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天魔と火野の戦闘が熾烈を極める中、祭り会場の入り口で2人の教師と2人の生徒が睨み合っていた。
「紫龍、溝端、そこを退け」
「鞘師先生、それはできない相談です」
「勘違いするな。私は相談をしている訳じゃない。命令しているんだ。あの時とは状況が違う。もう1度だけ言う。今すぐそこを退け!」
鞘師の鬼気迫る表情に紫龍の背後に控えていた溝端が神器・鷲獅子槍を構える。
それと同時に鞘師と並んでいた保坂が妖刀・黄昏に手を掛けた。
集団序列戦の際にも全く同じ状況になったが、あの時は序列戦に関係の無い生徒を傷つけてはならないという理由から戦闘には発展しなかった。
しかし、今は違う。
こうして睨み合っている間も何かから怯えて逃げて来た人々が4人の横を通り過ぎて行く。
直接目にしている訳では無いから詳細は掴めないが普通では無い何かが起きているのは間違いない。
鞘師も保坂もそれだけは確信していた。
それを裏付ける証拠として、先程から高出力な衝突によって生まれる衝撃波が会場の入り口まで届いていた。
「あの時と状況が違うのはこちらも同じ。俺たちにもやり通さなくてはならない事情がある」
「どんな事情があっても傷ついている人を見捨てていい理由にはなりません」
「綺麗事ばかり並べていても誰も救えない。保坂先生、教師ならそういう現実的なことを教えたらどうだ? 実体験ならいくらでもあるだろ?」
「黙れッ!」
妖刀・黄昏の青黒い閃光が溝端を襲う。
かつて災害級のガインを一撃で沈めた神器・鷲獅子槍。
技を発動していないとはいえ、小柄な保坂の一振りに溝端は力で押される形となった。
普段温厚な保坂の激昂。
溝端の煽るような発言が保坂の逆鱗に触れたのだ。
「鞘師先生、これは一体?」
生徒会長の馬場裕二が騒ぎを聞いて駆けつけた。
「奥で誰かが戦ってるらしい。紫龍は私が抑え込む。だから私の代わりに確認して来てくれないか?」
「分かりま——」
馬場が半分頷くと、空に不死鳥が現れた。
神々しい輝きに全員の動きが一瞬止まる。
「行け! 全てを破壊する右腕」
鞘師が紫龍との間合いを詰め、手を伸ばす。
触れられた瞬間に体が形を維持できなくなり粉々に吹き飛ぶ一撃。
鞘師は生徒を殺す覚悟を決めた。
周囲の被害を度外視し、魔剣に宿っていた不死鳥が全力で地形を破壊していく。
不死鳥と戦う相手はそれほどまでに強いということだ。
目の前の生徒2人に足止めを食らっている場合ではない。
そんな鞘師の気迫が伝わったのか紫龍が腰に差さっていた刀を抜いた。
「神器・冥界龍刀!」
紫龍が繰り出した黒い斬撃が鞘師の右腕を迎え撃つ。
獰猛な龍を相手にするかのような荒々しい衝撃が鞘師を襲う。
鞘師が紫龍を釘付けにしている間に馬場が脇目も振らずに走り去る。
「それでいい」
鞘師が手のひらの中で悲鳴を上げる冥界龍刀を押し返してそう呟いた。
保坂と激しい戦闘を繰り広げていた溝端が鷲獅子槍で黄昏を弾き返し、バックステップで1度距離を取った。
「紫龍、行かせてよかったのか?」
「問題無いわ。遅かれ早かれ彼も消される運命だから。初めからそういうシナリオだったでしょ」
「そうか。そうだな。この際、火が消えようが水が消えようが関係無いか」
「この世界を救うことができるのは彼と神に選ばれた私たち。神器シリーズの適合者だけよ。計画を邪魔する者は例え教師でも排除するわ」
「2人で盛り上がっているところ悪いが、私たちにも分かるように話してもらおうか!」
バチバチと鞘師の右腕から高濃度なエネルギーが漏れる。
空に顕現した不死鳥は地上から大量の光線を浴びて地に落ちた。
馬場を向かわせることに成功はしたが紫龍と溝端の会話から不穏な空気が漂っている。
急がなくてはならない。
「保坂、左腕を解放して2人まとめて吹き飛ばす。お前は巻き込まれないように後ろに下がってろ」
「環奈ちゃん、大丈夫なの?」
「お前に青鬼化を使わせる訳にはいかないからな。ここは私に任せろ」
「無駄話はお互い様だな。疾風迅雷ッ!」
溝端が助走をつけて鷲獅子槍を投げ放つ。
激しい突風と共に雷のような轟音が鳴り響く。
「全てを破壊する右腕!」
鞘師が左足と右腕を前に突き出し、鷲獅子槍の先端を掴む。
神器との衝突はこれで2度目。
だが、1度目は冥界龍刀の斬撃を受けたに過ぎない。
災害級を一撃で戦闘不能に追い込んだ技となれば威力が桁違いとなる。
