—1—
カフェを出てから私と風花ちゃんとの間に会話はなかった。
中途半端な関係値の友人であれば気を利かせて当たり障りの無い話題を振ったりするけど、相手が風花ちゃんとなると話は別。
私の本性を知っても尚、真正面からぶつかってきてくれた。
本気で力になりたいと言ってくれた。
そんな相手は今までいなかった。
みんなお金か容姿目的で本当の私を見ようともしなかった。
風花ちゃんだけが真剣に私のことを考えようとしてくれていた。
自己中心的な考えで1度突き放してしまったけれど、頭の中を整理した今私には風花ちゃんが必要だってことに気づいた。
だから風花ちゃんには素の自分を見せると決めた。
そうでなきゃ、風花ちゃんとは対等な関係にはなれない。
無言。
長い廊下を私が先導する形で歩く。
広い船内とはいえ、2人きりで話せる場所となると案外限られている。
ほとんどの生徒がどこかしらの娯楽施設を利用しているから意外と廊下が穴場スポットだったりするけど、安全策を取るならやっぱり自室しかない。
部屋の前で立ち止まり、風花ちゃんと向き合う。
「風花ちゃん、中で話さない?」
「同室の方はいらっしゃらないんですか?」
「大丈夫。磯峯さんには席を外してもらってるから」
「そう、ですか」
学院のトイレで口封じをしようとした前科があるから密室を敬遠される可能性もあったけど、どうやら納得してくれたみたいだ。
まあ、その場合はデッキに行こうと思っていたけど。
ドアを開き、靴を揃えて部屋に入る。
私は2つ並んでいるベッドのうち、手前のベッドに腰を掛けた。
後から入ってきた風花ちゃんは鞄を抱きかかえるようにして椅子に座った。
気まずい。
私が呼び出したから話を切り出さなくちゃいけないのは分かっているけど、いざ対面すると考え過ぎてしまって言葉が出てこない。
こうしている間にも掛け時計の秒針が時を刻み続けている。
「風花ちゃん、序列戦の最中酷いこと言ってごめんね」
意を決して謝罪を口に出す。
「いえ、私の方こそ明智さんの気持ちも知らずに、無神経でした」
「ううん、風花ちゃんは何も悪くないよ。悪いのは私だから。初めてだったんだ。誰かに『力になりたい。悩みを抱えているなら一緒に解決したい』なんて言ってもらえたのは」
日常会話レベルの軽い感じでなら言われたことはある。
しかし、あそこまで感情を剥き出しにして全力で手を差し伸べてくれたのは初めての経験だった。
「明智さんは私の憧れでした。キラキラ輝いていて、みんなから愛されていて、場を明るくする素敵な才能を持っている。明智さんは私の初めての友達なんです。明智さんにとっては数多い友達の中の1人かもしれませんが」
風花ちゃんが自嘲気味に笑う。
丁寧に言葉を選びながら話す風花ちゃんを見ていると、どれだけ私のことを大切に思ってくれているかが伝わってくる。
心が痛い。
傷口を消毒するかのように、私の醜い心が風花ちゃんの綺麗な心によって浄化されていく。
あれだけ酷い仕打ちをしたというのにまだ私のことを友達だと言ってくれるなんて。
「どこで間違っちゃったんだろう」
「何があっても人を傷つけるようなことは絶対にしてはいけません。そういう意味では明智さんは間違った選択を取ったのかもしれません。でも、今までの明智さんの行動が全て間違いだったと決めるにはまだ早いと思います」
風花ちゃんが立ち上がってゆっくりと近づいてきた。
私を見下ろす風花ちゃんの瞳はいつにもなく力強い。
「過ちを犯したのなら反省は必要です。正直私も明智さんのことで相当悩んだんですからね」
私の裏の顔を知ってからの学校生活は相当プレッシャーだったはずだ。
事実として避けられている節があった。
「私には明智さんに何があったのかはわかりません。ただ明智さんが理由も無く他人を傷つける人じゃないってことだけはわかります。もしかしたら私がそうだと思いたいのかもしれません」
「風花ちゃん……」
「話せる範囲で構いません。明智さん、私に何があったのか話してくれませんか?」
「う、うん」
風花ちゃんの言葉が胸に刺さり、気付けば私は頷いていた。
「何から話せばいいかな? えっとね——」
夕日が水面を赤く染め、船の中にまで反射した光が入ってくる。
私は風花ちゃんにこれまでの経緯を話すのだった。
