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生徒が寝静まった夜11時。
パソコンを立ち上げて小説のネタになりそうなアイデアを箇条書きで羅列しているとスマホにメッセージが入った。
『拙者と磯峯氏、玄関の前にて待機。封印を解くべし』
明智を心の底から慕っている丸岡による暗号じみた文章。
掲示板の件も前進したので次のステップに進むべく2人を呼び出したのだ。
「鍵なら開いてるから入っていいぞ」
パソコンを閉じて玄関に向かって声を掛ける。
すると、物音を立てない配慮なのかゆっくりとドアが開かれた。
「神楽坂氏、夜分遅くに呼びつけるのは人としてどうかと思うぞ」
「私もこれからお風呂に入ろうと思ってたんだけど」
「悪い、あまり時間は取らないからとりあえず上がってくれ」
不満そうな表情を浮かべる2人を中に招き入れる。
「へー、なんか殺風景ね」
「そうか? 生活するには特に支障は無いが」
生活に必要の無いインテリアを買っていないからそう見えるのかもしれない。
観葉植物の1つや2つ置いたら雰囲気も良くなるのかもな。
「呼び出されたのは拙者と磯峯氏だけのようだな」
丸岡が黒縁眼鏡の縁を親指と人差し指で摘み、クイッと上げる。
「電話でもよかったんだが直接顔を合わせた方がいいと思ってな。明智とは電話を繋ぐ手筈になってる」
スマホを操作して明智を呼び出し、すぐにスピーカーへと切り替える。
『もしもし、もうみんな集まったんだね』
「ああ、早速だが、オレから今後の動きについて説明してもいいか?」
『うん、お願いしますっ』
スピーカー越しに明智の元気のいい返事が返ってきた。
丸岡と磯峯もテーブルの前に腰を下ろし、話を聞く態勢に入る。
「まず、今日の放課後、オレと暗空と明智で生徒会室に行ってきた」
「例の掲示板の件の報告ですな」
「計画通り明智さんが全ての責任を背負うことにしたの?」
『磯峯さん、私がしたことは事実だからそれは仕方がないんだよ』
「でも、誤解していた部分もあったんでしょ?」
明智の両親を殺害したのは暗空ではなく、暗空の姿に変身していた天魔咲夜である可能性が高い。
暗空の発言でそこまでは突き止めることができた。
学院に来るまで天魔の存在を知らなかった明智が誤解していたのも無理ない。
「磯峯の言う通り明智は誤解をしていたわけだが、今更行動自体を訂正できるわけじゃない。オレたちが戦おうとしているのは学院の内部だ。学院の闇を引き摺り出すには段階を踏んで下準備をしなくてはならない」
「深淵に潜む悪魔を召喚するにはそれ相応の代償を要すると思うのだが、拙者はまだ死にたくないでござるよ」
「そこまで心配することはない。丸岡と磯峯には噂の拡散を頼みたい」
「噂の拡散?」
磯峯が首を傾げる。
「掲示板の犯人が明智で本人がそれを認めたという内容を知り合いに話して欲しいんだ。その際に1つ注意してほしいのが話し始める際に『噂で聞いたんだけど』というワードを必ず入れてくれ」
噂の出所を特定されるリスクの回避。
協力してくれる丸岡と磯峯が被害を被らないための対策だ。
「そんなことしたら明智さんの立場が悪くなるんじゃない?」
噂の拡散役は明智のファンクラブに所属している2人にとっては複雑なポジションだろう。
自分が行動すればするほど、明智に偏見の視線が集まるからな。
『磯峯さん、丸岡くん、私は周りからなんて思われても大丈夫だよ。だって私には2人がいてくれるでしょ?』
「それはそうだけど」
「拙者は明智さんに一生ついて行くと心に決めています」
集団序列戦を経て3人の結束力は確実に高まっている。
相手のマイナスの面を受け入れて自分のことのように悩み、アドバイスを送る。時には意見が衝突することもあるだろう。
だが、それこそが真の仲間と呼べる存在なのかもしれない。
