—1—
生徒会室の中央に配置されたロの字型の長机。
会長席の前には進行役である馬場会長と書記の滝壺先輩。対面が異能力者育成学院の生徒会メンバー。
オレ達から見て右手が聖帝虹学園の生徒会メンバー、左手が私立鳳凰学院の生徒会メンバーという配置になった。
「進行を務める異能力者育成学院の馬場裕二だ。会議の後は場所を移して立食パーティーを予定している。文化祭の成功を目指して意見、質問等あれば気軽に発言してほしい」
遠方から足を運んでもらっている配慮だろう。
交流の場を設けることで連携が取りやすくなるメリットもある。
「初めに手元の資料に沿って概要を説明していく」
『3校合同文化祭』
2037年9月27日(日)
開催時間:10時〜17時。
場所:異能力者育成学院。
イベント:HIBIKIドームライブ、勝ち抜き鳳凰杯。
「開催日時は資料の通り。場所は3校のローテーション方式を取っていて今年は異能力者育成学院での開催だ。来年は鳳凰学院で開催予定となっている」
資料に記載は無いが前日の9月26日はリハーサルの意味合いも兼ねて学院の生徒だけで文化祭が行われる。
あくまでも本番は27日というイメージだ。
「文化祭の集客、目玉のイベントとして各校からアイデアを貰い、直接話し合った結果、記載の2項目の実施が決定した。まず、HBIKIドームライブについて聖帝虹学園生徒会長の出雲から説明を頼む」
馬場会長から指名を受けて出雲がその場で立ち上がる。
「全員が集まるのもこれが最初で最後だろうから軽く自己紹介を。出雲総司、座右の銘は点滴穿石。馬場とは古くからの付き合いで高みを目指して切磋琢磨した仲でもある。今こうしてお互いが生徒会長として高校のトップとなったのは実に感慨深い」
「出雲、あまり余計なことは言うな」
話がややプライベートな方向に脱線したため、馬場会長が出雲に釘を刺した。
出雲が座右の銘にしている点滴穿石とは小さな努力でも積み重ねれば大きな事が成し遂げられるという意味だ。
魔剣所有者の馬場会長と肩を並べる実力は脅威でしかない。
「馬場は昔から頭が固いところだけが難点だな。とまあ、怒られたから本題に入る。SNSのトレンドにも入っていたから知っている人もいるとは思うが、聖帝虹学園は文化祭の目玉イベントとしてHIBIKIのドームライブを企画した。定員は4万人。HIBIKI初の顔出しライブという話題性もあって集客力は抜群。まだ発表から数日しか経っていないがすでに定員数を超える応募があった」
高校の文化祭の来場者数で全国トップクラスが1万人以上と言われている。
単純計算でその4倍となると正直言って規模感の想像がつかない。
「ライブは文化祭終盤の14時30分から17時で段取りを組んでいる。学院の出店で昼ご飯を買って、その足でライブに来る人も多いはずだ」
出雲が話し終えたところで隣に座っていた七草が手を上げた。
「1点補足させてくれ。当日のスタッフの手配はこちらで済ませてある。ライブに関して両校に協力を依頼することは無いから安心して欲しい」
ドームさえ貸してもらえれば問題無いと七草は念を押した。
会場の設営、機材の持ち込み、警備などライブをするにしてもかなりの人員が割かれる。
その全てを聖帝虹学園が負担するというのであればこちらとしても余裕が生まれるからありがたい。
「ライブに関して聖帝虹学園側に質問があれば受け付けるが……無ければ勝ち抜き鳳凰杯について不知火頼む」
出雲の説明と七草の補足によりある程度の概要は掴めたため、議題が2つ目に移った。
「出雲に倣うて名前だけでも名乗るとするか。不知火仙狐、鳳凰で生徒会長をしておる」
不知火の白い狐の耳がひょこひょこと動いた。
「鳳凰は得意分野としてる武を全面に出すのがいいと思うてのう。近頃、戦いに飢えている生徒が多くて発散する場に困っておったんじゃ。客を挑戦者として鳳凰の生徒を3人抜きしたら儂のポケットマネーから100万円出すつもりじゃ」
負けたら身銭を切ると断言した不知火。
鳳凰学院の生徒会には反異能力者ギルドの鎧塚駕衣や三代財閥の鷲崎が所属しているため、1体1での戦闘となると余程自分の腕に自信がある者でないと1勝することですら難しいだろう。
