潮風に揺られながら、フェリーを降りてコンクリートの地面へと足を運ぶ。
降り注ぐ日光は相変わらず肌を刺してくるようで、この異常気象に文句を言わずにはいられない。
けれど足取りは以前よりも軽く、彼女を求めてリズム良く坂を上がっていく。
そうすると、
『この先すぐ
宿 海の里あり』
と書いてある看板が見えてきた。
次はそう、道なりに左へ進むだけ。
世界がスローモーションに見える、俺の瞳に映ったのは。
「透羽っ……!」
「っえ……蒼空!?」
透羽と初めて会ったあの日から、約一ヶ月。
どうしても透羽と会って話したいことがあって、もう一度やって来たのだ。
連絡先を交換するのを忘れていて透羽がこの島のどこにいるのか分からなかったけど、なんとなく同じ場所にいると思ったんだ。
久しぶりの再会に、お互い興奮気味で駆け寄る。
「透羽、あの……」
「蒼空〜!」
「!え、と、透羽……っ」
俺は今、透羽に抱きつかれている。
自分に恋愛経験が無さすぎて、こういう時どうしていいのかわからない。
透羽はそんな俺のことはお構い無しに再会を喜ぶ。
「久しぶりだな、蒼空!会いたかったぞ!」
「お、俺も!透羽に会いたかったっ。あっ、それと……」
今日、俺が透羽に話したいこととは。
「透羽!これ、見て!俺、入賞したっ」
そう。
例のフォトコンテストで最優秀賞に選ばれたのだ。
応募した写真は、『秘色の滝』へ行った時、透羽が柵の上へ立ってこちらを見下ろす形となっていたあの写真だ。
写真は一枚しか応募できない。
だからどれにしようかとアルバムを見返したが、すぐにこの写真にしようと決めた。
俺の言葉に、透羽の笑顔がぱあっと花開く。
「!やったなぁ蒼空〜!」
透羽は俺以上に喜んでくれて、そんな透羽を見れて俺も嬉しくなる。
でも、もう一つ話したいことがあるのだ。
息を大きく吸って、吐いて。
「と、透羽」
「なんだ?」
「俺……と、透羽のことが好き」
あの後、フェリーで一人になった時。
ツーショットを見ながら思い出に浸っていると、
透羽ともっと話がしたかった、
透羽の笑顔をもっと見ていたかった、
透羽ともっと写真が撮りたかった、
と思っている自分がいることに気がついた。
そして最後に、
そっか……俺、透羽のことが好きなんだ……
と自覚し、次会った時は気持ちを伝えようと決めていたのだ。
例え気持ち悪がられたって、拒絶されたっていい。
透羽がそんなことをしないのは分かっているけど、透羽を困らせたくはないから。
かと言って諦めたくもないけど。
暫く沈黙が流れたあと、透羽の声が聞こえてきた。
「蒼空、少し膝を曲げてくれないか?」
どうしてそんなことを言うの分からないけど、とりあえずその通りにしてみる。
すると。
俺と透羽の唇が、触れた。
っ………え?
唇が離れ、透羽の顔を見てみる。
すると透羽は顔が真っ赤で、俺も頭が混乱するのと同時に顔が赤くなっていく。
透羽が、小さな声で言う。
「……アタシも好き。ずっと、会いたかった」
Fin.



