「斉賀家は私の姿が見えぬのに、勘が鋭いな」

笑い事ではないのに、楽しそうに笑う。
名月神社を管理しているのは斉賀家だ。そういえば以前月読様が、斉賀家のことを「あまり熱心ではないが心の優しいやつ」だと言っていた。月読様と交流ができなくても、通じ合う何かがあるのだろう。

「そこに、いるんでしょう?」

「えっ?」

「うちの御祭神」

私の視線を辿った奥様が、くすくすと笑った。奥様は神様の気配がわかる人。私の不自然な視線にいち早く気づく。隠しても隠しきれない。

「あ……えと……はい……」

首を縦に振ると、お祖父様とお祖母様が月読様のいる方へ向かって「ありがたいありがたい」と拝み始める。旦那様と奥様は、畳に頭をつけて「いつもありがとうございます」とご挨拶をした。

「よいよい。こちらこそ喜与を助けてくれたこと、礼を申す」

「……月読様、聞こえていないかと」

「それでよいのだ。お互いに干渉せぬのがよい」

「喜与さん、月読様何か仰ってる?」

「えっ? あっ、えーっと、礼を申すと仰っています」

「ほほう、お前さん、神様と話せるのか」

「羨ましいのう」

胸がきゅっとなる。奥様だけじゃなく、お祖父様もお祖母様も旦那様も、私を気持ち悪いと言わない。まさか羨ましいと言われる日が来るだなんて思ってもみなかった。

「じゃあやはり、月読様が喜与さんを助けたんだね?」

「はい、その通りです。私が月読様に助けを求め、月読様が雨戸を壊して皆様に私のことを知らせてくださいました。そこの酒樽には火傷に効く薬が入っていて、月読様が薬の神様から貰って来てくれたのです。それから、月読様は私の痛みを取るために力を使い果たしてお眠りになっていました。そのために、数日間夜が無くなってしまったのです。本当に申し訳なく――」

「すごい!」

「えっ?」

「いやー、うちの御祭神はできる神様じゃな」

「わしもそんな奇跡にあやかりたいのう」

「俺も神様が見えたらどんなによかったか。ほんっとうに羨ましい!」

神様が見えることに対してこんな反応をしてくれることが予想外すぎて、どうしていいか戸惑う。ふと奥様と目が合った。

「うちの人たち、みんな月読様のことが大好きなの。見えないけどね」

と、茶目っ気たっぷりに微笑まれ、喜びでまた胸が熱くぎゅっと締めつけられた。