「勝ち抜き鳳凰杯については訓練ルームで行ってもらう。戦闘をメインとしたイベントだがあくまでも文化祭だ。くれぐれも参加者の生死に関わる怪我だけは避けるように注意して欲しい」
「分かっておるわ。加減も分からず客を殺そうとする阿呆が出てきたら儂が押さえつけるから安心せえ」
馬場会長の忠告にも不知火はそう強気で返した。
去年の他校対抗序列戦の優勝者は馬場会長だと言っていたがそもそも不知火と馬場会長が戦ったのかが気になるな。
覇気だけで言えば不知火はこの空間で誰よりも強い圧を放っている。
「異能力者育成学院は体育館ステージや出店の運営を中心に文化祭としての地盤固めに専念する。現段階で確定しているHIBIKIのライブ目当てで来場する4万人の内、何%が文化祭に立ち寄るかは分からないが出店の数を増やして最大限対応する。当日は随時情報共有を行って文化祭を成功させるべく全力を尽くそう」
聖帝虹学園と私立鳳凰学院からも出店を追加で出してもらう方向で話を進め、会議は終了した。
来場者が増えれば人混みに紛れて予期せぬ存在が姿を見せる可能性がある。
あらゆる角度から目を光らせておく必要がありそうだ。
—2—
食堂に場所を移すと円卓の上に豪華な料理が並べられていた。
和食、中華、イタリアン、デザート。
普段食堂では目にしないようなメニューの数々が皿の上に綺麗に盛り付けられている。
「具体的な話が出てきたから文化祭も現実味を帯びてきたな」
「そうですね」
飲み物を手に取ったオレは中華料理を眺めていた暗空に声を掛けた。
他校の生徒との交流を目的にしている食事の場だが、正直言って話し掛けるにしても話題がない。
明智や西城のようにコミュニケーション能力が高ければ自ら率先してコミュニティを拡大していくのだろうがオレには難しい。
「聖帝虹学園には知り合いがいるので会うのが楽しみです」
「そうなのか」
「以前話した児童養護施設の生き残りです」
暗空がエビチリを皿によそい、フォークで刺して口に運んだ。
天魔咲夜に家族を奪われたと言っていたが他にも生き残りがいたんだな。
「久し振りの再会ってわけか」
「約半年振りですね。彼女の実力なら生徒会に入っていると思ったのですが姿が見えなかったので残念です」
「目立たないように立ち回ってるのかもしれないな」
「そうかもしれませんね」
施設を消したはずなのにその生き残りがいたと発覚すれば天魔や陣内が何をするか分からない。
だとしたら裏で動いた方が都合がいい。
「神楽坂と暗空だったな。お前ら、どっちが強い?」
グラスを片手にした鷲崎が暁と共にやってきた。
他者を見下すような鋭い視線。
幼少期から積み上げられた成功体験が歪んだ自信となって態度や言動に表れている。
「序列はオレの方が上だがそれがどうかしたか?」
「いや、対して意味はない。ただの暇潰しだ」
「私と新で賭けをしてたの。2人のどっちが強いかって。私が神楽坂くんに賭けてたから私の勝ち!」
「うるさい。どっちも俺にとっては取るに足らない雑魚だ。行くぞ」
「あはは、ごめんね」
暁が申し訳なさそうに苦笑しながら謝ると2人は他の円卓に向かった。
「雑魚か」
「私、好きになれそうにないです」
「大丈夫だ。オレも同じだ」
2人の背中を見送りながらオレと暗空はそんな風に呟いた。
「ねえ青峰くん、良かったら向こうでお話しない?」
他の円卓でも動きがあったらしく、反異能力者ギルドのメンバーが4人揃って話し込んでいた所に天童先輩が単独で声を掛けていた。
4人の中のリーダーだと思われる青峰を中心に目線だけで意思の疎通が図られる。
「分かった」
警戒したように青峰が短く頷き、2人は他のメンバーを残して食堂の外に姿を消した。
時間にして5分も経たずに戻ってきたが、行く前と戻ってきてからでは青峰の表情が明らかに変わっていた。
一体外で何が話されていたのか。
「聞いたところで教えてくれるとも限らない、か」
気にはなるが下手に動いたら情報を得ることは叶わない。
聞くにしても今じゃない。
オレの視界の端には青峰と天童先輩を静かに睨む鷲崎の姿が映っていた。