カフェを出てから私と風花ちゃんとの間に会話はなかった。
中途半端な関係値の友人であれば気を利かせて当たり障りの無い話題を振ったりするけど、相手が風花ちゃんとなると話は別。
私の本性を知っても尚、真正面からぶつかってきてくれた。
本気で力になりたいと言ってくれた。
そんな相手は今までいなかった。
みんなお金か容姿目的で本当の私を見ようともしなかった。
風花ちゃんだけが真剣に私のことを考えようとしてくれていた。
自己中心的な考えで1度突き放してしまったけれど、頭の中を整理した今私には風花ちゃんが必要だってことに気づいた。
だから風花ちゃんには素の自分を見せると決めた。
そうでなきゃ、風花ちゃんとは対等な関係にはなれない。
無言。
長い廊下を私が先導する形で歩く。
広い船内とはいえ、2人きりで話せる場所となると案外限られている。
ほとんどの生徒がどこかしらの娯楽施設を利用しているから意外と廊下が穴場スポットだったりするけど、安全策を取るならやっぱり自室しかない。
部屋の前で立ち止まり、風花ちゃんと向き合う。
「風花ちゃん、中で話さない?」
「同室の方はいらっしゃらないんですか?」
「大丈夫。磯峯さんには席を外してもらってるから」
「そう、ですか」
学院のトイレで口封じをしようとした前科があるから密室を敬遠される可能性もあったけど、どうやら納得してくれたみたいだ。
まあ、その場合はデッキに行こうと思っていたけど。
ドアを開き、靴を揃えて部屋に入る。
私は2つ並んでいるベッドのうち、手前のベッドに腰を掛けた。
後から入ってきた風花ちゃんは鞄を抱きかかえるようにして椅子に座った。
気まずい。
私が呼び出したから話を切り出さなくちゃいけないのは分かっているけど、いざ対面すると考え過ぎてしまって言葉が出てこない。
こうしている間にも掛け時計の秒針が時を刻み続けている。
「風花ちゃん、序列戦の最中酷いこと言ってごめんね」
意を決して謝罪を口に出す。
「いえ、私の方こそ明智さんの気持ちも知らずに、無神経でした」
「ううん、風花ちゃんは何も悪くないよ。悪いのは私だから。初めてだったんだ。誰かに『力になりたい。悩みを抱えているなら一緒に解決したい』なんて言ってもらえたのは」
日常会話レベルの軽い感じでなら言われたことはある。
しかし、あそこまで感情を剥き出しにして全力で手を差し伸べてくれたのは初めての経験だった。
「明智さんは私の憧れでした。キラキラ輝いていて、みんなから愛されていて、場を明るくする素敵な才能を持っている。明智さんは私の初めての友達なんです。明智さんにとっては数多い友達の中の1人かもしれませんが」
風花ちゃんが自嘲気味に笑う。
丁寧に言葉を選びながら話す風花ちゃんを見ていると、どれだけ私のことを大切に思ってくれているかが伝わってくる。
心が痛い。
傷口を消毒するかのように、私の醜い心が風花ちゃんの綺麗な心によって浄化されていく。
あれだけ酷い仕打ちをしたというのにまだ私のことを友達だと言ってくれるなんて。
「どこで間違っちゃったんだろう」
「何があっても人を傷つけるようなことは絶対にしてはいけません。そういう意味では明智さんは間違った選択を取ったのかもしれません。でも、今までの明智さんの行動が全て間違いだったと決めるにはまだ早いと思います」
風花ちゃんが立ち上がってゆっくりと近づいてきた。
私を見下ろす風花ちゃんの瞳はいつにもなく力強い。
「過ちを犯したのなら反省は必要です。正直私も明智さんのことで相当悩んだんですからね」
私の裏の顔を知ってからの学校生活は相当プレッシャーだったはずだ。
事実として避けられている節があった。
「私には明智さんに何があったのかはわかりません。ただ明智さんが理由も無く他人を傷つける人じゃないってことだけはわかります。もしかしたら私がそうだと思いたいのかもしれません」
「風花ちゃん……」
「話せる範囲で構いません。明智さん、私に何があったのか話してくれませんか?」
「う、うん」
風花ちゃんの言葉が胸に刺さり、気付けば私は頷いていた。
「何から話せばいいかな? えっとね——」
夕日が水面を赤く染め、船の中にまで反射した光が入ってくる。
私は風花ちゃんにこれまでの経緯を話すのだった。



