—1—
——二階堂紅葉視点。
「うっ、状況は?」
上半身を起こして状況を確認する。
私はどうやら気を失っていたらしい。
どれくらい気を失っていた?
黒焔狼に突進されて地面を転がり木にぶつかったところまでは何となく覚えている。
「起きたか二階堂」
「八神くん、どうしたのその腕は!?」
顔が青ざめ、滝のような汗を流す八神くん。
右肘から下が切断されていて地面には血溜まりができている。
「黒焔狼にやられた。俺だけじゃない。お前の兄貴もやられた」
「兄が?」
視線を上げると兄が仰向けに倒れている姿が目に入った。
お腹の辺りが黒焔狼の爪で抉られていて見るに堪えない姿になっている。
地面に突き刺さった炎剣。
兄が最後まで立ち向かった証だ。
まだ死んだと決まった訳じゃない。
すぐに治療をすれば間に合う可能性は0じゃない。
「GARURURURU」
2体の黒焔狼が低い唸り声を上げる。
威嚇している相手は体の半身が青の鱗で覆われた少年。
背中に青白い翼が生えていて腕や足は獣人族とはまた違う鋭い爪が生えている。
まるで竜を彷彿とさせる見た目。
「彼は一体?」
前衛の黒焔狼が炎を吐くのと同時にもう1体の黒焔狼が物凄い早さで地を駆ける。
知性を持ち、連携を図ることができる魔族。
炎で目眩しを行い、もう1体が確実に仕留める作戦だろう。
目で追うのもやっと。
のはずなのだが、次の瞬間、鱗で覆われた少年の手には黒焔狼の頭が収まっていた。
少年はジタバタ暴れる黒焔狼を意にも介さず、握力だけで頭を握り潰した。
「何を言ってんのか分かんねーかもしれねーがあの青い竜が五色だ」
「あれが五色くん?」
空気が震える。
いや、厳密には大気中の魔素が五色くんに収束されている。
竜の見た目をした腕に魔素が集まり、黒焔狼に向かって一気に放出される。
エネルギー弾は黒焔狼を貫通し、周囲の木々を吹き飛ばし、遥か遠くの雲を裂いた。
理解が追いつかない。
もしこれが悪い夢だというなら今すぐに覚めてほしい。
「GIGAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!」
勝利の雄叫びとでもいうように五色くんだった竜が咆哮を上げる。
にわかには信じがたい。
けれど、言われてみればどこか面影がある。
ギロリと鋭い双眸が私と八神くんを捉えた。
「不味い。獲物が消えた今次に狙われるのは俺達だ」
八神くんが腕を抱えながら立ち上がり、竜と向き合う。
「五色くん! あなたが本当に五色くんだと言うのなら元の姿に戻ってくれないかしら。もう敵はいない。あなたのおかげで黒焔狼は倒せたわ」
五色くんが竜になった経緯は分からない。
だからまずは五色くんの意識があるかどうかの確認。
私の声が届いているかどうか。
意思疎通ができないようであれば止めるしかない。
私と八神くんの2人で。
「二階堂、無理だ。やるしかねーぞ」
再び空気がざわつき五色くんの腕に魔素が吸い込まれる。
あの破壊力だ。恐らく盾の類は通用しない。
となると、防御を捨てて攻めに特化するしかない。
中級の魔族を相手に全く歯が立たなかった私達がどこまでやれるか。
倒れている兄が視界に入る。
「父の復讐は果たせなくなるかもしれない。でもこれ以上家族を失う訳にはいかない。五色くん、命を燃やしてでもあなたを止める」
放たれたエネルギー弾を間一髪でかわし、全身から炎を噴出する。
出力を上げ、バチバチと燃え上がった炎を鎧のように纏っていく。
『紅炎武装』。
炎の神能の武装化。
まだまだ実力も技術も未熟な私が編み出した必殺技。
自身の命を燃やすことで一時的ではあるけれどあらゆる強敵にも匹敵する力を得ることができる。
文字通り発動中は寿命を削ることになる。
魔族七将・氷狼のヴォニアと戦う時まで温存しておきたかったけどそうは言ってられない。
「炎拳ッ!」
振り下ろされる五色くんの拳を渾身の一撃で弾き返す。
拳と拳が衝突する衝撃で地面に亀裂が生まれ地形が変化する。
命を削って、一挙手一投足見逃さないように神経を注いで尚も互角。
いや、絶望的な状況から互角に渡り合えているだけマシか。
