五月も半ば。15日。忙しさと疲労感を溜めながら、俺は日々を過ごしていた。引き受けてしまったスポーツ大会委員の仕事がなかなか忙しくて、朝から夜まで余裕がない。神原くんと過ごしてきた日々が嘘みたいに忙しい。
“ごめんね神原くん。今日、ちょっと朝早く行くから、先に行ってて”
二本ほど早い電車に乗るために少し早起きをする。信号待ちの時に、溜息をつきながら、そんなメッセージを神原くんに送る。すると30秒も経たずに既読が付き、分かりましたスタンプと「無理しないでくださいね。何かあったらいつでも俺を頼ってください」というメッセージが返ってきた。
物理的にすれ違う日々を送ってしまっていた。あの日から一週間くらい神原くんと会ってない。朝は早く登校して、昼は何かしらの集まりがあり、そして、放課後はスポ体の集まりだったり製作だったり、そして細々した頼まれ事をされてしたからいっぱいいっぱいになってしまっている。もうキャパオーバーと言ってもおかしくない状態。制作物の締め切りは明日までだし、明日は場所決めがある。だから、やっぱり忙しい。
神原くんと会える時間はなかなかない。神原くんと出会った日から、ずっと神原くんがべったり一緒にいたから、なんだか逆に一人は慣れない。俺がLIMEを送ったら返信はすぐ帰って来るけれど、ちょっと寂しいような気もする。その寂しさは、ただ会えないから寂しい、とは違う感覚だった。なんだろう……。
「はあ……」
疲労を逃がすように、溜息をつきながら、俺は学校へと向かっていった。
ーーー
放課後の教室。ホームルームは30分前に終わっていて、もう俺しか残っていない。俺の今の席は教室の真ん中だから、誰もいないのが余計に寂しく感じる。
俺はハサミと紙を持って延々と切る作業をしていた。スポーツ大会の看板のための今残り100枚くらい。この間引き受けたスポーツ大会委員の仕事。佐山は、バイトが忙しく、ホームルームが終わるなり教室を飛び出してしまった。昼休みに「ごめん、俺の分もやっておいて!」って言われて、俺が一人で作ることになってしまった。神原くんには“今回も先に帰ってて”という連絡を送った。彼、電車のバスの時間があるから、遅くなるとまずいだろうから。これの提出日が終わらせないといけない。
……何かを忘れている気がする。けど、今はこれを作るのが先だ。余裕が全くない中、俺は切る作業をしていた。
「先輩」
聞き慣れた声が後ろから聞こえてきて、俺はそちらに視線を向ける。そこにいたのは神原くんだった。
「か、神原くん……!? 帰ったんじゃ……」
「先輩が心配で見に来たんです」
神原くんは俺の席に近づいてくる。そして、俺の顔を覗き込むようにして、そっと、俺の頬を両手で掴んだ。
「え……?」
「……無理してる顔してます。あんまり顔色よくないです」
確かに、無理はしているかもしれない。でも、そうじゃないと、回らない。
「……無理しなきゃない時もあるんだよ」
「それは先輩にとって大事な無理ですか? 先輩が自分を犠牲にして、引き受けなきゃいけない仕事ですか? 先輩は優しい人です。でも、やっぱり、自分を大事にして欲しいです」
「……」
どうなんだろう。分からなくなっている。でも、佐山はバイトがあるから忙しいし、錦田も、陸上部の二人も、笹本さんも、忙しいし……。だから、俺がやらなきゃない。
「……多分、そうだよ」
「……」
シャットアウト、という言葉が俺の頭の中によぎった。どこか、神原くんの優しさを拒絶するように口にする。
「ごめん、明日も早く学校行くから。気にしないで。神原くん、バス、そろそろだよね。帰れなくなっちゃうから、帰っていいよ」
「……分かりました。でも、頼られて頑張る、と無理して引き受けるは違いますからね。無理だけは、しないでください……」
神原くんは教室を出ていく。結局、一番遅い電車で帰って、夜遅くまでかかってその作業は終わった。スマートフォンを開く。LIMEの通知が溜まりに溜まっている。神原くんからいっぱいLIMEが来ていた。他にも何通か来ている。けれどもそれを俺は確認することなく、倒れ込むようにベッドに入り込んだ。
