そして、一週間後の土曜日の朝、俺は緊張感と甘い気持ちを抱きながら、二階の自室で、出かける準備をしていた。おしゃれ、とは縁遠いけれど、出来る限りにオシャレな服を選んで、ヘアセットをしていた。
自室の姿見で何度も自分の姿を確認する。今日、神原くんに伝えたい。俺も、神原くんが好きだって。
その時、スマートフォンの音が部屋で鳴り響いた。母さんからだった。そういえば、しばらく連絡がなかった。
「錬斗、元気? 大丈夫?」
「うん、大丈夫」
母さんに今までのことを話す。無理した時にその子が助けてくれたこと。熱を出したこと。そして、その子がすごく優しい子なことを。気が付けば、神原くんの話ばかりしてしまっていた。
「その後輩さん、すごくいい子なのね」
「……うん、これから、出かけるんだ。その子と」
「そうなの、無理せず楽しんでね」
「うん」
どこかふわふわとした気持ちを抱きながら、電話を切る。そして、荷物を持って、階段を降りる。これから、神原くんと会えるんだ……。楽しみだな……。
「わっ……!?」
ふわふわとしした気持ちの中歩いていたら、俺の身体に今まで味わったことのない衝撃が走る。階段を踏み外して落ちた。なんだか幸先悪いな、と思って、立ち上がろうとした時だった。
「っ……!」
瞬間、俺の脚にびり、と痛みが走る。一人では立ち上がれないくらいに痛い。
どうしよう。神原くんとせっかく約束しているのに。思わず、彼のLIMEを開いた。せっかく、出かけるのに。神原くんに、そんなこと、言っていいのかな。もし、嫌われたら……。
――大丈夫です。先輩が俺の頼みを断ったとしても、フったとしても、俺は先輩のことが大好きですから
神原くんの言葉を思い出す。その言葉を思い出しながら、少しの不安を抱えながら、俺は、神原くんのLIMEを開いて彼に電話を掛ける。
「もしもし、先輩? どうしました?」
声が明るい。ああ、今日を楽しみにしてたんだな……。どうしよう。楽しみにしてるのに、断るなんて。
「神原くん……」
逆に、俺の声が震えている。気が付けば泣きそうになっていた。
「先輩、どうしましたか……?」
電話越しに彼の声が聞こえてきた。俺の身体に緊張が走る。
「ごめん、今日、行けない……」
こんな風に、約束とか、頼まれたことを断るのは初めてだった。だから、怖かった。もし、神原くんが俺を嫌いになったら。断られたら。
「え?」
「階段から、落ちて、多分、足、痛め……」
「大丈夫ですか……!? 今、先輩の家、行きますから……!」
「え……?」
「鍵、開いてますか?」
「う、うん……」
俺が言い終わる前にばたばたと慌ただしい音が電話の向こうで響き、そして、電話が切れる。鍵は開いていた。俺は、何もすることが出来ず、ただ、その場に座っていることしか出来なかった。
けれども、すぐに、彼から連絡が来る。
”先輩、大丈夫ですか?”
”今行きますから”
”待っててください”
俺を安心させるかのように、ぽこぽことひっきりなしに連絡が来ていた。そして、チャイムが鳴り、がちゃ、とドアを開ける。
「先輩……!」
彼の顔を見た瞬間、ぼろぼろと涙が止まらなくなってしまった。意志とは関係なく涙が俺の目から零れ落ちていく。けれども視界が急に暗くなった。神原くんに抱きしめられていた。
こんな風にぼろ泣きしたの、いつぶりだろう。子どもの時以来。ずっと、我慢していたものが溢れてくるような感覚。
神原くんの前だから、こんな風にさらけ出せるのかな。こうやって、俺のことを一番に考えてくれている神原くん。神原くんに抱きしめられ、泣きながら、俺はしばらくの時間を過ごしていた。
「タクシー呼びました。病院、行きましょうか」
「……ごめん」
「気にしないでください。先輩の安全が第一です」
そして
「骨にヒビが入ってますね……。一ヶ月は安静にしてください」
医者にはそう言われた。杖をつきながら歩く。
「ごめん……。本当に……」
「大丈夫ですよ、俺は先輩が大好きですから。その気持ちは変わりません。先輩が治ったらまた、デートしましょう。俺は、先輩のことが、大好きですから」
こちらに、綺麗な笑顔が向けられる。やっぱり、俺は、神原くんが、好きだ。
「……俺も」
「え……?」
「……俺も、神原くんが、好き、で……」
