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 3日後の8月15日土曜日。
 黒雲が太陽を隠し、今にも雷が落ちてきそうな気配が漂う中、生徒会のメンバーは校舎の前に集まっていた。
 雑談をするでもなく、ただ来客が来るそのときを静かに待つ。
 さながら精神統一のように自己と向き合い、あらゆる雑念を取り払う。

 しばらくすると複数の足音が近づいてきた。
 まず初めに姿を見せたのは黒髪を後ろで束ねた男。身長も体型も平均的でこれといって警戒すべき点は無い。
 はずなのだが、彼が周囲に放つオーラが異質過ぎて肌に棘が突き刺さる感覚を覚える。

 白を基調とした制服に身を包み、彼の隣にも同じく白の制服を着た男女が5人横に並んでいる。
 聖帝虹(ていこう)学園高等学校の生徒会役員は6人のようだ。

「久しいな馬場」

 髪を結んだ男が柔らかい笑みで話し掛ける。
 恐らく彼が生徒会長で間違いないだろう。

出雲(いずも)、去年とは随分と顔ぶれが変わっているな」

「相変わらずお前は痛いところを突いてくるな。まあ1年経てば序列も変わるさ。それだけ帝虹は層が厚いってことだ」

「そうか。それは頼もしい限りだな」

 序列1位〜9位はシングルナンバーと呼ばれている。
 シングルナンバーの序列の変動が頻繁に行われることはあまり良い印象を持たれないが、出雲の言うように聖帝虹学園の層の厚さが本物だとすれば納得だ。

「馬場会長、先日は世話になった。HIBIKIのライブの件、ドームの手配感謝する」

 出雲の隣で凛と立つ薄緑色の髪に水色の双眸を持つ女。
 馬場会長を前にしても臆さず、堂々と勇ましい雰囲気を放っている。

七草(ななくさ)が立てた企画が良かったからこちらはそれに応えただけだ。文化祭への集客に関して言えば1番貢献していると言っても過言ではないだろう」

「会長、企画が良かったのは事実ですけど褒め過ぎです」

 滝壺先輩が馬場会長に小声で注意する。
 その様子を見て七草が軽く手を上げた。

「私はほとんど何もしていない。それもこれもHIBIKIのおかげだ。今日は仕事で来られなかったがな」

 七草という名前に聞き覚えがあって記憶を辿っていたがようやく思い出した。
 西城の中学時代の先輩だ。
 西城いわく記憶の一部を失っていると言っていたが、人の上に立つカリスマ性は健在のようだ。
 言葉と佇まいに重みがある。

「おい、あれだけのことをしておいてよくのこのこと姿を見せられたな」

 榊原(さかきばら)先輩が正面の白髪の男に鋭い視線を飛ばす。
 今にも掴みかかりそうな勢いだが手を出さないのは問題に発展すると理解してのことだろう。

「あれだけのこと? すまない、俺には何のことだか分からない」

 白髪の男——反異能力者ギルドの青峰秀太(シューター)が首を傾げた。

「ふざけるな。お前もお前も学院を襲撃しただろ。校舎の修繕にどれだけの費用がかかったと思っているんだ」

 榊原先輩が青峰の横に並ぶ、覇刃切音色(ハバネロ)憂時雨杏子(ウィズ)に人差し指を向ける。
 そう。恐れていたことに聖帝虹学園の生徒会に反異能力者ギルドのメンバーが在籍していたのだ。
 馬場会長が出雲に対して顔ぶれが変わったと言っていたことからここ1年以内に生徒会メンバーが大きく入れ替わったのだろう。

「榊原副会長、変な言い掛かりはよしてくれ。仮に俺たちが異能力者育成学院を襲撃したのであればそれを証明できる証拠を出してくれ。まあ、聞くところによると防犯カメラには何も映っていなかったらしいじゃないか」

「負傷者も目撃者も出ている状況でシラを切るつもりか?」

「そう思うのは榊原副会長、君の自由だ。だが、証拠も無いのにこうやって一方的に詰め寄るだけでは帝虹が邪魔だから排除したい。ここにいる帝虹メンバーはそう捉えてしまうがいいのかな?」

「ふざけるな。死者が出るかもしれなかったんだぞ」

 榊原先輩が纏うオーラが跳ね上がり、瞬時に覇刃切が腰の鞘に手を掛け、憂時雨が杖を握り締めた。
 一触即発の状況にも関わらず、両校の生徒会長は止めようとする素振りすら見せない。

