—1—

 3日間という長く厳しい戦いを終えた生徒に与えられた束の間のご褒美タイム。
 ライフポイントさえ持っていればショーステージ、映画館、プール、ジャグジー、ジム、ショッピングエリア、レストラン、カフェ、展望浴場など様々な娯楽施設を満喫することができる。

 7月分のライフポイントはすでに1日に振り込まれている。
 オレの残額は29万2870LP。
 序列が全てのこの学院では振り込まれる額も序列によって変化するが、オレの場合はそれに加えて生徒会活動費として追加で3万ライフポイントが支給されている。

 毎月の食費や生活費以外の予期せぬ出費を考慮したとしても十分な貯蓄があると言えるだろう。
 少しばかり散財しても問題は無さそうだ。

「おー、凄いな」

 客船の上層階にあるショッピングエリアまで足を伸ばすと、そこには上流階級の人々が好みそうな煌びやかな装飾品店やアパレルショップが並んでいた。

 華やかな雰囲気に圧倒されながらもショーケースに飾られたネックレスに目をやり、視線を徐々に落とすと値札に112000LPと書かれていた。
 とてもじゃないが手が伸びる金額ではない。

 ただ、アクセサリーにあまり興味は無かったが間近で見てみると案外カッコイイものだな。
 今回は購入を見送るがもう少し安価な物であれば1つくらい持っていてもいいかもしれない。

 装飾品はその人のステータスを表す指標となることがある。
 生徒会役員という立場上、学院の内外問わず多くの人間と接触することが予想される。
 ある程度身なりには気を遣っていた方がいいだろう。

—2—

 その後、洋服店に立ち寄り、夏服を数着購入した。
 平日は制服を着ているからそこまで私服を持っていなくても何とかなったが、7月下旬の前期期末試験が終われば夏休みが控えている。
 服のレパートリーを増やしておいて損はないはずだ。

 さて、消灯時間まで自由行動となれば思い出を作るために友人と過ごすのが一般的だが現在オレは1人。
 これまで何か目的があればこちらからアクションをかけることはあっても、適当に時間を潰したり、プライベートで誰かを誘ったりする場面はほとんど無かったような気がする。

 誘えば首を縦に振ってくれそうな友人に何人か心当たりがあるが、他の友人といた場合気を遣わせてしまうことになる。
 まあ、消灯時間を迎えれば部屋で千炎寺と顔を合わせることになるし、もうしばらく1人で買い物を楽しむとするか。

 ふらふら歩いていると、お土産エリアに辿り着いた。
 学院の寮で生活をしているオレたちにとってお土産の対象は家族や親戚ではなく、先輩や自分自身になる。
 商品によっては郵送サービスも行っているみたいだが、別途代金が発生するようだ。

 金銭的に余裕のある序列上位者であればまだしも半数以上がカツカツの中で生活をしているため、利用者はそこまで多くない。

 店内はお土産の定番であるクッキーなどのお菓子類からキーホルダーやボールペン、ぬいぐるみなどの雑貨、Tシャツや帽子など豊富なラインナップが揃っている。

 生徒会にも一応何か買った方がいいのだろうか?
 別に遊びに来ている訳ではないから必要ない気もするが、こういう経験が無かったからよく分からないな。

 迷った末、クッキーとバームクーヘンを手に取り会計に向かう。
 機会があったら暗空の様子を窺って、必要無さそうだと分かれば自分で食べればいい。

「お願いしま、あっ」

 レジの店員に商品を渡そうとしたタイミングで横から手が伸びてきた。

「げっ、神楽坂」

 敷島(しきしま)がオレの顔を見るなり、変な声を出して固まる。
 レジに差し出した手にはチョコクランチと焼き菓子の詰め合わせが握られている。

「えっと、どうされますか?」

「一緒で大丈夫です」

「ちょっと、やめてよ。何のつもり?」

 敷島が手にしていた商品を店員に渡し、オレの分と一緒に会計を済ませた。
 敷島には糸巻の情報を伝えてもらった借りがある。
 何らかの形で返そうと思っていたからちょうどいい。

「序列戦が終わったら穴埋めをさせてくれって言っただろ」

「だからそれは私が勝手にやったことだからいらないって」

「そうか。じゃあ、これはオレが払いたくって払った。だから気にするな」

 店員から袋を受け取り、敷島に無理矢理握らせた。

「ったく、意味わかんない」

「自分の得点を犠牲にしてまでオレに忠告してくれただろ。何かされっぱなしっていうのは居心地が悪くてな」

「私の忠告はいらなかったみたいだけどね」

 敷島が皮肉っぽく笑った。

「手負いの状態であれを倒すとかあんた何者なの?」

「何も特別なことはしていない。オレは必要な手順を踏んで糸巻を倒した。ただそれだけだ」

「ふーん、ぜんっぜん理解できない。けどいいや」

 敷島がオレに背を向けて袋を持った手を軽く掲げた。
 そのまま特に何か話す訳でもなく敷島は去って行った。