—1—
2日後の土曜日。
異能力者育成学院に入学してから初めてのこと尽くしだが、今日は初めての休日。
昨日の放課後、西城と明智が中心となって遊ぶ予定を立てていたみたいだが、オレに声が掛かることは無かった。
今頃、大人数でショッピングモールにでも行っていることだろう。
「よし、こんなもんか」
オレもその輪に入っておけばよかったなと思いながら、部屋の隅に積まれていた段ボールの山を片付け終えた。
とは言っても段ボールの中身は必要最低限の物しか入っていなかったのだが。
衣類や日用品など、こっちに来てからでも買い揃えることが出来そうなものはあえて送らなかったのだ。無駄な荷物になるからな。
時刻はお昼前。
そろそろお腹も空いてきたし、散歩がてらどこか食べ物屋でも探してみるか。
机の上に置いていたスマートフォンをポケットに忍ばせると家を出た。
—2—
休日のショッピングモールは多くの人で賑わっていた。
1人で来るのには少しばかり抵抗があったが、ここには数多くの店が入っていると噂で聞き、1度足を運んでみたかったのだ。ここなら美味しい食べ物屋もありそうだしな。
このショッピングモールも学校が所有している施設の1つだ。
つまり、ライフポイントで支払いすることができる。財布を持たずとも買い物ができるようになったのは非常に便利だ。
毎月10万円相当のライフポイントが配布される。
高校生がひと月で使い切るにはあまりにも多い。明智から聞いた話だが、女子は服やアクセサリーを、男子は漫画やゲームを買い漁ってるらしい。
たった数日で金銭感覚が麻痺している生徒もいるみたいだ。お金は計画的に使うに限る。
ショッピングモールの1階はアパレルショップが並んでいた。どの店も新入生が楽しそうに買い物をしている。
当然、オレはアパレルショップに用は無いので、素通りする。
しばらく行くと1階の奥に食べ物屋がまとまっているのが見えた。カレー屋にハンバーガーショップ、定食屋など、美味しそうな匂いが店の外まで漏れている。
ぐるりと食べ物屋のエリアを1周した後、オレはラーメン屋に入ることを決めた。理由は1番良い匂いがしていたからだ。あと、店の外にあるサンプルが美味しそうだった。
「へい、いらっしゃい。お客さん、1人かい?」
頭に白いタオルを巻いたいかにもラーメン屋の店主という男が元気よくそう尋ねてきた。
オレは黙って頷く。
「今混んでてね、カウンターなら1席空いてますよ」
「大丈夫です」
どうぞーと店主がこれまた元気よくカウンターに水を出してくれた。
椅子に座り、出されたコップに口をつける。
お昼どきでどの店も混んでいたからすぐ座れただけでもラッキーだった。店の雰囲気も良いし、定期的に通うかもな。問題は味、だが。
メニューを開き、どのラーメンにするか迷っていると、隣に座る少女から声が掛けられた。
「偶然ですね、誰かと思えば神楽坂くんじゃないですか」
「暗空がこういう店にいるとは意外だな」
黒髪ショートカットの少女、暗空玲於奈が黄金に輝くスープをすすっていた。
「神楽坂くんは私を何だと思ってるんですか? 私だってラーメンくらい食べに来ますよ」
「もっと高級なイタリアンとか食べてそうなイメージだった」
「フフッ、そういうのも嫌いじゃないですけどね。ああいうのはたまに食べるからいいんですよ」
「そういうものなのか」
小さな口でラーメンをすする暗空の額に汗が浮かんでいた。随分と美味しそうに食べるやつだな。
「頼まないんですか?」
「ああ、暗空の食べてるそれはどのメニューだ?」
暗空が食べているところを見たらオレも同じものを食べたくなった。
「味噌ラーメンです。野菜増し増しにするのがポイントですよ」
「野菜増し増しか。わかった」
暗空に言われた通り、店主に味噌ラーメン野菜増し増しなるものを注文した。
少しして味噌ラーメンが運ばれてきた。良い匂いだ。
すぐに麺から食べてしまいたいところだが、一歩踏みとどまり、まずはスープを。
「美味いな」
野菜の出汁と味噌のコクが合わさって最高だ。あっという間に口の中に幸せが広がる。
そういえば、暗空に会ったら話したいことがあったのを思い出した。
「なあ、暗空」
「なんですか?」
お互いラーメンをすする手を止める。
「暗空が特待生だったんだな」
「ええ、そうですよ」
「隠さないんだな」
「隠していてもいずれわかることですから。誰から聞きました?」
暗空がオレの目を見た。
相手が正直に答えてくれた手前、こちらが嘘をつくわけにもいかない。
「西城だ」
「なるほど、彼が」
納得したように暗空が頷いた。
西城は暗空本人から聞いたとは言っていなかったが、暗空の反応を見るに直接話したのだろう。
「総当たり戦では異能力を使っていなかったように見えたが」
「ええ、わざわざ大会前に自分から手の内を晒す必要は無いかなと思いまして。その点神楽坂くんは、氷堂さんと良い勝負を繰り広げていたみたいで」
「いや、完敗だったぞ。さすがは特待生だなと思い知らされた」
「そうですか。神楽坂くんは、あくまでそういうスタイルでいくんですね」
薄っすらと暗空が笑った。
「なんのことだ?」
「いえ、なんでもないです。せっかくのラーメンが伸びてしまいますよ」
すでにラーメンを食べ終えていた暗空はそう言って席を立った。
休日に誰かとご飯を食べるのも悪くはないな。暗空の背中を見送りながらオレはそう思った。