真っ赤になりながら答える。その時見せてくれた神原くんの表情は、今までみた中で一番綺麗な表情だった。
自室の姿見で何度も自分の姿を確認する。今日、神原くんに伝えたい。俺も、神原くんが好きだって。
その時、スマートフォンの音が部屋で鳴り響いた。母さんからだった。そういえば、しばらく連絡がなかった。
「錬斗、元気? 大丈夫?」
「うん、大丈夫」
母さんに今までのことを話す。無理した時にその子が助けてくれたこと。熱を出したこと。そして、その子がすごく優しい子なことを。気が付けば、神原くんの話ばかりしてしまっていた。
「その後輩さん、すごくいい子なのね」
「……うん、これから、出かけるんだ。その子と」
「そうなの、無理せず楽しんでね」
「うん」
どこかふわふわとした気持ちを抱きながら、電話を切る。そして、荷物を持って、階段を降りる。これから、神原くんと会えるんだ……。楽しみだな……。
「わっ……!?」
ふわふわとしした気持ちの中歩いていたら、俺の身体に今まで味わったことのない衝撃が走る。階段を踏み外して落ちた。なんだか幸先悪いな、と思って、立ち上がろうとした時だった。
「っ……!」
瞬間、俺の脚にびり、と痛みが走る。一人では立ち上がれないくらいに痛い。
どうしよう。神原くんとせっかく約束しているのに。思わず、彼のLIMEを開いた。せっかく、出かけるのに。神原くんに、そんなこと、言っていいのかな。もし、嫌われたら……。
――大丈夫です。先輩が俺の頼みを断ったとしても、フったとしても、俺は先輩のことが大好きですから
神原くんの言葉を思い出す。その言葉を思い出しながら、少しの不安を抱えながら、俺は、神原くんのLIMEを開いて彼に電話を掛ける。
「もしもし、先輩? どうしました?」
声が明るい。ああ、今日を楽しみにしてたんだな……。どうしよう。楽しみにしてるのに、断るなんて。
「神原くん……」
逆に、俺の声が震えている。気が付けば泣きそうになっていた。
「先輩、どうしましたか……?」
電話越しに彼の声が聞こえてきた。俺の身体に緊張が走る。
「ごめん、今日、行けない……」
こんな風に、約束とか、頼まれたことを断るのは初めてだった。だから、怖かった。もし、神原くんが俺を嫌いになったら。断られたら。
「え?」
「階段から、落ちて、多分、足、痛め……」
「大丈夫ですか……!? 今、先輩の家、行きますから……!」
「え……?」
「鍵、開いてますか?」
「う、うん……」
俺が言い終わる前にばたばたと慌ただしい音が電話の向こうで響き、そして、電話が切れる。鍵は開いていた。俺は、何もすることが出来ず、ただ、その場に座っていることしか出来なかった。
けれども、すぐに、彼から連絡が来る。
”先輩、大丈夫ですか?”
”今行きますから”
”待っててください”
俺を安心させるかのように、ぽこぽことひっきりなしに連絡が来ていた。そして、チャイムが鳴り、がちゃ、とドアを開ける。
「先輩……!」
彼の顔を見た瞬間、ぼろぼろと涙が止まらなくなってしまった。意志とは関係なく涙が俺の目から零れ落ちていく。けれども視界が急に暗くなった。神原くんに抱きしめられていた。
こんな風にぼろ泣きしたの、いつぶりだろう。子どもの時以来。ずっと、我慢していたものが溢れてくるような感覚。
神原くんの前だから、こんな風にさらけ出せるのかな。こうやって、俺のことを一番に考えてくれている神原くん。神原くんに抱きしめられ、泣きながら、俺はしばらくの時間を過ごしていた。
「タクシー呼びました。病院、行きましょうか」
「……ごめん」
「気にしないでください。先輩の安全が第一です」
そして
「骨にヒビが入ってますね……。一ヶ月は安静にしてください」
医者にはそう言われた。杖をつきながら歩く。
「ごめん……。本当に……」
「大丈夫ですよ、俺は先輩が大好きですから。その気持ちは変わりません。先輩が治ったらまた、デートしましょう。俺は、先輩のことが、大好きですから」
こちらに、綺麗な笑顔が向けられる。やっぱり、俺は、神原くんが、好きだ。
「……俺も」
「え……?」
「……俺も、神原くんが、好き、で……」
真っ赤になりながら答える。その時見せてくれた神原くんの表情は、今までみた中で一番綺麗な表情だった。


