—1—
地面に突き刺さった悪魔剣を中心に侵食し続ける黒い染みが陽炎のように歪み、闇の中から漆黒の化物が飛び出した。
左右に羽が生え、鋭い牙が特徴的な見た目は例えるならコウモリに近い。
しかし、人間のように手足が生えているためかなり気味が悪い。
悪魔の使者、デーモンといったところだろうか。
鋭く尖った牙をガチガチと噛み合わせることで生まれる不快音。
その様子はオレたち人間を嘲笑っているかのようだ。
解き放たれたデーモンの数は全部で20体。
そのほとんどが空へと飛び立ち、会場から避難する人々を襲い始めた。
「ハハッ、どうした? 助けなくていいのか?」
挑発するように笑う天魔。
背後から聞こえる悲鳴。子供の鳴き声。肉が引き裂かれる音。血溜まりを駆ける音。人が人を踏みつける音。
刻一刻と状況が最悪な方向へ進んでいる。
「神楽坂くん、行って」
「でも火野が」
「大丈夫。持ち堪えてみせる」
「分かった。すぐ戻る」
天魔に対しては強い言葉を吐いていた火野だが、「倒す」ではなく「持ち堪える」という言葉を選んだ。
つまり、2人の間にそれだけの実力差があるということだろう。
だとしたらオレも火野の覚悟を無駄にする訳にはいかない。
1秒でも早くデーモンを倒し、この場に戻ってこなくては。
「明智と千代田は上空のデーモンに攻撃を。浅香は怪我をしている人の手当を頼む!」
「わ、分かりました」
恐怖で体が竦んでいた千代田も明智と共に走り出し、獲物を狙って空から様子を窺っていたデーモン目掛けて腕を振り上げる。
「手光砲撃!」
「風切り!」
細かい光の粒と風を切り裂く斬撃がデーモンを襲う。
一方、地上で殺戮を繰り広げるデーモンに狙いを絞ったオレは一般人に攻撃が当たらないように注意を払いながら『氷柱吹雪』を放った。
「ギシシシシシッッ!!」
デーモンは攻撃を見るや大きな口を開き、それぞれ光・風・氷の全てを飲み込んだ。
攻撃を吸い込む瞬間、デーモンの口内はブラックホールのような闇が覗いていた。
「遠距離攻撃の無効化か?」
戦術の組み立てとして中遠距離の攻撃が封印されるとなると直接攻撃しか残されていない。
明智は光剣で対応できるだろうが、千代田に関してはほとんど攻撃の術を失ったと言っていい。
それだけではない。空中を飛び回っているデーモンも野放しになってしまう。
「光剣」
「氷剣」
排除すべき対象と認識されたのかデーモンが標的をこちらに変えた。
オレと明智でデーモンを引きつけている間に千代田と浅香が一般人の救助にあたる。
「ハッ!」
地面を蹴り、低空飛行で食らいつこうと迫り来るデーモンの顔面に氷剣を振るう。
鋭い牙で氷剣を受け止めたデーモンが爪で肉を切り裂こうと羽を大きく羽ばたいて暴れる。
「身体強化」
身を捻り、氷剣を握っていない左拳をデーモンの腹部に叩き込む。
グシャッという肉を貫く感触と同時にデーモンが断末魔を上げて霧散した。
「光剣一閃」
明智も危なげなくデーモンを斬り伏せる。
これで残りは18体。
やはり、直接攻撃に限定されている分ペースが遅い。
「千代田、大丈夫か?」
「はい、なんとか大丈夫です!」
千代田が『旋風壁』で風の壁を展開し、その影で浅香が怪我人の手当てを行っていた。
自力で歩ける人は自分の足で『旋風壁』の内側に入り、そうでない人は浅香が肩を貸して内側へ。
残念ながら息を引き取っている者も少なくはないが被害を最小限に抑えることはできている。
「明智、大きいの1ついけるか?」
「うん、任せて!」
負傷者の救助が終わり、巻き込む心配が無いと判断したオレはデーモンを一掃するべく単身でデーモンの群れに突っ込んだ。
「こっちだ!」
氷剣を振りかざし、声を上がることで負傷者に執着していたデーモンを自らに引きつける。
四方八方からオレの体を引き裂こうとデーモンが口を開いて襲い掛かる。
手を伸ばせばデーモンの牙がオレの体に届こうかというギリギリの距離。
そこでデーモンの動きが完全停止した。
「凍てつく花弁!」
氷の花が咲き、強烈な冷気が地上のデーモンの動きを封じる。
足から胸元まで氷漬けになったことを確認し、一気に出力を上げる。
あっという間にデーモンは氷像のように頭の先まで氷で覆われた。
「閃光十字架剣!」
明智が天に掲げていた光剣を一閃。
すると光剣の形を模した十字架が氷像化したデーモンを粉々に打ち砕いた。
