「…?なんだ…なんだか下半身が寒い…ってはぁぁ!?」

目線を下げると驚いた拍子にふわりと広がるフリフリのピンクのスカートにリボン、その上から白いエプロンが着せられていた。


俺は気づいた。
これは紛れもなくメイド服だと。
 

なぜだ。
俺は別に可愛いフリフリを着てみたいという願望も今のところ、いや、今でも特にはないし、さっきまでは友達とカラオケ中だったはずだ…そうだそうだ!あいつらとカラオケ中だったわ!あいつらやりやがったな!!


「健!卓也!お前らかよこれ着せたの!ビックリしたじゃねーか!せっかくお前らが着せたんなら見に来いよ!一人じゃ恥ずかしいだろ!!」


友達の悪ふざけだと思い、2人を大声で呼ぶ。


しかし、二人の返事はない。


そういえば服に気をとられていたが辺りの景色も全くカラオケとは似ても似つかない甘い空間が広がっている。
だが家具などはなにもない。

甘い空間というものを言語化するならば、未だ行ったことはないが動画で見た事のあるメイド喫茶のようだった。


「いやいや、まずここは何処なんだよ!」

混乱のし過ぎで声のボリュームがおかしくなっているのに気づかない。



しばらく騒いでいると同じ格好だが胸元に星のマークがついているメイドさんが俺のもとにやってきた。

「大きい声を出していたけどなんかあった?」

馴れ馴れしい口調に俺の脳内友だちリスト(女子)を最速で見たがわからなかった。


「いやーここって何処なんっすかね?俺わかんなくて。知ってたり…とか?」

チラチラと顔色を伺いながら言うと。彼女はちょっと怒ったように言う。


「敬語!昨日も注意したでしょ?一応私先輩なんだけど、で、なに?記憶喪失??うけるんだけど!昨日あんなに張り切ってたのにw」


ギャル度高めで、先輩だったらしい。
張り切る?何を?


「そう!そうみたいなんだけ、あっ!、、ですけどなにを張り切ってたか忘れてしまいまして…。」


「そーなの?なら、もっかい言うよ!私たちのお仕事はご主人様お嬢様にご奉仕すること。ご主人様、お嬢様の萌えきゅんレベルがmaxになると願いが叶うと言われているよっ!ちなみに君は昨日あの男の子を、狙い撃ちしてたよ!」

話が終わるとなにもなかったように見えた空間に机と椅子が設置されお客様のような人が大勢いた。
思わず目を擦る。もう一度見てもやっぱりカフェのような机と椅子のある空間がひろがる。
萌えきゅんレベル…??ゲームかなにかなのか?と思ったが、この空間のコンセプトなのかなと納得させた


「男の子…?」


「あの人だよ!あの…マッシュヘアの無表情の…」


辺りを見回す。マッシュ、マッシュ……、、。


「あーーーっ!」


「うわぁ!君ー急に叫ばないでよ!ビックリすんじゃん」

「すみません…。」
マッシュの正体。それは俺のクラスでずっと無口無表情。そして、石像と呼ばれている男。石井だった。


なぜここにいるんだ。というか俺のこの姿見られてしまうのでは?そんで、なんで昨日の俺は石井を選んだんだ!?…あっ、でもお客はいっぱいいるんだし他の人にすれば…


「あっそうそう!忘れてたんだけど、願いが叶うのは始めに決めた子をきゅんきゅんさせた人だけらしいよー一撃必殺っ!て感じだね~」


「マジですか…」
まぁ、やってみないとわからない。トライ&エラーだ!


「まぁ、頑張ってみます!先輩!あざっす!」


「頑張れよー」   


「はい!」


スタスタと足早に席へ向かう。


「おい!石田!どうだ!俺可愛いだろ!」


「…?」


無。



氷のように冷たい反応と裏腹に顔の温度が上がる。まぁ、まぁメイク?とかもしてないし当然とは思ってたけどよ。無反応はないだろ。


恥ずかしい。


「な、なんか言えよお世辞でもいいからよ!」


「…。」


うぅぅ…。とめげそうな気持ちをはね除け、作戦2に気持ちを切り替える。
パンッ!と頬を叩くと痛すぎて頬が腫れた。
今日はついてない日だ。


「なぁ!石田!その水もっと美味しくなる方法知ってるか?」


「…?」


相変わらず無表情だが少し興味を持ってくれたようだ。
少しの進歩に喜びを感じ、思わず笑顔が溢れる。


「よーしっ!見てろよ!!
 《お水さん!美味しくなぁれ萌え萌えきゅん!!》」


先輩たちの見よう見まねだったが、我ながら完璧だとおもった。


しかし、その気持ちとは裏腹に石田はというとポカンとこちらを見て固まっていた。

ここまでくるとこの人はここに何をしに来たのかと思ってしまう自分がいる。



うわぁぁぁ俺はどうすれば石田をきゅんとさせられるんだぁぁ!!!