衝撃に耐え切れず、右腕の皮膚が裂け始める。
苦痛に顔を歪ませる鞘師。
徐々に力が弱まり、鷲獅子槍が手のひらを貫通。
勢いは衰えること無く、聞くに耐えない惨たらしい音と共に鞘師の右腕が弾け飛んだ。
「環奈ちゃん!」
保坂の呼び掛けに心配無いと左手を上げる鞘師。
その左手に光の球体が集まっていく。
どこから湧き出たのか分からない光の球体が鞘師の左腕に吸い込まれていき、やがて鞘師の左腕が優しく発光した。
「自己を超再生する左腕」
失われた右腕の根元である右肩に触れると瞬く間に右腕が再生した。
自己を対象とした治癒能力の極地。
鞘師は自身の左腕が残っている限りいくら傷つこうと、最悪欠損しようとも元通りに再生することができる。
過去のトラウマから左腕を使うことを避けてきたが、この緊急事態が鞘師のトラウマを克服させた。
一時的な克服かもしれないが、それでも両腕を全解放した鞘師を相手にするとなると神器シリーズでさえ無事ではすまない。
ゆらゆらと近づいてくる鞘師からただならぬオーラを感じ、紫龍と溝端も表情が強張る。
「溝端、迷っている時間は無さそうだ」
「こんなはずじゃ無かったんだがな。まあ仕方ない」
紫龍が冥界龍刀の刀身を素手で掴み、切先を自身の腹に1度当てて狙いを定めてから大きく引いた。
溝端も鷲獅子槍を両手で握り、呼吸を止めてから自分の腹を貫くべく力を込める。
その異様な光景を前に傍観することしかできない保坂はあまりの痛々しさから無意識に自身の下唇を噛んでいた。
一方の鞘師は破壊を司る右腕を地面に付け、再生を司る左腕で右腕を支えていた。
これまでの鞘師は力をセーブして戦っていた。
そうしなければ自分の右腕が破壊の能力に耐え切れずに壊れてしまうから。
しかし、左腕で再生させることができる今、右腕が壊れる心配をしなくていい。
Q .つまり何が起きるか。
A .今の鞘師は破壊能力の極地へと至る。
「破滅伝播の両腕・無限大!」
地面がバラバラに裂け、地割れに巻き込まれた大木までもがバラバラに砕けていく。
破壊の伝播。
地割れの波が広がっていき、触れるモノ全てを跡形も無く破壊していく。
右腕が悲鳴を上げ、皮膚が裂けて血が噴き出すがすぐさま傷口が塞がる。
もう破壊は止まらない。
天魔と火野の戦闘が熾烈を極める中、祭り会場の入り口で2人の教師と2人の生徒が睨み合っていた。
「紫龍、溝端、そこを退け」
「鞘師先生、それはできない相談です」
「勘違いするな。私は相談をしている訳じゃない。命令しているんだ。あの時とは状況が違う。もう1度だけ言う。今すぐそこを退け!」
鞘師の鬼気迫る表情に紫龍の背後に控えていた溝端が神器・鷲獅子槍を構える。
それと同時に鞘師と並んでいた保坂が妖刀・黄昏に手を掛けた。
集団序列戦の際にも全く同じ状況になったが、あの時は序列戦に関係の無い生徒を傷つけてはならないという理由から戦闘には発展しなかった。
しかし、今は違う。
こうして睨み合っている間も何かから怯えて逃げて来た人々が4人の横を通り過ぎて行く。
直接目にしている訳では無いから詳細は掴めないが普通では無い何かが起きているのは間違いない。
鞘師も保坂もそれだけは確信していた。
それを裏付ける証拠として、先程から高出力な衝突によって生まれる衝撃波が会場の入り口まで届いていた。
「あの時と状況が違うのはこちらも同じ。俺たちにもやり通さなくてはならない事情がある」
「どんな事情があっても傷ついている人を見捨てていい理由にはなりません」
「綺麗事ばかり並べていても誰も救えない。保坂先生、教師ならそういう現実的なことを教えたらどうだ? 実体験ならいくらでもあるだろ?」
「黙れッ!」
妖刀・黄昏の青黒い閃光が溝端を襲う。
かつて災害級のガインを一撃で沈めた神器・鷲獅子槍。
技を発動していないとはいえ、小柄な保坂の一振りに溝端は力で押される形となった。
普段温厚な保坂の激昂。
溝端の煽るような発言が保坂の逆鱗に触れたのだ。
「鞘師先生、これは一体?」
生徒会長の馬場裕二が騒ぎを聞いて駆けつけた。
「奥で誰かが戦ってるらしい。紫龍は私が抑え込む。だから私の代わりに確認して来てくれないか?」
「分かりま——」
馬場が半分頷くと、空に不死鳥が現れた。
神々しい輝きに全員の動きが一瞬止まる。
「行け! 全てを破壊する右腕」
鞘師が紫龍との間合いを詰め、手を伸ばす。
触れられた瞬間に体が形を維持できなくなり粉々に吹き飛ぶ一撃。