「GIGAAAAAAAAAAAAAAAAA!」
エネルギー弾の連射。
全力で走りながらそれらを掻い潜るように避けていく。
気のせいかもしれないが五色くんの姿が最初に比べてどんどん竜の姿に変化しているような気がする。
半身だけ青い鱗で覆われていたのが今では七割くらいまで侵食している。
それと体が明らかに巨大化している。
「力を使うことで竜本来の姿に近づいている?」
体が焼けるように熱い。
呼吸も苦しい。
器が出来上がっていないのに水を注ぎ続けているような感覚。
亀裂から水が溢れていつ器が崩れてもおかしくはない。
寿命を代償にして無理矢理コーティングしているイメージだ。
長くは持たない。
「ボ、ボクGA、マモラナイTO。弱イ、KARA、ミンナGA、キズツク」
何かに抗っているのか、五色くんの口から内に秘めていた思いが溢れる。
「五色、お前は誰よりも努力をしてた。訓練の後も最後までグラウンドに残って特訓して。今日だって俺のことを助けてくれただろ? 白月猿を見つけたのだってお前だ。お前は自分が足を引っ張ってると勘違いしてるみたいだからこの際ハッキリ言うけどよ、お前はチームに必要な存在だ。俺達が魔族七将と戦う時にその頭脳が、視野の広さが必ず必要になる。誰もお前のことを足手纏いだなんて思ってねーよ。だから戻って来い!」
八神くんの訴えに五色くんが唸り声を上げながら頭を抱える。
「戻ル? 戻レナイ。戻リタイ。デキナイ。サセナイ。俺が全てを破壊する!」
「五色?」
声色が変わり、口調までも別人のようになった。
まるで人格が入れ替わったかのようだ。
青白い翼が大きく広がり、黒い尾が大蛇のように伸びていく。
それらを支える巨大な体躯と凛々しい竜の顔立ち。
もうそこに五色くんの面影はない。
「どうやら適合は上手くいったようだな。蒼竜ミルガルド、古い文献で読んだことがある。魔族七将・赤燐のフレディーネの兄にして竜族の救世主か」
「那由他さん?」
いつから背後にいたのか、那由他さんが蒼竜を見上げて笑みを浮かべていた。
——二階堂紅葉視点。
「うっ、状況は?」
上半身を起こして状況を確認する。
私はどうやら気を失っていたらしい。
どれくらい気を失っていた?
黒焔狼に突進されて地面を転がり木にぶつかったところまでは何となく覚えている。
「起きたか二階堂」
「八神くん、どうしたのその腕は!?」
顔が青ざめ、滝のような汗を流す八神くん。
右肘から下が切断されていて地面には血溜まりができている。
「黒焔狼にやられた。俺だけじゃない。お前の兄貴もやられた」
「兄が?」
視線を上げると兄が仰向けに倒れている姿が目に入った。
お腹の辺りが黒焔狼の爪で抉られていて見るに堪えない姿になっている。
地面に突き刺さった炎剣。
兄が最後まで立ち向かった証だ。
まだ死んだと決まった訳じゃない。
すぐに治療をすれば間に合う可能性は0じゃない。
「GARURURURU」
2体の黒焔狼が低い唸り声を上げる。
威嚇している相手は体の半身が青の鱗で覆われた少年。
背中に青白い翼が生えていて腕や足は獣人族とはまた違う鋭い爪が生えている。
まるで竜を彷彿とさせる見た目。
「彼は一体?」
前衛の黒焔狼が炎を吐くのと同時にもう1体の黒焔狼が物凄い早さで地を駆ける。
知性を持ち、連携を図ることができる魔族。
炎で目眩しを行い、もう1体が確実に仕留める作戦だろう。
目で追うのもやっと。
のはずなのだが、次の瞬間、鱗で覆われた少年の手には黒焔狼の頭が収まっていた。
少年はジタバタ暴れる黒焔狼を意にも介さず、握力だけで頭を握り潰した。
「何を言ってんのか分かんねーかもしれねーがあの青い竜が五色だ」
「あれが五色くん?」
空気が震える。
いや、厳密には大気中の魔素が五色くんに収束されている。
竜の見た目をした腕に魔素が集まり、黒焔狼に向かって一気に放出される。
エネルギー弾は黒焔狼を貫通し、周囲の木々を吹き飛ばし、遥か遠くの雲を裂いた。
理解が追いつかない。
もしこれが悪い夢だというなら今すぐに覚めてほしい。
「GIGAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!」
勝利の雄叫びとでもいうように五色くんだった竜が咆哮を上げる。
にわかには信じがたい。
けれど、言われてみればどこか面影がある。
ギロリと鋭い双眸が私と八神くんを捉えた。
「不味い。獲物が消えた今次に狙われるのは俺達だ」
八神くんが腕を抱えながら立ち上がり、竜と向き合う。
「五色くん! あなたが本当に五色くんだと言うのなら元の姿に戻ってくれないかしら。もう敵はいない。あなたのおかげで黒焔狼は倒せたわ」
五色くんが竜になった経緯は分からない。
だからまずは五色くんの意識があるかどうかの確認。
私の声が届いているかどうか。
意思疎通ができないようであれば止めるしかない。
私と八神くんの2人で。
「二階堂、無理だ。やるしかねーぞ」
再び空気がざわつき五色くんの腕に魔素が吸い込まれる。
あの破壊力だ。恐らく盾の類は通用しない。
となると、防御を捨てて攻めに特化するしかない。
中級の魔族を相手に全く歯が立たなかった私達がどこまでやれるか。
倒れている兄が視界に入る。
「父の復讐は果たせなくなるかもしれない。でもこれ以上家族を失う訳にはいかない。五色くん、命を燃やしてでもあなたを止める」
放たれたエネルギー弾を間一髪でかわし、全身から炎を噴出する。
出力を上げ、バチバチと燃え上がった炎を鎧のように纏っていく。
『紅炎武装』。
炎の神能の武装化。
まだまだ実力も技術も未熟な私が編み出した必殺技。
自身の命を燃やすことで一時的ではあるけれどあらゆる強敵にも匹敵する力を得ることができる。
文字通り発動中は寿命を削ることになる。
魔族七将・氷狼のヴォニアと戦う時まで温存しておきたかったけどそうは言ってられない。
「炎拳ッ!」
振り下ろされる五色くんの拳を渾身の一撃で弾き返す。
拳と拳が衝突する衝撃で地面に亀裂が生まれ地形が変化する。
命を削って、一挙手一投足見逃さないように神経を注いで尚も互角。
いや、絶望的な状況から互角に渡り合えているだけマシか。
「GIGAAAAAAAAAAAAAAAAA!」
エネルギー弾の連射。
全力で走りながらそれらを掻い潜るように避けていく。
気のせいかもしれないが五色くんの姿が最初に比べてどんどん竜の姿に変化しているような気がする。
半身だけ青い鱗で覆われていたのが今では七割くらいまで侵食している。
それと体が明らかに巨大化している。
「力を使うことで竜本来の姿に近づいている?」
体が焼けるように熱い。
呼吸も苦しい。
器が出来上がっていないのに水を注ぎ続けているような感覚。
亀裂から水が溢れていつ器が崩れてもおかしくはない。
寿命を代償にして無理矢理コーティングしているイメージだ。
長くは持たない。
「ボ、ボクGA、マモラナイTO。弱イ、KARA、ミンナGA、キズツク」
何かに抗っているのか、五色くんの口から内に秘めていた思いが溢れる。
「五色、お前は誰よりも努力をしてた。訓練の後も最後までグラウンドに残って特訓して。今日だって俺のことを助けてくれただろ? 白月猿を見つけたのだってお前だ。お前は自分が足を引っ張ってると勘違いしてるみたいだからこの際ハッキリ言うけどよ、お前はチームに必要な存在だ。俺達が魔族七将と戦う時にその頭脳が、視野の広さが必ず必要になる。誰もお前のことを足手纏いだなんて思ってねーよ。だから戻って来い!」
八神くんの訴えに五色くんが唸り声を上げながら頭を抱える。
「戻ル? 戻レナイ。戻リタイ。デキナイ。サセナイ。俺が全てを破壊する!」
「五色?」
声色が変わり、口調までも別人のようになった。
まるで人格が入れ替わったかのようだ。
青白い翼が大きく広がり、黒い尾が大蛇のように伸びていく。
それらを支える巨大な体躯と凛々しい竜の顔立ち。
もうそこに五色くんの面影はない。
「どうやら適合は上手くいったようだな。蒼竜ミルガルド、古い文献で読んだことがある。魔族七将・赤燐のフレディーネの兄にして竜族の救世主か」
「那由他さん?」
いつから背後にいたのか、那由他さんが蒼竜を見上げて笑みを浮かべていた。



