5月7日。ゴールデンウィークも終わり、また学校の日々が始まった。それまでよりもさらにさらに忙しい日々だった。

昼休み、俺は彼の待つ学校外のベンチまで向かう。今日は、錦田が試合に行くために休みで、頼まれていた日直の仕事を代わっていたら、この時間になってしまった。

「お疲れ、神原くん。待たせちゃってごめんね」
「お疲れ様です。先輩」

 俺がベンチに座ると、神原くんは俺の身体に密着するように近づいた。綺麗な顔に柔らかく微笑みが浮かんでいる。
 神原くんは相変わらず距離が近い。ゴールデンウィークに会えなかった分を取り戻すように、べったりとくっついていた。最初は困惑だけだったのに、今は、その距離がどこか心地いい。

「大丈夫ですか? 疲れてませんか?」
「うん、なんとか」

 普通の学校生活にプラスして、今日の日直みたいなこまこましたことをつい引き受けてしまっている上に、スポ大委員の仕事もなかなか忙しくなってしまっている。朝、女の子達から声を掛けられてもすっと断る神原くんみたいに、きちんと断れればいいんだけれど、なかなかうまくいかなかった。

「俺の肩使って休んでもいいですよ。なんなら膝枕でも……」
「ありがとう、気持ちだけ受け取っておくよ」

 神原くんの距離感が近いのは変わらなかった。でも、慣れてきたのか、戸惑いは薄まっている。むしろこうして一緒にいる時間を心地よく感じてしまった。神原くんの俺に対する想いと、俺の神原くんに対しての想いは同じ熱量ではないだろうけれど、それでも、一緒にいるのは楽しかった。

「神原くん、ごめん、俺そろそろ行かなきゃ。スポ体委員の集まりがあって」
「分かりました……」

 少し不服そうな顔で神原くんは言う。そして、ぼそり、と「先輩がそんなことしなくていいのに」と聞こえてきた。俺に不満があるわけじゃなくて、俺の忙しさに対して不満を抱いてるんだと思う。

「ごめんね。多分スポ大終わったらもうちょっと神原くんとの時間も作れると思うから」
「無理はしないでくださいね」
「うん。分かってるよ」

 申し訳ないな、と思いつつ、俺は佐山と共に、体育館で行われる、スポーツ大会の集まりに向かった。

 この日の集まりは、スポーツ大会委員のこれからの仕事に関しての話と配布物に関しての集まりだった。思ったよりもやることが多そうだ。まず競技のメンバー決めとか、練習場所の予約とか、大会の装飾作成とかエトセトラ……。結構やらなきゃいけないことがある。
頭の中が予定で圧迫されている感覚があった。

「それでは次の集まりは15日の放課後に行います。場所決めですので、忘れずに集まってくださいね」

 スポーツ大会実行委員長の山原先輩がそう締めて、その日の集まりは終わった。

「やばいなー。こんなにあるとは思わなかったぜ……」
「そうだな……」

 帰り、佐山と一緒に教室までの道を歩いていた。俺達の手には花の形の線が印刷された紙の束が二人合わせて200枚ほど。これはスポーツ大会の看板の装飾用に使う。16日までに提出しなければいけない。

「とりあえず、15日、よろしくな。場所決め会議!」
「あ、ああ……」

 場所決め会議、というのはスポ大の練習場所を決める会議。毎年激戦らしい。佐山はその日の放課後にちょうどシフトが入ってしまったらしくて、俺に任されてしまった。
 装飾作りの作業に、場所決め、あと朝とか昼とか放課後の細々した集まり。そういうのがこれから待っている。忙しそうで、引き受けてしまったことを、ちょっと後悔してしまった。

「……だから、ちょっと、なかなか忙しくなりそう。明日とかも結構早い電車で行くから……」

 帰り道、神原くんにこれまでのことと、明日からは一緒に登校出来なさそうなことを話す。神原くんはバス通学で、今乗っているバスが一番早い時間のバスらしい。

「そうですか……。ご無理はなさらないでくださいね」
「うん……」
「俺に手伝えることがあったらなんでも言ってくださいね。俺のことを頼ってください」
「ああ、うん。ありがとう。多分、大丈夫だから」

 正直仕事内容を見ると、他の人に頼りたい、っていうのが本音。けど、流石に神原くんを巻き込んで頼ってしまうのは申し訳ないから。
 その日から、俺は神原くんと帰れなくなってしまった。