「それって、先輩が引き受けなくてもいい案件じゃないですか……? その佐山って先輩がバイトのシフトを調整したりすればいいんですよね。その、佐山って人の見通しが甘かっただけじゃないですか?」

帰り道、佐山との話をしていたら、神原くんにそう言われた。正論。もやついてた部分をさっくりと言語化していた。少しだけ、もやついて部分が晴れた気がする。

「……まあ、それはそうだけど」

 でも、やっぱり、困っているから、助けたいって思って。

「そうやって困っている人を助けるのは先輩のいいところですし、俺もそれに救われたんですけれど、あまり無理しないでくださいね……」
「うん、そうするよ……。それに大きい仕事もそこまで振られることはないと思うし……」
「そうですか……」

 はあ、と神原くんは溜息をついた。それは、俺が引き受けてしまったことに呆れている、という感じではない。

「どうしたの?」
「……。ゴールデンウィークで先輩とお会い出来ないの、寂しいな、と思いまして……」

 愁いを帯びた横顔、という言葉が似合う表情を神原くんはしている。神原くんはお家が遠いのと、遠くの親戚に高校入学の挨拶をしにいかなければならないらしい。それで、会えなくなってしまうらしい。

「先輩」
「どうした?」
「ゴールデンウィーク、会えないので、ちょっとだけ、手を繋いでもいいですか?」
「う、うん。いいよ」
 
 別に手を繋ぐぐらいだったら友達同士でもやるだろうから、何も考えずに手を繋いだ。いつも、神原くんが優しくしてくれるお礼も兼ねて。

「ありがとうございます」

 ふわ、と綺麗な笑顔で笑いかける神原くん。相変わらず美しい顔立ちをしている。俺の手が神原くんの手に包み込まれる。俺よりも大きくて骨張った手。なぜかドキドキしてしまう。 戸惑いのドキドキとは違う感覚。こうして誰かと手を繋いだのなんて、随分と久しぶり。
 そのまま駅まで手を繋いでいた。横抱きにされたことも、後ろ抱きにされたこともあったのに、手を繋ぐだけで、戸惑いではないドキドキが走っていた。