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 魔族七将・氷狼のヴォニア討伐作戦から数日が経過。
 奪還した仙台の復興が進む中、オレは東京にある魔族討伐部隊クリムゾン本部に呼び出されていた。
 百園(ももぞの)さんの話では功績を称える式典があるらしい。
 指定された時刻より早く着いてしまった為、時間を潰すべくスマホでニュース記事を眺める。

 『人類を勝利へと導いた青年の正体』
 『都市奪還が及ぼす社会への影響』
 『東北に復興の兆し』
 『犠牲者6,000人超え。戦場では一体何が?』
 『遺族の悲しみの声』
 『神能十傑・九重正(ここのえただし)さん戦死』

 数日経った今でもトップニュースはいずれも仙台奪還関連だ。
 それくらい今作戦が国民に与えたインパクトは大きい。
 良い意味でも悪い意味でも。

 作戦に参加した魔族討伐部隊と魔族狩人(イビルハンター)の総数は7042人。
 その内、生存者は431人だった。
 致命傷を負い、病院に搬送された隊員もここ数日で命を落としている。
 それだけ今回の作戦は激しかった。

 仙台駅西口で異様な雰囲気を放つ魔族の大黒門(イビルゲート)は守護者であるヴォニアを失ったことで完全に効力を失った。
 人間界の物ではない為、動かすにも動かせずオブジェクトとして佇んでいる。

 復興には地元住民やボランティアを募り、地道に作業を進めている。
 普通の人間と比べて身体能力に優れている神能の血族である英雄候補生の面々も精力的に手伝っている。

 約7年もの間、人の手が入らなかった影響で草木が生い茂り、先日の戦闘の余波で建物の瓦礫も至る所に転がっている。
 道路の舗装もしなくてはならない。それからライフラインの復旧も急務だ。
 都市を取り戻したとはいえ、人が住めるようになるのはまだ数ヶ月先になりそうだ。

「三刀屋さん、中へどうぞ」

「はい」

 受付の女性に声を掛けられ、会議室の扉を開く。
 中には魔族討伐部隊を取り纏めている人間が集まっていた。
 神能十傑のメンバーで開かれる遠隔会議とはまた別の緊張感がある。
 室内は机がコの字型に配置されており、片側には本部の人間が並び、もう片方には前線で指揮を取る人間が座っている。
 兵長を務める天草さんも出席していた。目が合い、軽く頭を下げる。
 そして、両陣営を見渡すことができる隊長の席には百園さんの姿があった。
 百園さんにも軽く頭を下げ、オレは前方のモニターの前で足を止めた。

「三刀屋奈津隊員。まずは今作戦お疲れ様でした。あなたの活躍で仙台を奪還することができました。残念ながら多くの犠牲が出てしまいましたが、魔族七将の一将を討ち取ることができたのは日本の未来にとって大きな意味を生む結果となるでしょう。改めて、感謝を。ありがとうございました」

 百園さんから労いの言葉を受け、両陣営から拍手が起こった。

「正面のモニターをご覧下さい。すでにご存知の方もいらっしゃるかと思いますが戦果を上げた隊員の一覧です」

一条織覇(いちじょうおりは):魔族討伐部隊並びに魔族狩人(イビルハンター)の援護。下級、知略型の魔族の討伐に大きく貢献。
四宮叶(しのみやかなう)八神省吾(やがみしょうご):三獣士・炎獅子のライオネル討伐。
二階堂紅葉(にかいどうくれは)二階堂星夜(にかいどうせいや):三獣士・怪猿のバオ討伐。
三刀屋亜紀(みとやあき):三獣士・爆撃鳥のクロウ討伐。獣人族、巨人族残党の掃討。
三刀屋奈津(みとやなつ):魔族七将・氷狼のヴォニア討伐。

「ここに名前のある隊員は今年の4月から三刀屋隊員を教官とする訓練施設で直接指導を受けている生徒です。もちろん、彼等の努力あってのものですが、たった数ヶ月で軍師級と同格のレベルにまで成長しています」

「素晴らしい」
「聞くところによると神能の武装化を使いこなせるようになったとか」
「それは心強いな」
「三刀屋隊員は指導者としての才能もあるのか」

 安全区域襲撃、実技訓練での蒼竜ミルガルド戦、魔族七将討伐作戦。
 人は死線を越えた分だけレベルアップする。
 訓練での指導こそ行っているが死を覚悟する状況は意図して作り出すことができない。
 いや、そんなことはないのか。
 脳裏に那由他蒼月(なゆたそうげつ)の影がチラつき、なんとなく彼の目的が見えた気がした。

「以上の功績を踏まえて三刀屋奈津隊員を神能十傑に任命致します」

「謹んでお受け致します」

 魔族七将を倒した実績と英雄候補生の活躍。
 20歳の若者が神能十傑に名を連ねることに対して快く思わない人もいたかもしれないが結果として示された以上、異議を唱える者はいなかった。

「それではこれからについて話しましょう」

 モニターが消え、緩みかけていた空気が引き締まる。

「混乱を招く可能性がある為、メディアには伏せていますが、九重正(ここのえただし)隊員の遺体と五色大和(ごしきやまと)隊員の消息が途絶えました」

 そう。
 オレが『氷結隔離結界(アイソレーション)』を発動する前まで確かに倒れていたはずの2人がいつの間にか戦場から姿を消したのだ。
 実は第一次魔族大戦の時にも似たようなことが起きている。
 戦死した神能十傑の遺体がことごとく消えているのだ。

「三刀屋隊員を神能十傑に加えたとしても戦力的に見れば以前よりも1人欠けた状態になります。幸いにも今回の作戦で仙台の魔族の大黒門(イビルゲート)が閉じた為、突然発生型のゲートを除いて東北に魔族が出現することはないでしょう。警戒を続ける必要は十分にありますが」

 突然発生型のゲートが開いた際に影の神能技『影繋ぎ(シャドーコネクト)』で現場に駆けつけていた九重さんが離脱した穴は大きい。
 これからは各地域で魔族に対応しなくてはならない。

「残す魔族七将は三将。世界のリセットまで残された猶予はそう長くはありません。そこで三刀屋隊員には仙台の復興体制が整い次第、活動拠点を東京に移してもらいます」

「分かりました」

 東京となると次の相手は魔族七将・赤燐のフレディーネだ。
 蒼竜ミルガルドの妹にあたる竜族。
 魔族大戦では神能十傑を2人も倒している。
 東京の担当区域は父さんだが、これまで討ち取れていないとなるとやはり一筋縄ではいかなさそうだ。

 魔族から国を取り戻すまで戦いは続く。
 そして、知ることになる。
 この世界の真実を。
 世界のリセットの意味を。


【第4章 魔族七将・氷狼のヴォニア】END
7人の英雄候補生と冴えない教官 1〜4章完結

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ここまでお読み頂きありがとうございました。
楽しんで頂けたら幸いです。
本作はいったんここで区切りとなります。5章以降については時期がきたらいずれ連載を再開することになるかと思います。
ありがとうございました。