次の日。
「おはようございます」
「お、おはよう。神原くん」
神原くんは昨日言った通りに家まで迎えに来てくれた。それこそ家の玄関を開けたら神原くんがいた状態でちょっとびっくりした。
そして、駅まで歩き、同じ電車に乗って二人で学校まで向かう。通勤通学ラッシュの電車。一つだけ空いた席に「先輩、座ってください」と言われて、俺が座り、そして、目の前に神原くんが立つ。吊り革を持つ立ち姿すらサマになっている。いつもと同じ電車なのに、今日はやけに視線を感じる。昨日は神原くんのべったりに戸惑っていたから視線のことを考えている余裕はなかったけれど。俺はスマホの黒画面を見ながら自分の姿を確認する。制服のボタンを掛け違っているわけでもネクタイが曲がっているわけでもない。
「どうしましたか?」
「いや、俺の顔、なんかついてない? 服、変じゃない?」
「先輩は今日もとても素敵ですよ」
きらきらとした微笑みを浮かべながら、俺の方に視線を向ける。少女漫画だったら一発で心を射貫かれてしまうような表情。やっぱ綺麗な顔してるなあ……。けど、少女漫画じゃないから、俺は神原くんのその表情には戸惑うばかりだった。
そして駅から学校に歩いていく。その視線がさらに強くなる。一体、何が起こっているんだろう……。
その疑問は校門を通った瞬間に解決した。まるでアイドルの出待ちみたいに女の子達の黄色い歓声が聞こえてきたから。
「神原くーん! おはようー!」
「今日もかっこいいねー!」
登校してキャーキャー言われてるの、少女漫画でしか見たことない。もしかして、さっき視線を感じてたのって、俺じゃなくて、神原くんの隣に俺がいるから、ってこと? そう考えると合点がいった。超イケメンの神原くんの隣に俺がいて、俺は一体神原くんとどういう関係なんだ、って。そういう視線だったのかもしれない。
神原くんは女の子達に対して、ぺこ、ぺこ、と軽い会釈だけで通りすぎる。まるでチラシ配りを素通りするみたいに。そして、俺の方に綺麗な微笑みを向ける。
「先輩、今日お昼一緒にいいですか? 先輩とご飯をご一緒したいんです」
女の子達への軽い会釈、とは全く違う態度。本当に俺に並々ならない想いを抱いているんだなあ……。
「ああ、うん。いいよ」
いつも昼は特定の誰かと一緒に食べているわけではない。人数合わせ、みたいなとこがあったから、そんな風に「俺と」と言われたのは初めてかもしれない。
歩いていると、さらに女の子たちが近づいてきた。まるで芸能人にサインを求めるみたいに。
「ねえ、神原くん、お昼一緒に食べない?」
「……先輩と約束してるから、すみません」
「神原くん! 今日一緒に帰りませんか?」
「ごめんなさい、先輩と帰りたいので」
神原くんはぺこり、と、やはり会釈をして、随分とあっさりと断っている。
「先輩、今日、帰りもご一緒していいですか?」
「あ、う、うん……」
けれども、その女の子達へのあっさりとした断りの態度とは随分と対照的に、きらきらふわふわの笑顔が俺に向けられた。
「い、いいの? お誘いとか、断って」
「いいんです。僕が考えたいのは先輩だけですから。先輩のために全部を使いたいんです」
「そ、そっか……」
なんかすごいな。と思う。俺にこんなに想いを向けてくれるのと同時に、こんな風にあっさり断れるのとか。俺だったら、うまく断り切れないと思ったから。
そして、昼休み。神原くんからLIMEが来ていた。「お昼、一緒に食べましょうね。ベンチ、確保しておきました。昇降口で待ってますね」と届いていた。外のベンチは人気が高いのにわざわざ確保してくれるなんて……。すごいな……。
「久世ー!」
屋上に向かおうとした時に、声を掛けてきたのは。同じクラスで陸上部の裏野(うらの)と山口(やまぐち)だった。
「どうした?」
「なー、あのさ、ちょっとこれから、部活会議出てもらってもいいか?」
「ちょっと俺達、大会近いから自主練したくってさー!」
「あ、えっと……」
俺は言葉に詰まってしまう。前に二人に頼まれて部活会議に出たことがある。この前までだったら、「いいよ」って言ってた。特に予定もなかったし。
でも、今日は神原くんと予定がある。ほんとは断りたいんだけど……。目の前の二人の方に視線を向ける。困ったような表情をしている。断りづらい。確かに二人、大会が近い。だから、断ったら、申し訳ないよな……。部活会議、どれぐらいかかるんだろうか。10分ぐらいだったら、いけるかな……。どうしようか……。
いつもは無条件で引き受けてしまっていたから、即答できなかった。俺の中に迷いが走る。
「お取り込み中、すみません」
声と同時に俺の身体に軽く圧がかかった。
え、と俺と目の前の裏野たちから同時に間の抜けた声が出てしまう。どういう状況かを確認するために俺は後ろを向く。神原くんに後ろから抱きしめられていた。まるで、アイドルのツーショット撮影会みたいに。ドキドキしている。驚きと困惑、そしてそれとは違う感覚で。
「先輩は僕との大切な約束がありますので。すみません」
「あ……」
神原くんが口にすると、裏野と山口は困惑と納得が混ざったような表情を見せた。
「先約があったのかー。それなら最初から言ってもらえれば良かったのにー」
「悪いな。邪魔しちゃって」
そして裏野と山口は、部活会議、間に合うよな~と言いながら、退散するように下の階へと降りていった。
