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 7月の最終週は怒涛の勢いで過ぎ去っていった。
 4日間にわたって行われた前期期末考査。
 その日の試験が終わればすぐさま頭を切り替えて次の日の試験対策を。
 どの科目も4月から学んできた内容が問われるため出題範囲が広い。
 日々の知識の積み重ねが明暗を分ける結果となるだろう。

 7月27日(月)、数学Ⅰ、世界史、化学。
 7月28日(火)、数学A、英語、情報。
 7月29日(水)、国語総合、異能力実技。
 7月30日(木)、生物、家庭科、美術の課題締め切り。

 試験最終日の家庭科の調理実習は、火野の独創性が教師の心に刺さったらしく加点対象となった。
 星形の餃子がウケたみたいだ。
 味に関しては氷堂が調整を掛け、オレと西城で雑用をこなした。
 1度練習をしていたこともあり、本番でバタつくこともなかった。

 出来た料理を写真に収めて、料理の一部とあわせて提出。
 残りはそのまま昼食としてグループで食べた。
 明日から8月末までの約1ヶ月の夏休みで何をするか。
 他のグループも同じような話題で盛り上がっていた。

「みんなは夏休み何をして過ごすのかな?」

 空いた皿をスポンジで洗いながら西城が話題を振る。
 率先して洗い物を引き受けるあたり、流石の気遣いだ。

「ずっとじゃないけど実家に帰るかも」

「火野さんの実家はどの辺りだっけ?」

「田舎の方だよ。山の奥。小さな神社で生まれたんだ」

「都会とはまた違って自然が豊かで良さそうだね」

「何も無いけどね」

 火野が自虐気味に笑った。
 都会で育った人は田舎を「自然が豊か」「空気が綺麗」などと言い、憧れを抱いているが山で育ったオレからしてみれば近くにスーパーもコンビニも無い生活は何かと不便だった。
 都会の生活に慣れてきたから尚更そう感じるのかもしれないが。

「氷堂さんは?」

「私は積んでる本を一気に読もうかなって考えてる。後は異能力の特訓をするつもり」

 氷堂がチラッとこちらに視線を送ってきた。
 前回の調理実習の練習の際に氷堂から手合わせを頼まれている。
 オレが忘れていないか念を押してのことだろう。
 忘れていないから大丈夫だ、と視線を送り返しておく。

「氷堂さんはストイックだよね。僕も見習わなくちゃ」

「そういう西城は何か予定無いのか?」

「僕は何人かから遊びに誘われてるけどそれを抜いたら特に何もないかな。神楽坂くんは?」

 1学年をまとめる立場として各方面から誘いも多いはずだ。

「オレは生徒会が忙しくなりそうだな」

「この時期は文化祭の準備とかかな?」

「ああ、他校と合同で開催するから規模も大きいらしい」

「何か手伝えることがあったら気軽に言ってね。僕で良ければ協力するよ」

「ありがとう。そのときは声を掛ける」

 西城の申し出は素直に有難い。
 文化祭の詳細をまだ聞かされていないが出店の準備や当日の警備など、人手はいくらあっても足りないくらいだ。

「文化祭と言えば文芸部も文芸誌を出すから買いに来て。神楽坂くんも参加するから」

 火野がちゃっかりと宣伝を入れる。

「あれ? 神楽坂くんって文芸部に入ってたっけ?」

 氷堂がいち早く反応した。

「実はつい最近入部したんだ。小説を書くのは初めてだからあまり期待はしないでくれ」

「そう。なんだか楽しそうでいいわね」

 氷堂が口を尖らせる。
 読書好きの氷堂からしてみれば文芸部は夢のような空間かもしれない。

「興味があれば氷堂も文芸部に入るか?」

「えっと、今はやることがあるからそれが終わったら考えてみるわ」

 考える素振りは見せたが即決はしなかった。
 どうしても倒さなければならない相手がいて、負けたら学院を辞めさせられる。
 以前、氷堂はそう口にしていた。
 その件が片付かない限り、氷堂は自由にならない。
 氷堂が敵対視している相手が誰なのか気になるところだ。

「みんなの予定さえ合えば何か集まる機会を作ろうと思うから決まったら連絡するね」

「了解!」

 ビシッと火野が敬礼した。
 長期休みともなれば予定を立てなければ顔を合わせることはない。
 そう言った意味でも自分からアクションを起こせない生徒にとって西城の存在は大きいはずだ。
 貴重な高校生活の夏に思い出を作りたいと考えている生徒も多いだろうからな。

 オレは生徒会と文芸誌作成を抱えつつ、氷堂の相談に乗る約束もしている。
 まだ始まってもいないというのに夏休みがあっという間に終わりそうで怖い。