「あの、それで不躾で申し訳ないのですが、名月神社の奥にある納屋に住まわせていただけませんでしょうか」

「えっ、納屋?」

「はい。決してご迷惑はおかけしませんので」

私は畳にひれ伏すように頭を下げる。斉賀家を出て月読様と暮らすと言っても、さすがに名月神社の本殿に住むわけにはいかない。かといっていつまでも斉賀家に居候するのも申し訳ないしこれ以上迷惑をかけたくない。だから名月神社の納屋なら、奥まったところにあり人目につかないし、月読様とも近くにいられると考えたのだ。

安易な考えかもしれない。結局のところ、斉賀家に迷惑をかけてしまうことになる。けれど、実家にも帰る場所がない私が身を置ける場所は、ここしかないのだ。

「納屋なんて駄目よ」

「俺も反対だ」

「お願いします。見逃してください。ご恩は必ず返しますので、どうか――」

「ここにおればいいだろう」

「え?」

「そうじゃそうじゃ。このままここに住んだらええ。赤子を抱えて納屋で暮らすなど、けしからんわい」

「いや、でも……そんな……」

「喜与さん、よく考えてみて。納屋なんて何もないのよ。現実問題、どうやって住むつもり? 悪いことは言わないから、ここにいなさい」

「でも、奥様。それでは皆様にご迷惑がかかってしまいます」

「迷惑ならもう散々かけられたから、どうってことないわ。恩を返したいんだったら、うちの仕事を手伝ってくれない? 人手がほしいと思っていたの」

「ああ、それはいい。そうしなさい、喜与さん」

「ああ、これで一段落じゃ」

「よかったよかった。じじとばばの世話もしてもらおうかの」

「え、ちょ、あのっ……」

私の意思関係なく、畳み掛けられるようにどんどん話が進んでいく。私はこれ以上斉賀家に迷惑をかけるつもりはない。それに、月読様の側にいられれば、どこでもよかったのに。