「おやおや、喧嘩かえ? 会議と聞いて退屈しとうたが(わし)も混ぜてくれんかのう?」

「いけません不知火(しらぬい)会長。あなたを止めようと思ったら間違いなく死人が出ます」

 不知火と呼ばれた白い狐の耳を生やした少女を先頭に後ろに2人、そのさらに後ろに3人並んでいる。
 青色の制服に身を包むのは私立鳳凰学院高等学校のメンバーだ。
 戦闘の実力が絶対視される校風を表しているのかピラミッドのような陣形でやってきた。

「それで儂の相手はどっちじゃ? なんならまとめてかかってきてもらっても構わんがのう」

 気付けば不知火が榊原先輩と青峰の間に立っていた。
 不意の出来事で誰も彼女を目で追うことができなかった。
 いや、こちらに来ると分かっていても目で追えたかどうか怪しい。
 榊原先輩も青峰も不知火に気圧されたのか戦闘態勢を解いた。
 覇刃切と憂時雨も武器から手を離し、目線を下に伏せている。

「不知火会長、少々お戯れが過ぎますよ。他校の皆さんも引いてしまっています」

 不知火と同じように一瞬で榊原先輩と青峰の下まで移動した男が優しく言い聞かせる。
 彼が通ったであろう直線上に黒い羽根が舞っていることから異能で消えたり出たりしている訳ではなさそうだ。

「余興のつもりだったんじゃがな。八咫烏(やたがらす)も理解していたであろう?」

「もちろんです。ですがどうやらその必要は無さそうだと判断したので勝手ながら止めさせていただきました」

「ふん、つまらなくなったのう」

 不知火はつまらなさそうに吐き捨て、異能力者育成学院と聖帝虹学園の生徒会のメンバーが並ぶ内側を歩いていく。

「馬場、出雲、待たせたのう」

「不知火、場を収めてもらって助かった。礼を言う」

 不知火の真の行動の意味を理解していた馬場と出雲がそれぞれ頭を下げた。

「気にするでない。血の気の多い猛獣を飼い慣らすのは慣れておる」

「不知火が言うとより凄みが増すな」

 出雲が苦笑する。
 戦闘主義の鳳凰学院でトップを張っているのだから出雲の反応も当然だ。

「お互い積もる話もあるとは思うが3校揃ったことだし生徒会室を案内しよう。話はそこに着いてからだ」

 馬場会長が昇降口に向かい、出雲と不知火がそれに続く。
 その後を3校の生徒会のメンバーが追う。

「ねえ、君! 1年生?」

 靴を履き替え、廊下を歩いていると赤色のメッシュが入った少女が肩を軽く叩いて話し掛けてきた。

「ああ、神楽坂春斗だ」

「私は暁雅(あかつきみやび)! 聖帝虹学園の1年生。ねえ、真冬は生徒会に入ってないの?」

「氷堂なら生徒会には入ってない。1年生はオレと前を歩いてる暗空だけだ」

 会話が聞こえていたのか暗空が振り返って外行きの笑顔を作って軽く会釈をした。

「だってさ(あらた)! 真冬は生徒会じゃないんだって!」

「当然だ。あいつは俺達とは違う。真冬程度が生徒会に所属していたら期待外れもいいところだ」

 鳳凰学院の制服を着た目付きの鋭い長身の男が氷堂には興味が無いと鼻で笑った。

「まあ、それもそっかー。真冬が私達に勝つところなんて想像もできないもんね」

 三代財閥の暁雅(あかつきみやび)鷲崎新(わしざきあらた)
 この2人にとって氷堂は眼中にないみたいだ。

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『異能力者育成学院高等学校』

生徒会長・馬場裕二(ばばゆうじ)(3年)
書記・滝壺水蓮(たきつぼすいれん)(3年)
会計・橋場哲也(はしばてつや)(3年)
副会長・榊原英二(さかきばらえいじ)(2年)
庶務・天童雷葉(てんどうらいは)(2年)
神楽坂春斗(かぐらざかはると)(1年)
暗空玲於奈(あんくうれおな)(1年)

『聖帝虹学園高等学校』

生徒会長・出雲総司(いずもそうじ)(3年)
書記・七草由香里(ななくさゆかり)(3年)
副会長・青峰秀太(あおみねしゅうた)(2年)
会計・覇刃切音色(はばきりねいろ)(2年)
庶務・憂時雨杏子(ういしぐれあんず)(1年)
暁雅(あかつきみやび)(1年)
鳴宮響(なりみやひびき)(1年)

『私立鳳凰学院高等学校』

生徒会長・不知火仙狐(しらぬいせんこ)(3年)
書記・古代宗助(こだいそうすけ)(3年)
副会長・八咫烏真幌(やたがらすまほろ)(2年)
会計・鎧塚駕衣(よろいづかがい)(2年)
庶務・如月兎(きさらぎうさぎ)(1年)
鷲崎新(わしざきあらた)(1年)