「個人的には嫌だけど明智さんがそれでいいって言うなら分かった。それでその先はどうするの?」
「学院に噂が浸透した頃合いを見計らって、中枢の人物と接触しようと考えている。校長の陣内が第一候補だが今は対象の選定を行なっている最中だ」
オレの計画を耳にした丸岡と磯峯は言葉を失った。
学院の闇を暴くとはそういうことだ。
殺人や誘拐を揉み消すほどの力を持っているとしたら校長や教頭クラスでないとまず不可能だ。
『ごめんね、色々と考えてくれてるのは凄く嬉しいんだけど、1つ素朴な疑問なんだけど、なんで神楽坂くんはここまで協力してくれるのかな?』
明智の核心を突く質問。
掲示板問題が解決してしまった今、同じ生徒会の暗空が標的にされていたからという言い訳は通用しない。
第三者からしてみればオレがこの問題に絡む理由が見当たらない。
「実はオレも探している人がいるんだ」
『えっ、神楽坂くんも?』
「オレには2つ歳の離れた妹がいるんだが、オレが10歳のときに誘拐されたんだ」
「そんなことって」
磯峯が両手で口を覆う。
「妹を攫った関係者が学院にいることを知ったオレは手掛かりを求めて異能力者育成学院に入学した。明智や暗空が探している天魔咲夜を追えば何か情報が掴めると思って協力することにしたんだ」
『……そうだったんだね。妹さん、早く見つけないとだね』
「神楽坂氏、微力ながら拙者もお力添えしますぞ」
「まだ死にたくない」と言っていた丸岡だったが、オレの話を聞いて優しく肩に手を置いてきた。
明智や暗空が自身の境遇を話し、明確な目標を定めた以上、オレも説得力のある理由が必要だった。
誤魔化すことはできたのかもしれないが隠し事がある状態では真の信頼関係は築けない。
明智や丸岡や磯峯を見ていてそれを肌で感じた。
個ではなく束で。
世界は広い。
いくらオレの力が異質だとしても強大な敵に1人で立ち向かうことは無謀だ。
自分と同等かそれ以上の生い立ちを歩んできた明智にだからこそ全てを話したのかもしれない。
生徒が寝静まった夜11時。
パソコンを立ち上げて小説のネタになりそうなアイデアを箇条書きで羅列しているとスマホにメッセージが入った。
『拙者と磯峯氏、玄関の前にて待機。封印を解くべし』
明智を心の底から慕っている丸岡による暗号じみた文章。
掲示板の件も前進したので次のステップに進むべく2人を呼び出したのだ。
「鍵なら開いてるから入っていいぞ」
パソコンを閉じて玄関に向かって声を掛ける。
すると、物音を立てない配慮なのかゆっくりとドアが開かれた。
「神楽坂氏、夜分遅くに呼びつけるのは人としてどうかと思うぞ」
「私もこれからお風呂に入ろうと思ってたんだけど」
「悪い、あまり時間は取らないからとりあえず上がってくれ」
不満そうな表情を浮かべる2人を中に招き入れる。
「へー、なんか殺風景ね」
「そうか? 生活するには特に支障は無いが」
生活に必要の無いインテリアを買っていないからそう見えるのかもしれない。
観葉植物の1つや2つ置いたら雰囲気も良くなるのかもな。
「呼び出されたのは拙者と磯峯氏だけのようだな」
丸岡が黒縁眼鏡の縁を親指と人差し指で摘み、クイッと上げる。
「電話でもよかったんだが直接顔を合わせた方がいいと思ってな。明智とは電話を繋ぐ手筈になってる」
スマホを操作して明智を呼び出し、すぐにスピーカーへと切り替える。
『もしもし、もうみんな集まったんだね』
「ああ、早速だが、オレから今後の動きについて説明してもいいか?」
『うん、お願いしますっ』
スピーカー越しに明智の元気のいい返事が返ってきた。
丸岡と磯峯もテーブルの前に腰を下ろし、話を聞く態勢に入る。
「まず、今日の放課後、オレと暗空と明智で生徒会室に行ってきた」
「例の掲示板の件の報告ですな」
「計画通り明智さんが全ての責任を背負うことにしたの?」
『磯峯さん、私がしたことは事実だからそれは仕方がないんだよ』