“ごめんね神原くん。今日、ちょっと朝早く行くから、先に行ってて”
二本ほど早い電車に乗るために少し早起きをする。信号待ちの時に、溜息をつきながら、そんなメッセージを神原くんに送る。すると30秒も経たずに既読が付き、分かりましたスタンプと「無理しないでくださいね。何かあったらいつでも俺を頼ってください」というメッセージが返ってきた。
物理的にすれ違う日々を送ってしまっていた。あの日から一週間くらい神原くんと会ってない。朝は早く登校して、昼は何かしらの集まりがあり、そして、放課後はスポ体の集まりだったり製作だったり、そして細々した頼まれ事をされてしたからいっぱいいっぱいになってしまっている。もうキャパオーバーと言ってもおかしくない状態。制作物の締め切りは明日までだし、明日は場所決めがある。だから、やっぱり忙しい。
神原くんと会える時間はなかなかない。神原くんと出会った日から、ずっと神原くんがべったり一緒にいたから、なんだか逆に一人は慣れない。俺がLIMEを送ったら返信はすぐ帰って来るけれど、ちょっと寂しいような気もする。その寂しさは、ただ会えないから寂しい、とは違う感覚だった。なんだろう……。
「はあ……」
疲労を逃がすように、溜息をつきながら、俺は学校へと向かっていった。
ーーー
放課後の教室。ホームルームは30分前に終わっていて、もう俺しか残っていない。俺の今の席は教室の真ん中だから、誰もいないのが余計に寂しく感じる。
俺はハサミと紙を持って延々と切る作業をしていた。スポーツ大会の看板のための今残り100枚くらい。この間引き受けたスポーツ大会委員の仕事。佐山は、バイトが忙しく、ホームルームが終わるなり教室を飛び出してしまった。昼休みに「ごめん、俺の分もやっておいて!」って言われて、俺が一人で作ることになってしまった。神原くんには“今回も先に帰ってて”という連絡を送った。彼、電車のバスの時間があるから、遅くなるとまずいだろうから。これの提出日が終わらせないといけない。
……何かを忘れている気がする。けど、今はこれを作るのが先だ。余裕が全くない中、俺は切る作業をしていた。
「先輩」
聞き慣れた声が後ろから聞こえてきて、俺はそちらに視線を向ける。そこにいたのは神原くんだった。
「か、神原くん……!? 帰ったんじゃ……」
「先輩が心配で見に来たんです」
神原くんは俺の席に近づいてくる。そして、俺の顔を覗き込むようにして、そっと、俺の頬を両手で掴んだ。
「え……?」
「……無理してる顔してます。あんまり顔色よくないです」
確かに、無理はしているかもしれない。でも、そうじゃないと、回らない。
「……無理しなきゃない時もあるんだよ」
「それは先輩にとって大事な無理ですか? 先輩が自分を犠牲にして、引き受けなきゃいけない仕事ですか? 先輩は優しい人です。でも、やっぱり、自分を大事にして欲しいです」
「……」
どうなんだろう。分からなくなっている。でも、佐山はバイトがあるから忙しいし、錦田も、陸上部の二人も、笹本さんも、忙しいし……。だから、俺がやらなきゃない。
「……多分、そうだよ」
「……」
シャットアウト、という言葉が俺の頭の中によぎった。どこか、神原くんの優しさを拒絶するように口にする。
「ごめん、明日も早く学校行くから。気にしないで。神原くん、バス、そろそろだよね。帰れなくなっちゃうから、帰っていいよ」
「……分かりました。でも、頼られて頑張る、と無理して引き受けるは違いますからね。無理だけは、しないでください……」
神原くんは教室を出ていく。結局、一番遅い電車で帰って、夜遅くまでかかってその作業は終わった。スマートフォンを開く。LIMEの通知が溜まりに溜まっている。神原くんからいっぱいLIMEが来ていた。他にも何通か来ている。けれどもそれを俺は確認することなく、倒れ込むようにベッドに入り込んだ。