生徒会室の中央に配置されたロの字型の長机。
会長席の前には進行役である馬場会長と書記の滝壺先輩。対面が異能力者育成学院の生徒会メンバー。
オレ達から見て右手が聖帝虹学園の生徒会メンバー、左手が私立鳳凰学院の生徒会メンバーという配置になった。
「進行を務める異能力者育成学院の馬場裕二だ。会議の後は場所を移して立食パーティーを予定している。文化祭の成功を目指して意見、質問等あれば気軽に発言してほしい」
遠方から足を運んでもらっている配慮だろう。
交流の場を設けることで連携が取りやすくなるメリットもある。
「初めに手元の資料に沿って概要を説明していく」
『3校合同文化祭』
2037年9月27日(日)
開催時間:10時〜17時。
場所:異能力者育成学院。
イベント:HIBIKIドームライブ、勝ち抜き鳳凰杯。
「開催日時は資料の通り。場所は3校のローテーション方式を取っていて今年は異能力者育成学院での開催だ。来年は鳳凰学院で開催予定となっている」
資料に記載は無いが前日の9月26日はリハーサルの意味合いも兼ねて学院の生徒だけで文化祭が行われる。
あくまでも本番は27日というイメージだ。
「文化祭の集客、目玉のイベントとして各校からアイデアを貰い、直接話し合った結果、記載の2項目の実施が決定した。まず、HBIKIドームライブについて聖帝虹学園生徒会長の出雲から説明を頼む」
馬場会長から指名を受けて出雲がその場で立ち上がる。
「全員が集まるのもこれが最初で最後だろうから軽く自己紹介を。出雲総司、座右の銘は点滴穿石。馬場とは古くからの付き合いで高みを目指して切磋琢磨した仲でもある。今こうしてお互いが生徒会長として高校のトップとなったのは実に感慨深い」
「出雲、あまり余計なことは言うな」
話がややプライベートな方向に脱線したため、馬場会長が出雲に釘を刺した。
出雲が座右の銘にしている点滴穿石とは小さな努力でも積み重ねれば大きな事が成し遂げられるという意味だ。
魔剣所有者の馬場会長と肩を並べる実力は脅威でしかない。
「馬場は昔から頭が固いところだけが難点だな。とまあ、怒られたから本題に入る。SNSのトレンドにも入っていたから知っている人もいるとは思うが、聖帝虹学園は文化祭の目玉イベントとしてHIBIKIのドームライブを企画した。定員は4万人。HIBIKI初の顔出しライブという話題性もあって集客力は抜群。まだ発表から数日しか経っていないがすでに定員数を超える応募があった」
高校の文化祭の来場者数で全国トップクラスが1万人以上と言われている。
単純計算でその4倍となると正直言って規模感の想像がつかない。
「ライブは文化祭終盤の14時30分から17時で段取りを組んでいる。学院の出店で昼ご飯を買って、その足でライブに来る人も多いはずだ」
出雲が話し終えたところで隣に座っていた七草が手を上げた。
「1点補足させてくれ。当日のスタッフの手配はこちらで済ませてある。ライブに関して両校に協力を依頼することは無いから安心して欲しい」
ドームさえ貸してもらえれば問題無いと七草は念を押した。
会場の設営、機材の持ち込み、警備などライブをするにしてもかなりの人員が割かれる。
その全てを聖帝虹学園が負担するというのであればこちらとしても余裕が生まれるからありがたい。
「ライブに関して聖帝虹学園側に質問があれば受け付けるが……無ければ勝ち抜き鳳凰杯について不知火頼む」
出雲の説明と七草の補足によりある程度の概要は掴めたため、議題が2つ目に移った。
「出雲に倣うて名前だけでも名乗るとするか。不知火仙狐、鳳凰で生徒会長をしておる」
不知火の白い狐の耳がひょこひょこと動いた。
「鳳凰は得意分野としてる武を全面に出すのがいいと思うてのう。近頃、戦いに飢えている生徒が多くて発散する場に困っておったんじゃ。客を挑戦者として鳳凰の生徒を3人抜きしたら儂のポケットマネーから100万円出すつもりじゃ」
負けたら身銭を切ると断言した不知火。
鳳凰学院の生徒会には反異能力者ギルドの鎧塚駕衣や三代財閥の鷲崎が所属しているため、1体1での戦闘となると余程自分の腕に自信がある者でないと1勝することですら難しいだろう。
