俺は帰宅道を彼と一緒に歩いていた。
散らばったワークを職員室に持っていった後、神原くんに「一緒に帰りませんか?」と言われて。あのバス停にいた、ということは神原くんとは道中まで一緒だから。学校から駅まで5分。そこから電車で10分ほど。同じ駅で降りる。家まで徒歩20分。神田くんはそこからバスで30分。
「まさか、こんなに早くお会い出来るとは思いませんでした……嬉しいです……」
「そ、そっか……」
神原くんはどこか恍惚とした表情で口にする。それこそ、CMで見かけるイケメンがたくさん出てくる恋愛ゲームの登場人物のような甘く美しい表情。俺に向けるよりも他の女の子に向けた方がいいんじゃないか、と思ってしまうような表情を俺に向けていた。
「本当は入学式の日にでも先輩のことを探しに行きたかったんですけれども……」
神原くんは話す。それこそオリエンテーション合宿とか、一年生特有のいろいろがあって、なかなか俺を探すまでに至らなかったらしい。そもそもお互い名乗ってなかったから、俺の手がかりが「寒宮高校の2年生以上」以外全くない状態だった。明日からやっと在校生と同じようなスケジュールになるから、休み時間に四階の二年生のクラスと、三階の三年生のクラスを片っ端から当たって俺を探そう、と思っていたところで俺と遭遇したらしい。
「先輩、改めてこれからよろしくお願いしますね」
「あ、う、うん」
俺の隣で笑みを浮かべながら言う神原くん。その表情も、声色も、後輩としてこれからよろしくお願いします、という距離感ではない。一生添い遂げたい、みたいな響き。ちょっと戸惑った。
「先輩、して欲しいこととかはありますか? あれが食べたい、とか、これをして欲しい、とか……。出来る限りのことをします」
「……いや、今は、特に……」
「分かりました……! あったら遠慮せずになんでも言ってくださいね! お弁当も作りますし、助けが必要な時はいつでも行きますので……!」
「あ、ありがとう…」
「俺は先輩に幸せで心地よく生活して欲しいんです。先輩が幸せに過ごせるためならなんでもしますからね……」
「う、うん……」
柔らかな雰囲気でぐいぐいと来る。こんな距離感で来られたのは初めてだ。まさか、入試の日に助けただけでこんな風に懐かれる?とは思わなかった。
「そうだ、先輩、LIME交換してもらっていいですか? 連絡、取りやすいように」
「あ、う、うん」
言われるがままに交換した「神原晴也」という名前と星空のアイコン。おしゃれだ。
「困った時はいつでも俺のとこに連絡くださいね。すぐに駆けつけますから……!」
「あ、ありがとう……」
困った時にLIMEして、というのを初めて言われたかもしれない。父さんと母さんは頼れる距離にいないし、誰かから頼まれごとをされる、ということはあっても、自分からすることはあまりなかったから。
一緒に電車に隣あって乗り、最寄り駅から歩き、そして途中のバス停で別れ……ることなく、神原くんは家までついてきてくれた。まるでボディーガードとか執事みたいに。ここまでされることがあまりないから戸惑った。
「わざわざここまでありがとうね」
「いえいえ。全く。先輩がもしよろしければ明日もお迎えに上がっていいでしょうか?」
「あ、明日!? いいよ、気にしなくて。神原くん、バス通でしょ?」
バスで来た後、俺をわざわざ待って一緒に電車に乗る、というのはなかなか面倒だろう。バスの時間もあるだろうし。
「いえ。先輩とご一緒したいんです。いられる間はずっと」
けれども神原くんは一切の迷いなくそう答える。その言葉に妙な重さを感じる。ここまで俺に懐いてくれるなんて思わなくって、ちょっと戸惑った。
「えっと、神原くんがいいのなら……」
「ありがとうございます……!」
そして、次の日も一緒に登校する約束をして、神原くんと別れる。神原くんは綺麗な顔をこちらに向けていつまでも手を振ってくれていた。バスの時間大丈夫なのかな……。
随分不思議な子と知り合ったなあ、と感じながら、俺は家の中へと入った。
