どれだけ牛乳を飲んでも、身長が伸びると言われているチーズ、肉、魚……どれだけ食べても私の身長は伸びることがなかった。
小柄で中学生、下手したら小学生に間違えられない身長。体も薄っぺらくって、棒みたいで嫌になる。せめてもの抵抗で髪型だけでも大人っぽくしたかったものの、ショートカットやボブカットだけ余計人形みたいに見え、お団子は似合わず、ストレートで降ろしているとますます人形みたいに見えて、結局は三つ編みでひとつにまとめておくしかできなかった。
「おはよう、成ちゃん! 今日も可愛いね!」
「アハハハハ、ありがとう……」
友達の真知子ちゃんも夏姫ちゃんも、私のことはまるで人形のように思っている。
ふたりとも私と同じようにアニメが好きだし、いわゆるBL好きの腐女子仲間にもかかわらず、私の前ではその話題に混ぜてはくれなかった。
片や真知子ちゃんはSNSでもファン多数のコスプレイヤーで、家族ぐるみで衣装やウィッグを用意して撮影しては、ファンをキャーキャー言わせる完成度を誇っていた。元々身長がある真知子ちゃんは男装してコスプレ用のメイクを施すととにかく映え、SNSのフォロワーの数も一般人とは思えないものになっている。
片や夏姫ちゃんはネット小説家だ。元々好きなアニメのファン小説をBL妄想して小説を書いていたらそのまんま受けてしまい、周りから勧められるがままに創作小説も書きはじめたら、これまたヒットして、今出版の打診が来ているらしい。
ふたりともBLトークをしたいんだけれど、それに混ざろうとするとピタッと話題が止まってしまうのだ。
「だ、駄目だよ成ちゃんにはまだ早い!」
「早いもなにも、私と真知子ちゃん夏姫ちゃんは同い年で……」
「でも! 私たちの妖精が穢れる! いくら腐ってるとはいえども、そういうのを巻き込むのは気が引けるというか……ねっ、わかって」
わかんない。
私はムスゥーと膨れてしまった。
真知子ちゃんはコスプレをしていなくっても長身美人だし、夏姫ちゃんはボブカットの似合う清楚系美人だ。それに比べて私は。
周りからの評価は「ほんわかしている」「守りたい」「可愛い」だし、なんだか私のことじゃないみたい。
私だって、腐女子だし。ちゃんとBLトークしたい。
でもなあ。
私も中学時代までは、オープンにトークをしていた。
大好きなソシャゲ、大好きなアニメ。それのBLトークをしていたら、当時好きだった男子が友達と話しているのを聞いてしまったのだ。
「橘さあ、すぐ男同士でなにかしてるのをイチャつくとか言うじゃん。ああいうの無理」
「そうか? 他の女子だって言ってるし、あいつらそういうもんだろ」
「いやさあ、他の奴らの場合は、はいはい、BLBLで済ませられるんだけどさあ。橘の場合、幼児体型でBLトークしてるってさあ……なんというか、無理」
他の子たちは普通にBLトークしてるのに。私は駄目なんか。しかも好きな男子から言われたことに、私はショックを受けてしまった。
身長がもうちょっと高かったら。体型が年相応だったら。BLトークしててもあれだけ嫌悪感剥き出しで噂されなかっただろうに。
それ以降私は徹底して隠すようになった。もう腐女子だってわかっている子にはそれとなくアピールしてみるものの、それ以外の人には徹底的に。
勝手に期待されて、勝手に気持ち悪がられて、勝手に絶望されても困る。求められているキャラじゃないからって、勝手に幻滅されたって困る。
今はオタクトークをしても大丈夫だよって言われている時代だって言われてるけど、そんなん嘘だよ。自分の趣味をとやかく言ってくる人なんていくらでもいる。
だから私のオタトーク用のSNSのことは絶対に秘密なんだ。
そう思っていたら。
「ごめん」
「あっ、うん」
私がもたれかかっていた机の主が帰ってきたので、慌てて私は立ち上がった。
生徒会役員をしている葉加瀬くんだ。身長は高い上に、学校はじまって以来の優等生とかで、いろんな予備校や塾からタダで授業を受けないかとスカウトが来ているらしい……絶対に有名大学に合格する頭脳だから、合格率の倍率を上げるために、賢い子をスカウトするもんらしい。なるほど。
葉加瀬くんは涼しげな顔をして、私たちをチラッと見てから、文庫本を取り出して読みはじめた。その様はひどく絵になる。
それを私たちは「ほぉー……」と見ていた。
「なんというか、二次元でしか見ない人っているよねえ」
真知子ちゃんのポツンとした声に、私たちは思いっきり頷いた。
見た目と中身が一致していたら、きっと苦労なんてない人生を送れるんだろうなと、優等生然とした言動をしている葉加瀬くんを見て、少しだけ羨ましく思った。