「勝ち抜き鳳凰杯については訓練ルームで行ってもらう。戦闘をメインとしたイベントだがあくまでも文化祭だ。くれぐれも参加者の生死に関わる怪我だけは避けるように注意して欲しい」
「分かっておるわ。加減も分からず客を殺そうとする阿呆が出てきたら儂が押さえつけるから安心せえ」
馬場会長の忠告にも不知火はそう強気で返した。
去年の他校対抗序列戦の優勝者は馬場会長だと言っていたがそもそも不知火と馬場会長が戦ったのかが気になるな。
覇気だけで言えば不知火はこの空間で誰よりも強い圧を放っている。
「異能力者育成学院は体育館ステージや出店の運営を中心に文化祭としての地盤固めに専念する。現段階で確定しているHIBIKIのライブ目当てで来場する4万人の内、何%が文化祭に立ち寄るかは分からないが出店の数を増やして最大限対応する。当日は随時情報共有を行って文化祭を成功させるべく全力を尽くそう」
聖帝虹学園と私立鳳凰学院からも出店を追加で出してもらう方向で話を進め、会議は終了した。
来場者が増えれば人混みに紛れて予期せぬ存在が姿を見せる可能性がある。
あらゆる角度から目を光らせておく必要がありそうだ。
—2—
食堂に場所を移すと円卓の上に豪華な料理が並べられていた。
和食、中華、イタリアン、デザート。
普段食堂では目にしないようなメニューの数々が皿の上に綺麗に盛り付けられている。
「具体的な話が出てきたから文化祭も現実味を帯びてきたな」
「そうですね」
飲み物を手に取ったオレは中華料理を眺めていた暗空に声を掛けた。
他校の生徒との交流を目的にしている食事の場だが、正直言って話し掛けるにしても話題がない。
明智や西城のようにコミュニケーション能力が高ければ自ら率先してコミュニティを拡大していくのだろうがオレには難しい。
「聖帝虹学園には知り合いがいるので会うのが楽しみです」
「そうなのか」
「以前話した児童養護施設の生き残りです」
暗空がエビチリを皿によそい、フォークで刺して口に運んだ。
天魔咲夜に家族を奪われたと言っていたが他にも生き残りがいたんだな。
「久し振りの再会ってわけか」
「約半年振りですね。彼女の実力なら生徒会に入っていると思ったのですが姿が見えなかったので残念です」
「目立たないように立ち回ってるのかもしれないな」
「そうかもしれませんね」
施設を消したはずなのにその生き残りがいたと発覚すれば天魔や陣内が何をするか分からない。
だとしたら裏で動いた方が都合がいい。
「神楽坂と暗空だったな。お前ら、どっちが強い?」
グラスを片手にした鷲崎が暁と共にやってきた。
他者を見下すような鋭い視線。
幼少期から積み上げられた成功体験が歪んだ自信となって態度や言動に表れている。
「序列はオレの方が上だがそれがどうかしたか?」
「いや、対して意味はない。ただの暇潰しだ」
「私と新で賭けをしてたの。2人のどっちが強いかって。私が神楽坂くんに賭けてたから私の勝ち!」
「うるさい。どっちも俺にとっては取るに足らない雑魚だ。行くぞ」
「あはは、ごめんね」
暁が申し訳なさそうに苦笑しながら謝ると2人は他の円卓に向かった。
「雑魚か」
「私、好きになれそうにないです」
「大丈夫だ。オレも同じだ」
2人の背中を見送りながらオレと暗空はそんな風に呟いた。
「ねえ青峰くん、良かったら向こうでお話しない?」
他の円卓でも動きがあったらしく、反異能力者ギルドのメンバーが4人揃って話し込んでいた所に天童先輩が単独で声を掛けていた。
4人の中のリーダーだと思われる青峰を中心に目線だけで意思の疎通が図られる。
「分かった」
警戒したように青峰が短く頷き、2人は他のメンバーを残して食堂の外に姿を消した。
時間にして5分も経たずに戻ってきたが、行く前と戻ってきてからでは青峰の表情が明らかに変わっていた。
一体外で何が話されていたのか。
「聞いたところで教えてくれるとも限らない、か」
気にはなるが下手に動いたら情報を得ることは叶わない。
聞くにしても今じゃない。
オレの視界の端には青峰と天童先輩を静かに睨む鷲崎の姿が映っていた。