鞘師は生徒を殺す覚悟を決めた。
周囲の被害を度外視し、魔剣に宿っていた不死鳥が全力で地形を破壊していく。
不死鳥と戦う相手はそれほどまでに強いということだ。
目の前の生徒2人に足止めを食らっている場合ではない。
そんな鞘師の気迫が伝わったのか紫龍が腰に差さっていた刀を抜いた。
「神器・冥界龍刀!」
紫龍が繰り出した黒い斬撃が鞘師の右腕を迎え撃つ。
獰猛な龍を相手にするかのような荒々しい衝撃が鞘師を襲う。
鞘師が紫龍を釘付けにしている間に馬場が脇目も振らずに走り去る。
「それでいい」
鞘師が手のひらの中で悲鳴を上げる冥界龍刀を押し返してそう呟いた。
保坂と激しい戦闘を繰り広げていた溝端が鷲獅子槍で黄昏を弾き返し、バックステップで1度距離を取った。
「紫龍、行かせてよかったのか?」
「問題無いわ。遅かれ早かれ彼も消される運命だから。初めからそういうシナリオだったでしょ」
「そうか。そうだな。この際、火が消えようが水が消えようが関係無いか」
「この世界を救うことができるのは彼と神に選ばれた私たち。神器シリーズの適合者だけよ。計画を邪魔する者は例え教師でも排除するわ」
「2人で盛り上がっているところ悪いが、私たちにも分かるように話してもらおうか!」
バチバチと鞘師の右腕から高濃度なエネルギーが漏れる。
空に顕現した不死鳥は地上から大量の光線を浴びて地に落ちた。
馬場を向かわせることに成功はしたが紫龍と溝端の会話から不穏な空気が漂っている。
急がなくてはならない。
「保坂、左腕を解放して2人まとめて吹き飛ばす。お前は巻き込まれないように後ろに下がってろ」
「環奈ちゃん、大丈夫なの?」
「お前に青鬼化を使わせる訳にはいかないからな。ここは私に任せろ」
「無駄話はお互い様だな。疾風迅雷ッ!」
溝端が助走をつけて鷲獅子槍を投げ放つ。
激しい突風と共に雷のような轟音が鳴り響く。
「全てを破壊する右腕!」
鞘師が左足と右腕を前に突き出し、鷲獅子槍の先端を掴む。
神器との衝突はこれで2度目。
だが、1度目は冥界龍刀の斬撃を受けたに過ぎない。
災害級を一撃で戦闘不能に追い込んだ技となれば威力が桁違いとなる。
衝撃に耐え切れず、右腕の皮膚が裂け始める。
苦痛に顔を歪ませる鞘師。
徐々に力が弱まり、鷲獅子槍が手のひらを貫通。
勢いは衰えること無く、聞くに耐えない惨たらしい音と共に鞘師の右腕が弾け飛んだ。
「環奈ちゃん!」
保坂の呼び掛けに心配無いと左手を上げる鞘師。
その左手に光の球体が集まっていく。
どこから湧き出たのか分からない光の球体が鞘師の左腕に吸い込まれていき、やがて鞘師の左腕が優しく発光した。
「自己を超再生する左腕」
失われた右腕の根元である右肩に触れると瞬く間に右腕が再生した。
自己を対象とした治癒能力の極地。
鞘師は自身の左腕が残っている限りいくら傷つこうと、最悪欠損しようとも元通りに再生することができる。
過去のトラウマから左腕を使うことを避けてきたが、この緊急事態が鞘師のトラウマを克服させた。
一時的な克服かもしれないが、それでも両腕を全解放した鞘師を相手にするとなると神器シリーズでさえ無事ではすまない。
ゆらゆらと近づいてくる鞘師からただならぬオーラを感じ、紫龍と溝端も表情が強張る。
「溝端、迷っている時間は無さそうだ」
「こんなはずじゃ無かったんだがな。まあ仕方ない」
紫龍が冥界龍刀の刀身を素手で掴み、切先を自身の腹に1度当てて狙いを定めてから大きく引いた。
溝端も鷲獅子槍を両手で握り、呼吸を止めてから自分の腹を貫くべく力を込める。
その異様な光景を前に傍観することしかできない保坂はあまりの痛々しさから無意識に自身の下唇を噛んでいた。
一方の鞘師は破壊を司る右腕を地面に付け、再生を司る左腕で右腕を支えていた。
これまでの鞘師は力をセーブして戦っていた。
そうしなければ自分の右腕が破壊の能力に耐え切れずに壊れてしまうから。
しかし、左腕で再生させることができる今、右腕が壊れる心配をしなくていい。
Q .つまり何が起きるか。
A .今の鞘師は破壊能力の極地へと至る。
「破滅伝播の両腕・無限大!」
地面がバラバラに裂け、地割れに巻き込まれた大木までもがバラバラに砕けていく。
破壊の伝播。
地割れの波が広がっていき、触れるモノ全てを跡形も無く破壊していく。
右腕が悲鳴を上げ、皮膚が裂けて血が噴き出すがすぐさま傷口が塞がる。
もう破壊は止まらない。