2日後の土曜日。
異能力者育成学院に入学してから初めてのこと尽くしだが、今日は初めての休日。
昨日の放課後、西城と明智が中心となって遊ぶ予定を立てていたみたいだが、オレに声が掛かることは無かった。
今頃、大人数でショッピングモールにでも行っていることだろう。
「よし、こんなもんか」
オレもその輪に入っておけばよかったなと思いながら、部屋の隅に積まれていた段ボールの山を片付け終えた。
とは言っても段ボールの中身は必要最低限の物しか入っていなかったのだが。
衣類や日用品など、こっちに来てからでも買い揃えることが出来そうなものはあえて送らなかったのだ。無駄な荷物になるからな。
時刻はお昼前。
そろそろお腹も空いてきたし、散歩がてらどこか食べ物屋でも探してみるか。
机の上に置いていたスマートフォンをポケットに忍ばせると家を出た。
—2—
休日のショッピングモールは多くの人で賑わっていた。
1人で来るのには少しばかり抵抗があったが、ここには数多くの店が入っていると噂で聞き、1度足を運んでみたかったのだ。ここなら美味しい食べ物屋もありそうだしな。
このショッピングモールも学校が所有している施設の1つだ。
つまり、ライフポイントで支払いすることができる。財布を持たずとも買い物ができるようになったのは非常に便利だ。
毎月10万円相当のライフポイントが配布される。
高校生がひと月で使い切るにはあまりにも多い。明智から聞いた話だが、女子は服やアクセサリーを、男子は漫画やゲームを買い漁ってるらしい。
たった数日で金銭感覚が麻痺している生徒もいるみたいだ。お金は計画的に使うに限る。
ショッピングモールの1階はアパレルショップが並んでいた。どの店も新入生が楽しそうに買い物をしている。
当然、オレはアパレルショップに用は無いので、素通りする。
しばらく行くと1階の奥に食べ物屋がまとまっているのが見えた。カレー屋にハンバーガーショップ、定食屋など、美味しそうな匂いが店の外まで漏れている。
ぐるりと食べ物屋のエリアを1周した後、オレはラーメン屋に入ることを決めた。理由は1番良い匂いがしていたからだ。あと、店の外にあるサンプルが美味しそうだった。
「へい、いらっしゃい。お客さん、1人かい?」
頭に白いタオルを巻いたいかにもラーメン屋の店主という男が元気よくそう尋ねてきた。
オレは黙って頷く。
「今混んでてね、カウンターなら1席空いてますよ」
「大丈夫です」
どうぞーと店主がこれまた元気よくカウンターに水を出してくれた。
椅子に座り、出されたコップに口をつける。
お昼どきでどの店も混んでいたからすぐ座れただけでもラッキーだった。店の雰囲気も良いし、定期的に通うかもな。問題は味、だが。
メニューを開き、どのラーメンにするか迷っていると、隣に座る少女から声が掛けられた。
「偶然ですね、誰かと思えば神楽坂くんじゃないですか」
「暗空がこういう店にいるとは意外だな」
黒髪ショートカットの少女、暗空玲於奈が黄金に輝くスープをすすっていた。
「神楽坂くんは私を何だと思ってるんですか? 私だってラーメンくらい食べに来ますよ」
「もっと高級なイタリアンとか食べてそうなイメージだった」
「フフッ、そういうのも嫌いじゃないですけどね。ああいうのはたまに食べるからいいんですよ」
「そういうものなのか」
小さな口でラーメンをすする暗空の額に汗が浮かんでいた。随分と美味しそうに食べるやつだな。
「頼まないんですか?」
「ああ、暗空の食べてるそれはどのメニューだ?」
暗空が食べているところを見たらオレも同じものを食べたくなった。
「味噌ラーメンです。野菜増し増しにするのがポイントですよ」
「野菜増し増しか。わかった」
暗空に言われた通り、店主に味噌ラーメン野菜増し増しなるものを注文した。
少しして味噌ラーメンが運ばれてきた。良い匂いだ。
すぐに麺から食べてしまいたいところだが、一歩踏みとどまり、まずはスープを。
「美味いな」
野菜の出汁と味噌のコクが合わさって最高だ。あっという間に口の中に幸せが広がる。
そういえば、暗空に会ったら話したいことがあったのを思い出した。
「なあ、暗空」
「なんですか?」
お互いラーメンをすする手を止める。
「暗空が特待生だったんだな」
「ええ、そうですよ」
「隠さないんだな」
「隠していてもいずれわかることですから。誰から聞きました?」
暗空がオレの目を見た。
相手が正直に答えてくれた手前、こちらが嘘をつくわけにもいかない。
「西城だ」
「なるほど、彼が」
納得したように暗空が頷いた。
西城は暗空本人から聞いたとは言っていなかったが、暗空の反応を見るに直接話したのだろう。
「総当たり戦では異能力を使っていなかったように見えたが」
「ええ、わざわざ大会前に自分から手の内を晒す必要は無いかなと思いまして。その点神楽坂くんは、氷堂さんと良い勝負を繰り広げていたみたいで」
「いや、完敗だったぞ。さすがは特待生だなと思い知らされた」
「そうですか。神楽坂くんは、あくまでそういうスタイルでいくんですね」
薄っすらと暗空が笑った。
「なんのことだ?」
「いえ、なんでもないです。せっかくのラーメンが伸びてしまいますよ」
すでにラーメンを食べ終えていた暗空はそう言って席を立った。
休日に誰かとご飯を食べるのも悪くはないな。暗空の背中を見送りながらオレはそう思った。