散らばったワークを職員室に持っていった後、神原くんに「一緒に帰りませんか?」と言われて。あのバス停にいた、ということは神原くんとは道中まで一緒だから。学校から駅まで5分。そこから電車で10分ほど。同じ駅で降りる。家まで徒歩20分。神田くんはそこからバスで30分。
「まさか、こんなに早くお会い出来るとは思いませんでした……嬉しいです……」
「そ、そっか……」
神原くんはどこか恍惚とした表情で口にする。それこそ、CMで見かけるイケメンがたくさん出てくる恋愛ゲームの登場人物のような甘く美しい表情。俺に向けるよりも他の女の子に向けた方がいいんじゃないか、と思ってしまうような表情を俺に向けていた。
「本当は入学式の日にでも先輩のことを探しに行きたかったんですけれども……」
神原くんは話す。それこそオリエンテーション合宿とか、一年生特有のいろいろがあって、なかなか俺を探すまでに至らなかったらしい。そもそもお互い名乗ってなかったから、俺の手がかりが「寒宮高校の2年生以上」以外全くない状態だった。明日からやっと在校生と同じようなスケジュールになるから、休み時間に四階の二年生のクラスと、三階の三年生のクラスを片っ端から当たって俺を探そう、と思っていたところで俺と遭遇したらしい。
「先輩、改めてこれからよろしくお願いしますね」
「あ、う、うん」
俺の隣で笑みを浮かべながら言う神原くん。その表情も、声色も、後輩としてこれからよろしくお願いします、という距離感ではない。一生添い遂げたい、みたいな響き。ちょっと戸惑った。
「先輩、して欲しいこととかはありますか? あれが食べたい、とか、これをして欲しい、とか……。出来る限りのことをします」
「……いや、今は、特に……」
「分かりました……! あったら遠慮せずになんでも言ってくださいね! お弁当も作りますし、助けが必要な時はいつでも行きますので……!」
「あ、ありがとう…」
「俺は先輩に幸せで心地よく生活して欲しいんです。先輩が幸せに過ごせるためならなんでもしますからね……」
「う、うん……」
柔らかな雰囲気でぐいぐいと来る。こんな距離感で来られたのは初めてだ。まさか、入試の日に助けただけでこんな風に懐かれる?とは思わなかった。
「そうだ、先輩、LIME交換してもらっていいですか? 連絡、取りやすいように」
「あ、う、うん」
言われるがままに交換した「神原晴也」という名前と星空のアイコン。おしゃれだ。
「困った時はいつでも俺のとこに連絡くださいね。すぐに駆けつけますから……!」
「あ、ありがとう……」
困った時にLIMEして、というのを初めて言われたかもしれない。父さんと母さんは頼れる距離にいないし、誰かから頼まれごとをされる、ということはあっても、自分からすることはあまりなかったから。
一緒に電車に隣あって乗り、最寄り駅から歩き、そして途中のバス停で別れ……ることなく、神原くんは家までついてきてくれた。まるでボディーガードとか執事みたいに。ここまでされることがあまりないから戸惑った。
「わざわざここまでありがとうね」
「いえいえ。全く。先輩がもしよろしければ明日もお迎えに上がっていいでしょうか?」
「あ、明日!? いいよ、気にしなくて。神原くん、バス通でしょ?」
バスで来た後、俺をわざわざ待って一緒に電車に乗る、というのはなかなか面倒だろう。バスの時間もあるだろうし。
「いえ。先輩とご一緒したいんです。いられる間はずっと」
けれども神原くんは一切の迷いなくそう答える。その言葉に妙な重さを感じる。ここまで俺に懐いてくれるなんて思わなくって、ちょっと戸惑った。
「えっと、神原くんがいいのなら……」
「ありがとうございます……!」
そして、次の日も一緒に登校する約束をして、神原くんと別れる。神原くんは綺麗な顔をこちらに向けていつまでも手を振ってくれていた。バスの時間大丈夫なのかな……。
随分不思議な子と知り合ったなあ、と感じながら、俺は家の中へと入った。