常に新しい技を追い求めるのもいいが、相手によって有効な一撃が何かを瞬時に判断し、連携によって倒す。
思い描いていた理想の形を取ることができた。
とはいえ、空には6体のデーモンが旋回してこちらの様子を窺っている。
遠距離攻撃が封じられている状態では手出しができない。
と、その時、後方の空に不死鳥が顕現した。
薄暗くなり始めた世界に太陽のような輝きが灯る。
不死鳥から放たれる熱波を浴び、残りのデーモンが霧散した。
火の魔剣・紅翼剣は、あらゆる物体を焼き斬るという特殊能力がある。
それは魔剣に宿る不死鳥も同じ。
触れること無く、敵を無に還す。
不死鳥はそれほどまでに熱い。
「紅翼の灼熱雨!」
幾度となく衝突したのか遠目に見える火野の体は擦り傷だらけで至る所から出血していた。
天魔は悪魔剣を片手に遥か頭上に現れた不死鳥を見上げている。
そんな天魔を目掛けて不死鳥の両翼から灼熱の羽の雨が降り注ぐ。
魔剣所有者とはいえ流石にこの数を処理することはできない。
が、刹那、悪魔剣から強烈な黒い光が溢れ出した。
「降魔神殺の剣戟」
悪魔の象徴サタンの召喚。
2本の角に不死鳥に負けず劣らず巨大な黒翼。蛇のような尻尾が生えていて、体は強固な鱗で覆われている。
到底人間では太刀打ちできる相手ではない。
溢れ出る黒い邪悪なオーラが灼熱の雨を飲み込んでいく。
天魔が悪魔剣を一閃。
尋常じゃないエネルギーの放出に木々が根元から折れ、風圧で周囲の物体を跡形も無く吹き飛ばす。
腰を落とし、紅翼剣を盾にして一撃を凌いだ火野だが、満身創痍であることに変わりはない。
「最後に何か言うことはあるか?」
天魔の問いに対して、火野は地面に片膝をついたままゼーハーと呼吸を繰り返す。
悪魔剣の剣先が火野の胸元に触れる。
その動きにシンクロして不死鳥を見上げていたサタンが人差し指を不死鳥の左翼に向けた。
「いのりーーーーーーんッ!」
サタンの指先から放たれた漆黒の光線が不死鳥の左翼を貫通。
さらに追い討ちをかけるようにサタンが光線を連射した。
空に浮かんだ太陽は悲痛な声を上げて沈み、闇がこの世界を支配した。
地面に突き刺さった悪魔剣を中心に侵食し続ける黒い染みが陽炎のように歪み、闇の中から漆黒の化物が飛び出した。
左右に羽が生え、鋭い牙が特徴的な見た目は例えるならコウモリに近い。
しかし、人間のように手足が生えているためかなり気味が悪い。
悪魔の使者、デーモンといったところだろうか。
鋭く尖った牙をガチガチと噛み合わせることで生まれる不快音。
その様子はオレたち人間を嘲笑っているかのようだ。
解き放たれたデーモンの数は全部で20体。
そのほとんどが空へと飛び立ち、会場から避難する人々を襲い始めた。
「ハハッ、どうした? 助けなくていいのか?」
挑発するように笑う天魔。
背後から聞こえる悲鳴。子供の鳴き声。肉が引き裂かれる音。血溜まりを駆ける音。人が人を踏みつける音。
刻一刻と状況が最悪な方向へ進んでいる。
「神楽坂くん、行って」
「でも火野が」
「大丈夫。持ち堪えてみせる」
「分かった。すぐ戻る」
天魔に対しては強い言葉を吐いていた火野だが、「倒す」ではなく「持ち堪える」という言葉を選んだ。
つまり、2人の間にそれだけの実力差があるということだろう。
だとしたらオレも火野の覚悟を無駄にする訳にはいかない。
1秒でも早くデーモンを倒し、この場に戻ってこなくては。
「明智と千代田は上空のデーモンに攻撃を。浅香は怪我をしている人の手当を頼む!」
「わ、分かりました」
恐怖で体が竦んでいた千代田も明智と共に走り出し、獲物を狙って空から様子を窺っていたデーモン目掛けて腕を振り上げる。
「手光砲撃!」
「風切り!」
細かい光の粒と風を切り裂く斬撃がデーモンを襲う。
一方、地上で殺戮を繰り広げるデーモンに狙いを絞ったオレは一般人に攻撃が当たらないように注意を払いながら『氷柱吹雪』を放った。
「ギシシシシシッッ!!」
デーモンは攻撃を見るや大きな口を開き、それぞれ光・風・氷の全てを飲み込んだ。
攻撃を吸い込む瞬間、デーモンの口内はブラックホールのような闇が覗いていた。
「遠距離攻撃の無効化か?」
戦術の組み立てとして中遠距離の攻撃が封印されるとなると直接攻撃しか残されていない。
