮮な野菜が多く入ってるんだよ! よかったら1つどうだい?」
買い物カゴを片手に野菜コーナーの前を歩いていると、陽気な店員が声を掛けてきた。
店員の隣に設けられた特設コーナーには、春キャベツ、新ジャガイモ、トマト、ゴボウなどの野菜が彩り豊かに陳列されている。
どれも瑞々しくて美味しそうだが、1人で食べるとなると少し量が多いような気がする。
貴重なライフポイントで購入するため、余ったら野菜もポイントももったいない。
「どれがオススメですか?」
オレが買うかどうか迷っていると、他の客が店員に話し掛けた。
「千炎寺」
「おお、神楽坂か。お前も買い物か?」
店員に声を掛けたのは、赤髪の刀使いこと千炎寺正隆だった。
「お知り合いでしたか! いやー、偶然ですね!」
偶然とは言うが、ショッピングモールを利用している約8割以上が異能力者育成学院の関係者だ。それ故、知り合いに遭遇する確率も高い。
「今日のオススメはこちらのジャガイモです。ジャガイモは何にでも使えますからね。是非! いかがでしょうか?」
「それじゃあ1袋もらいます。神楽坂はどうする?」
「じゃあ、オレも1袋買います」
「ありがとうございます!」
店員からジャガイモを受け取り、オレと千炎寺はそのままレジへと向かう。
「千炎寺は料理とかするのか?」
「そうだな。魚を焼いたり、野菜を炒めるくらいだな。大抵の食べ物は焼けば食べられる」
千炎寺が手にしている買い物カゴの中には卵やウインナー、鮭などが入ってた。
学食でもあまり千炎寺の姿は見ない。栄養バランスを考えているのかはわからないが、自炊していることに関しては素直に偉いと思う。
以前、鞘師先生がライフポイントについて説明した際、ライフポイントは序列によって支給額が大きく異なると言っていた。
初戦で敗退したオレはこの学院で序列最下位ということになる。
ライフポイントの支給額も大幅に減るだろう。いつまでも学食ばかりを頼ってはいられなくなりそうだ。
「神楽坂は初戦で負けたと聞いたが、調子でも悪かったのか?」
会計を終え、寮に向かって歩いていると千炎寺がそう訊いてきた。
大会直前に総当たり戦で対戦したということもあって気にしていてくれたのだろうか。
「いや、完全に不意を突かれたんだ。相手が一枚上手だった」
「そうか。神楽坂とは本選で当たると期待していたんだけどな」
「そんな風に思っていたのか」
千炎寺の口から「期待していた」という言葉が出てくるだなんて考えてもいなかった。
太陽が完全に姿を隠し、歩道の街灯がオレたちの影を地面に映し出している。
「総当たり戦で戦ったとき、バトル中盤からお前はまるで人が変わったかのように厄介になった。オレが異能力を使っていなかったらどうなっていたか」
そう話す千炎寺の口の端が僅かに上がった。
特待生ほどの実力者は周囲に互角に戦える相手がいない。それこそ同じ特待生か序列上位者でなければ相手にならないだろう。
千炎寺は一剣士として純粋に強者を求めているのかもしれない。
―2—
寮に着き、千炎寺と別れたオレはエレベーターに乗り込み、4階で下りた。
千炎寺の部屋は2階らしく、エレベーターに乗るより階段を使った方が早いらしい。
「おお、噂をすれば神楽坂じゃねーか」
エレベーターの扉が開くと、そこには3年生の土浦がいた。
寮は学年によって建物が異なる。
1学年以外の生徒がこの建物にいるのは極めて不自然だ。
至近距離で声を掛けられてしまっては無視できないので、軽く会釈をしておく。
「浮谷から聞いた話だが、神楽坂、お前、俺のアドバイスを無視してまだ西城とつるんでるらしいな」
「他人にどうこう言われたところで自分の友人関係は自分で決めると昔から決めているので」
それに頼んでもいないのに勝手にアドバイスをしてきたのは土浦の方だ。そんなことを言われる筋合いはない。
「チッ、ったく、今年の1年は本当生意気な奴が多いな。先輩に向かってそんな口利いてるから初戦で負けるんだよ」
土浦が捨て台詞を吐くと、エレベーターに乗り込み、扉を閉めた。
この階には浮谷の部屋もある。おそらく土浦は浮谷の元へ訪ねにきたのだろう。
オレの知らないところで密かに何かが進められている。そんな気がしてならない。
予選と本戦の間にあたる5月1日。
この日は大会期間で唯一の休日となっている。
予選通過者は各ブロック2人の合計8人。
昨日は4回戦、5回戦と立て続けに行われたため、予選通過者の体にもかなり疲労が蓄積されているはずだ。
久し振りの休みということもあってそれぞれが自分に合った休日を過ごしていることだろう。
「さて」
冷蔵庫の中の食材が底をつきそうだったので、オレはショッピングモール内にあるスーパーまで来ていた。