「おはようございます」
「お、おはよう。神原くん」
神原くんは昨日言った通りに家まで迎えに来てくれた。それこそ家の玄関を開けたら神原くんがいた状態でちょっとびっくりした。
そして、駅まで歩き、同じ電車に乗って二人で学校まで向かう。通勤通学ラッシュの電車。一つだけ空いた席に「先輩、座ってください」と言われて、俺が座り、そして、目の前に神原くんが立つ。吊り革を持つ立ち姿すらサマになっている。いつもと同じ電車なのに、今日はやけに視線を感じる。昨日は神原くんのべったりに戸惑っていたから視線のことを考えている余裕はなかったけれど。俺はスマホの黒画面を見ながら自分の姿を確認する。制服のボタンを掛け違っているわけでもネクタイが曲がっているわけでもない。
「どうしましたか?」
「いや、俺の顔、なんかついてない? 服、変じゃない?」
「先輩は今日もとても素敵ですよ」
きらきらとした微笑みを浮かべながら、俺の方に視線を向ける。少女漫画だったら一発で心を射貫かれてしまうような表情。やっぱ綺麗な顔してるなあ……。けど、少女漫画じゃないから、俺は神原くんのその表情には戸惑うばかりだった。
そして駅から学校に歩いていく。その視線がさらに強くなる。一体、何が起こっているんだろう……。
その疑問は校門を通った瞬間に解決した。まるでアイドルの出待ちみたいに女の子達の黄色い歓声が聞こえてきたから。
「神原くーん! おはようー!」
「今日もかっこいいねー!」
登校してキャーキャー言われてるの、少女漫画でしか見たことない。もしかして、さっき視線を感じてたのって、俺じゃなくて、神原くんの隣に俺がいるから、ってこと? そう考えると合点がいった。超イケメンの神原くんの隣に俺がいて、俺は一体神原くんとどういう関係なんだ、って。そういう視線だったのかもしれない。
神原くんは女の子達に対して、ぺこ、ぺこ、と軽い会釈だけで通りすぎる。まるでチラシ配りを素通りするみたいに。そして、俺の方に綺麗な微笑みを向ける。
「先輩、今日お昼一緒にいいですか? 先輩とご飯をご一緒したいんです」
女の子達への軽い会釈、とは全く違う態度。本当に俺に並々ならない想いを抱いているんだなあ……。
「ああ、うん。いいよ」
いつも昼は特定の誰かと一緒に食べているわけではない。人数合わせ、みたいなとこがあったから、そんな風に「俺と」と言われたのは初めてかもしれない。
歩いていると、さらに女の子たちが近づいてきた。まるで芸能人にサインを求めるみたいに。
「ねえ、神原くん、お昼一緒に食べない?」
「……先輩と約束してるから、すみません」
「神原くん! 今日一緒に帰りませんか?」
「ごめんなさい、先輩と帰りたいので」
神原くんはぺこり、と、やはり会釈をして、随分とあっさりと断っている。
「先輩、今日、帰りもご一緒していいですか?」
「あ、う、うん……」
けれども、その女の子達へのあっさりとした断りの態度とは随分と対照的に、きらきらふわふわの笑顔が俺に向けられた。
「い、いいの? お誘いとか、断って」
「いいんです。僕が考えたいのは先輩だけですから。先輩のために全部を使いたいんです」
「そ、そっか……」
なんかすごいな。と思う。俺にこんなに想いを向けてくれるのと同時に、こんな風にあっさり断れるのとか。俺だったら、うまく断り切れないと思ったから。
そして、昼休み。神原くんからLIMEが来ていた。「お昼、一緒に食べましょうね。ベンチ、確保しておきました。昇降口で待ってますね」と届いていた。外のベンチは人気が高いのにわざわざ確保してくれるなんて……。すごいな……。
「久世ー!」
屋上に向かおうとした時に、声を掛けてきたのは。同じクラスで陸上部の裏野(うらの)と山口(やまぐち)だった。
「どうした?」
「なー、あのさ、ちょっとこれから、部活会議出てもらってもいいか?」
「ちょっと俺達、大会近いから自主練したくってさー!」
「あ、えっと……」
俺は言葉に詰まってしまう。前に二人に頼まれて部活会議に出たことがある。この前までだったら、「いいよ」って言ってた。特に予定もなかったし。
でも、今日は神原くんと予定がある。ほんとは断りたいんだけど……。目の前の二人の方に視線を向ける。困ったような表情をしている。断りづらい。確かに二人、大会が近い。だから、断ったら、申し訳ないよな……。部活会議、どれぐらいかかるんだろうか。10分ぐらいだったら、いけるかな……。どうしようか……。
いつもは無条件で引き受けてしまっていたから、即答できなかった。俺の中に迷いが走る。
「お取り込み中、すみません」
声と同時に俺の身体に軽く圧がかかった。
え、と俺と目の前の裏野たちから同時に間の抜けた声が出てしまう。どういう状況かを確認するために俺は後ろを向く。神原くんに後ろから抱きしめられていた。まるで、アイドルのツーショット撮影会みたいに。ドキドキしている。驚きと困惑、そしてそれとは違う感覚で。
「先輩は僕との大切な約束がありますので。すみません」
「あ……」
神原くんが口にすると、裏野と山口は困惑と納得が混ざったような表情を見せた。
「先約があったのかー。それなら最初から言ってもらえれば良かったのにー」
「悪いな。邪魔しちゃって」
そして裏野と山口は、部活会議、間に合うよな~と言いながら、退散するように下の階へと降りていった。