明智は光剣で対応できるだろうが、千代田に関してはほとんど攻撃の術を失ったと言っていい。
それだけではない。空中を飛び回っているデーモンも野放しになってしまう。
「光剣」
「氷剣」
排除すべき対象と認識されたのかデーモンが標的をこちらに変えた。
オレと明智でデーモンを引きつけている間に千代田と浅香が一般人の救助にあたる。
「ハッ!」
地面を蹴り、低空飛行で食らいつこうと迫り来るデーモンの顔面に氷剣を振るう。
鋭い牙で氷剣を受け止めたデーモンが爪で肉を切り裂こうと羽を大きく羽ばたいて暴れる。
「身体強化」
身を捻り、氷剣を握っていない左拳をデーモンの腹部に叩き込む。
グシャッという肉を貫く感触と同時にデーモンが断末魔を上げて霧散した。
「光剣一閃」
明智も危なげなくデーモンを斬り伏せる。
これで残りは18体。
やはり、直接攻撃に限定されている分ペースが遅い。
「千代田、大丈夫か?」
「はい、なんとか大丈夫です!」
千代田が『旋風壁』で風の壁を展開し、その影で浅香が怪我人の手当てを行っていた。
自力で歩ける人は自分の足で『旋風壁』の内側に入り、そうでない人は浅香が肩を貸して内側へ。
残念ながら息を引き取っている者も少なくはないが被害を最小限に抑えることはできている。
「明智、大きいの1ついけるか?」
「うん、任せて!」
負傷者の救助が終わり、巻き込む心配が無いと判断したオレはデーモンを一掃するべく単身でデーモンの群れに突っ込んだ。
「こっちだ!」
氷剣を振りかざし、声を上がることで負傷者に執着していたデーモンを自らに引きつける。
四方八方からオレの体を引き裂こうとデーモンが口を開いて襲い掛かる。
手を伸ばせばデーモンの牙がオレの体に届こうかというギリギリの距離。
そこでデーモンの動きが完全停止した。
「凍てつく花弁!」
氷の花が咲き、強烈な冷気が地上のデーモンの動きを封じる。
足から胸元まで氷漬けになったことを確認し、一気に出力を上げる。
あっという間にデーモンは氷像のように頭の先まで氷で覆われた。
「閃光十字架剣!」
明智が天に掲げていた光剣を一閃。
すると光剣の形を模した十字架が氷像化したデーモンを粉々に打ち砕いた。
常に新しい技を追い求めるのもいいが、相手によって有効な一撃が何かを瞬時に判断し、連携によって倒す。
思い描いていた理想の形を取ることができた。
とはいえ、空には6体のデーモンが旋回してこちらの様子を窺っている。
遠距離攻撃が封じられている状態では手出しができない。
と、その時、後方の空に不死鳥が顕現した。
薄暗くなり始めた世界に太陽のような輝きが灯る。
不死鳥から放たれる熱波を浴び、残りのデーモンが霧散した。
火の魔剣・紅翼剣は、あらゆる物体を焼き斬るという特殊能力がある。
それは魔剣に宿る不死鳥も同じ。
触れること無く、敵を無に還す。
不死鳥はそれほどまでに熱い。
「紅翼の灼熱雨!」
幾度となく衝突したのか遠目に見える火野の体は擦り傷だらけで至る所から出血していた。
天魔は悪魔剣を片手に遥か頭上に現れた不死鳥を見上げている。
そんな天魔を目掛けて不死鳥の両翼から灼熱の羽の雨が降り注ぐ。
魔剣所有者とはいえ流石にこの数を処理することはできない。
が、刹那、悪魔剣から強烈な黒い光が溢れ出した。
「降魔神殺の剣戟」
悪魔の象徴サタンの召喚。
2本の角に不死鳥に負けず劣らず巨大な黒翼。蛇のような尻尾が生えていて、体は強固な鱗で覆われている。
到底人間では太刀打ちできる相手ではない。
溢れ出る黒い邪悪なオーラが灼熱の雨を飲み込んでいく。
天魔が悪魔剣を一閃。
尋常じゃないエネルギーの放出に木々が根元から折れ、風圧で周囲の物体を跡形も無く吹き飛ばす。
腰を落とし、紅翼剣を盾にして一撃を凌いだ火野だが、満身創痍であることに変わりはない。
「最後に何か言うことはあるか?」
天魔の問いに対して、火野は地面に片膝をついたままゼーハーと呼吸を繰り返す。
悪魔剣の剣先が火野の胸元に触れる。
その動きにシンクロして不死鳥を見上げていたサタンが人差し指を不死鳥の左翼に向けた。
「いのりーーーーーーんッ!」
サタンの指先から放たれた漆黒の光線が不死鳥の左翼を貫通。
さらに追い討ちをかけるようにサタンが光線を連射した。
空に浮かんだ太陽は悲痛な声を上げて沈み、闇がこの世界を支配した。