小柄で中学生、下手したら小学生に間違えられない身長。体も薄っぺらくって、棒みたいで嫌になる。せめてもの抵抗で髪型だけでも大人っぽくしたかったものの、ショートカットやボブカットだけ余計人形みたいに見え、お団子は似合わず、ストレートで降ろしているとますます人形みたいに見えて、結局は三つ編みでひとつにまとめておくしかできなかった。
「おはよう、成ちゃん! 今日も可愛いね!」
「アハハハハ、ありがとう……」
友達の真知子ちゃんも夏姫ちゃんも、私のことはまるで人形のように思っている。
ふたりとも私と同じようにアニメが好きだし、いわゆるBL好きの腐女子仲間にもかかわらず、私の前ではその話題に混ぜてはくれなかった。
片や真知子ちゃんはSNSでもファン多数のコスプレイヤーで、家族ぐるみで衣装やウィッグを用意して撮影しては、ファンをキャーキャー言わせる完成度を誇っていた。元々身長がある真知子ちゃんは男装してコスプレ用のメイクを施すととにかく映え、SNSのフォロワーの数も一般人とは思えないものになっている。
片や夏姫ちゃんはネット小説家だ。元々好きなアニメのファン小説をBL妄想して小説を書いていたらそのまんま受けてしまい、周りから勧められるがままに創作小説も書きはじめたら、これまたヒットして、今出版の打診が来ているらしい。
ふたりともBLトークをしたいんだけれど、それに混ざろうとするとピタッと話題が止まってしまうのだ。
「だ、駄目だよ成ちゃんにはまだ早い!」
「早いもなにも、私と真知子ちゃん夏姫ちゃんは同い年で……」
「でも! 私たちの妖精が穢れる! いくら腐ってるとはいえども、そういうのを巻き込むのは気が引けるというか……ねっ、わかって」
わかんない。
私はムスゥーと膨れてしまった。
真知子ちゃんはコスプレをしていなくっても長身美人だし、夏姫ちゃんはボブカットの似合う清楚系美人だ。それに比べて私は。
周りからの評価は「ほんわかしている」「守りたい」「可愛い」だし、なんだか私のことじゃないみたい。
私だって、腐女子だし。ちゃんとBLトークしたい。
でもなあ。
私も中学時代までは、オープンにトークをしていた。
大好きなソシャゲ、大好きなアニメ。それのBLトークをしていたら、当時好きだった男子が友達と話しているのを聞いてしまったのだ。
「橘さあ、すぐ男同士でなにかしてるのをイチャつくとか言うじゃん。ああいうの無理」
「そうか? 他の女子だって言ってるし、あいつらそういうもんだろ」
「いやさあ、他の奴らの場合は、はいはい、BLBLで済ませられるんだけどさあ。橘の場合、幼児体型でBLトークしてるってさあ……なんというか、無理」
他の子たちは普通にBLトークしてるのに。私は駄目なんか。しかも好きな男子から言われたことに、私はショックを受けてしまった。
身長がもうちょっと高かったら。体型が年相応だったら。BLトークしててもあれだけ嫌悪感剥き出しで噂されなかっただろうに。
それ以降私は徹底して隠すようになった。もう腐女子だってわかっている子にはそれとなくアピールしてみるものの、それ以外の人には徹底的に。
勝手に期待されて、勝手に気持ち悪がられて、勝手に絶望されても困る。求められているキャラじゃないからって、勝手に幻滅されたって困る。
今はオタクトークをしても大丈夫だよって言われている時代だって言われてるけど、そんなん嘘だよ。自分の趣味をとやかく言ってくる人なんていくらでもいる。
だから私のオタトーク用のSNSのことは絶対に秘密なんだ。
そう思っていたら。
「ごめん」
「あっ、うん」
私がもたれかかっていた机の主が帰ってきたので、慌てて私は立ち上がった。
生徒会役員をしている葉加瀬くんだ。身長は高い上に、学校はじまって以来の優等生とかで、いろんな予備校や塾からタダで授業を受けないかとスカウトが来ているらしい……絶対に有名大学に合格する頭脳だから、合格率の倍率を上げるために、賢い子をスカウトするもんらしい。なるほど。
葉加瀬くんは涼しげな顔をして、私たちをチラッと見てから、文庫本を取り出して読みはじめた。その様はひどく絵になる。
それを私たちは「ほぉー……」と見ていた。
「なんというか、二次元でしか見ない人っているよねえ」
真知子ちゃんのポツンとした声に、私たちは思いっきり頷いた。
見た目と中身が一致していたら、きっと苦労なんてない人生を送れるんだろうなと、優等生然とした言動をしている葉加瀬くんを見て、少しだけ羨ましく思った。