ここには肉、野菜、魚を中心に数多くの食品が販売されている。
普段は学食で済ませることが多いのだが、さすがにそれだけでは飽きてしまうので、気分転換も兼ねて自炊をすることもある。
とはいっても時間の関係上それほど凝ったものは作れていないのだが。
「そこのお兄さん、ちゃんと野菜食べてるかい? 1人暮らしだと栄養が偏りがちになっちゃうからね。今日は新鮮な野菜が多く入ってるんだよ! よかったら1つどうだい?」
買い物カゴを片手に野菜コーナーの前を歩いていると、陽気な店員が声を掛けてきた。
店員の隣に設けられた特設コーナーには、春キャベツ、新ジャガイモ、トマト、ゴボウなどの野菜が彩り豊かに陳列されている。
どれも瑞々しくて美味しそうだが、1人で食べるとなると少し量が多いような気がする。
貴重なライフポイントで購入するため、余ったら野菜もポイントももったいない。
「どれがオススメですか?」
オレが買うかどうか迷っていると、他の客が店員に話し掛けた。
「千炎寺」
「おお、神楽坂か。お前も買い物か?」
店員に声を掛けたのは、赤髪の刀使いこと千炎寺正隆だった。
「お知り合いでしたか! いやー、偶然ですね!」
偶然とは言うが、ショッピングモールを利用している約8割以上が異能力者育成学院の関係者だ。それ故、知り合いに遭遇する確率も高い。
「今日のオススメはこちらのジャガイモです。ジャガイモは何にでも使えますからね。是非! いかがでしょうか?」
「それじゃあ1袋もらいます。神楽坂はどうする?」
「じゃあ、オレも1袋買います」
「ありがとうございます!」
店員からジャガイモを受け取り、オレと千炎寺はそのままレジへと向かう。
「千炎寺は料理とかするのか?」
「そうだな。魚を焼いたり、野菜を炒めるくらいだな。大抵の食べ物は焼けば食べられる」
千炎寺が手にしている買い物カゴの中には卵やウインナー、鮭などが入ってた。
学食でもあまり千炎寺の姿は見ない。栄養バランスを考えているのかはわからないが、自炊していることに関しては素直に偉いと思う。
以前、鞘師先生がライフポイントについて説明した際、ライフポイントは序列によって支給額が大きく異なると言っていた。
初戦で敗退したオレはこの学院で序列最下位ということになる。
ライフポイントの支給額も大幅に減るだろう。いつまでも学食ばかりを頼ってはいられなくなりそうだ。
「神楽坂は初戦で負けたと聞いたが、調子でも悪かったのか?」
会計を終え、寮に向かって歩いていると千炎寺がそう訊いてきた。
大会直前に総当たり戦で対戦したということもあって気にしていてくれたのだろうか。
「いや、完全に不意を突かれたんだ。相手が一枚上手だった」
「そうか。神楽坂とは本選で当たると期待していたんだけどな」
「そんな風に思っていたのか」
千炎寺の口から「期待していた」という言葉が出てくるだなんて考えてもいなかった。
太陽が完全に姿を隠し、歩道の街灯がオレたちの影を地面に映し出している。
「総当たり戦で戦ったとき、バトル中盤からお前はまるで人が変わったかのように厄介になった。オレが異能力を使っていなかったらどうなっていたか」
そう話す千炎寺の口の端が僅かに上がった。
特待生ほどの実力者は周囲に互角に戦える相手がいない。それこそ同じ特待生か序列上位者でなければ相手にならないだろう。
千炎寺は一剣士として純粋に強者を求めているのかもしれない。
―2—
寮に着き、千炎寺と別れたオレはエレベーターに乗り込み、4階で下りた。
千炎寺の部屋は2階らしく、エレベーターに乗るより階段を使った方が早いらしい。
「おお、噂をすれば神楽坂じゃねーか」
エレベーターの扉が開くと、そこには3年生の土浦がいた。
寮は学年によって建物が異なる。
1学年以外の生徒がこの建物にいるのは極めて不自然だ。
至近距離で声を掛けられてしまっては無視できないので、軽く会釈をしておく。
「浮谷から聞いた話だが、神楽坂、お前、俺のアドバイスを無視してまだ西城とつるんでるらしいな」
「他人にどうこう言われたところで自分の友人関係は自分で決めると昔から決めているので」
それに頼んでもいないのに勝手にアドバイスをしてきたのは土浦の方だ。そんなことを言われる筋合いはない。
「チッ、ったく、今年の1年は本当生意気な奴が多いな。先輩に向かってそんな口利いてるから初戦で負けるんだよ」
土浦が捨て台詞を吐くと、エレベーターに乗り込み、扉を閉めた。
この階には浮谷の部屋もある。おそらく土浦は浮谷の元へ訪ねにきたのだろう。
オレの知らないところで密かに何かが進められている。そんな気がしてならない。



