「冬季決闘大会? 出るよー」

 イノリは、チョココロネをちぎりながら、おっとりと言った。
 俺は、助六弁当の紅ショーガの袋を切る手を止める。

「出んの?」
「うん。てか、出なきゃダメらしいよ。生徒会としての義務なんだってぇ」
「マジかあ。大変だな、生徒会」
「んー、まあまあ? はい。トキちゃん、あーん」
「あー」

 反射的に口を開けると、チョココロネを詰め込まれた。
 咀嚼すると、チョコクリームが甘くて美味い。飲み込むと、すかさず次を放り込まれる。
 結局、まる一つチョココロネを俺に食わせてから、イノリは言った。

「トキちゃんは?」
「ほへ」
「決闘大会、どうするの?」

 イノリは、こてんと首を傾げる。態度はゆるいけど、声は真面目に喋るときのトーンだ。
 俺も、机に凭れていた胸をシャンとして、椅子に座りなおした。
 決闘大会かあ。
 腕を組んで、天井を見上げた。

「うーん。ぶっちゃけ、わかんねえ」
「っていうと?」
「俺、ぜんっぜん魔法使えねえんだ」
「うん」
「決闘もしたことねえし」
「うんうん」

 西浦先輩によると、決闘大会のヤバさ加減は、いつもの比じゃねえみたいだし。
 転校して一月、俺は魔法をつかえた例がねえわけで。この状態で出たって、まあ、ボッコボコにされるしかないよな。
 だったら、欠席して来年にする。それだって、普通にありだとは思う。
……でもなあ。
 正面を向けば、じぃっと俺を見るイノリと目が合う。イノリは、ほんのちょっと苦笑した。

「でも、出たいんでしょ?」

 とっくにばれちゃってたらしい。ちょっとばつが悪くて、頬をぽりぽり掻いた。
 うん、出たい。バカかもしれんけど。
 もともとお祭り騒ぎとか、好きな方だしさ。
 魔法が使えねえまま出たって、負けちまうのは、わかってるけど。

「でもさ、負けるから出ないとかって、なんか悔しいじゃんか」

 負けるのが嫌で、弱小サッカー部やってられっか。いや、わざわざ負けたくはねえけどな。

「それに、まだ時間あるし。今からめっちゃ頑張って、鍛えるつもりだからさ!」
 
 葛城先生が、補習してくれるっていってたし。
 大会までに魔法が出来るように、まずやってみるかって思うわけ。
 イノリは、頷いて聞いてたかと思うと、へにゃと眉を下げた。
 悲しいみたいな、眩しいみたいな不思議な顔で笑う。

「トキちゃんらしいや」
「バカっぽい?」
「ううん。そーやってさ、負けないところ」
「……そおか?」

 負けまくってるような気もするけど。首を傾げてると、イノリは両手を伸べて俺の手をぎゅっと掴んだ。

「トキちゃん。俺、トキちゃんのこと応援する」
「えっ」
「絶対ちからになるから。魔法のことでも何でも、俺に話してね?」
「イノリ……ありがとな!」

 俺は、じーんとして手を握り返した。
 イノリは、昔からずっと優しい。
 どんなに負け続けでも、毎回サッカーの試合の応援に来てくれたし。
 ひでえボロ負けしても、俺と一緒になって、本気で悔しがってくれた。
 だから、俺だって、やってやるぜって思える。

「俺も、お前を応援する。二人で頑張ろうぜ!」

 ニカッと笑うと、イノリもニッコリ笑って頷いた。