「でも、誤解していた部分もあったんでしょ?」
明智の両親を殺害したのは暗空ではなく、暗空の姿に変身していた天魔咲夜である可能性が高い。
暗空の発言でそこまでは突き止めることができた。
学院に来るまで天魔の存在を知らなかった明智が誤解していたのも無理ない。
「磯峯の言う通り明智は誤解をしていたわけだが、今更行動自体を訂正できるわけじゃない。オレたちが戦おうとしているのは学院の内部だ。学院の闇を引き摺り出すには段階を踏んで下準備をしなくてはならない」
「深淵に潜む悪魔を召喚するにはそれ相応の代償を要すると思うのだが、拙者はまだ死にたくないでござるよ」
「そこまで心配することはない。丸岡と磯峯には噂の拡散を頼みたい」
「噂の拡散?」
磯峯が首を傾げる。
「掲示板の犯人が明智で本人がそれを認めたという内容を知り合いに話して欲しいんだ。その際に1つ注意してほしいのが話し始める際に『噂で聞いたんだけど』というワードを必ず入れてくれ」
噂の出所を特定されるリスクの回避。
協力してくれる丸岡と磯峯が被害を被らないための対策だ。
「そんなことしたら明智さんの立場が悪くなるんじゃない?」
噂の拡散役は明智のファンクラブに所属している2人にとっては複雑なポジションだろう。
自分が行動すればするほど、明智に偏見の視線が集まるからな。
『磯峯さん、丸岡くん、私は周りからなんて思われても大丈夫だよ。だって私には2人がいてくれるでしょ?』
「それはそうだけど」
「拙者は明智さんに一生ついて行くと心に決めています」
集団序列戦を経て3人の結束力は確実に高まっている。
相手のマイナスの面を受け入れて自分のことのように悩み、アドバイスを送る。時には意見が衝突することもあるだろう。
だが、それこそが真の仲間と呼べる存在なのかもしれない。
「個人的には嫌だけど明智さんがそれでいいって言うなら分かった。それでその先はどうするの?」
「学院に噂が浸透した頃合いを見計らって、中枢の人物と接触しようと考えている。校長の陣内が第一候補だが今は対象の選定を行なっている最中だ」
オレの計画を耳にした丸岡と磯峯は言葉を失った。
学院の闇を暴くとはそういうことだ。
殺人や誘拐を揉み消すほどの力を持っているとしたら校長や教頭クラスでないとまず不可能だ。
『ごめんね、色々と考えてくれてるのは凄く嬉しいんだけど、1つ素朴な疑問なんだけど、なんで神楽坂くんはここまで協力してくれるのかな?』
明智の核心を突く質問。
掲示板問題が解決してしまった今、同じ生徒会の暗空が標的にされていたからという言い訳は通用しない。
第三者からしてみればオレがこの問題に絡む理由が見当たらない。
「実はオレも探している人がいるんだ」
『えっ、神楽坂くんも?』
「オレには2つ歳の離れた妹がいるんだが、オレが10歳のときに誘拐されたんだ」
「そんなことって」
磯峯が両手で口を覆う。
「妹を攫った関係者が学院にいることを知ったオレは手掛かりを求めて異能力者育成学院に入学した。明智や暗空が探している天魔咲夜を追えば何か情報が掴めると思って協力することにしたんだ」
『……そうだったんだね。妹さん、早く見つけないとだね』
「神楽坂氏、微力ながら拙者もお力添えしますぞ」
「まだ死にたくない」と言っていた丸岡だったが、オレの話を聞いて優しく肩に手を置いてきた。
明智や暗空が自身の境遇を話し、明確な目標を定めた以上、オレも説得力のある理由が必要だった。
誤魔化すことはできたのかもしれないが隠し事がある状態では真の信頼関係は築けない。
明智や丸岡や磯峯を見ていてそれを肌で感じた。
個ではなく束で。
世界は広い。
いくらオレの力が異質だとしても強大な敵に1人で立ち向かうことは無謀だ。
自分と同等かそれ以上の生い立ちを歩んできた明智にだからこそ全てを話したのかもしれない。



