そっと背中に手が添えられる。顔を上げると、いつの間に来たのか月読様が隣に座ってくれていた。

「話してはどうか。喜与のことを知ってもらったほうが、あの(・・)お願いも聞いてもらえるやもしれぬ」

「……はい。では――」

月読様に背中を押されて、私は頷く。どこまで話していいのかわからないけれど、私の身の回りで起きたことを意を決してお伝えすることにした。

実家を追い出されるようにして伴藤家に嫁いだこと。伴藤家では跡継ぎを産むよう厳しく当たられていたこと。生まれたのが女の子だったために、湯をかけて殺されかけたこと。満月を守るため代わりに湯をかぶり、逃げるために鍋を投げつけたこと……。

思い出すだけで体が震える。蔑まれ虐げられることなんて、我慢さえすれば乗り切れると思っていた。ずっとそうやって過ごしてきたのに、今はもう、同じ気持ちでいられない。満月というかけがえのないものを手に入れてしまったこと、斉賀家という優しい家庭に触れてしまったこと、どちらも私に希望という明るい未来を見せてくれているのだ。

「跡取りねぇ。婿を取れば問題ないだろうに」

「せっかく生まれた孫を可愛がらないなんて、もったいないのう」

「あの、助けていただいたご恩は必ず返しますので――」

「それで、その火傷はどうやって治したんだい?」

「え……?」

「まだ痕は残っているようだけど、この回復力は自然じゃない。お医者様も、意味が分からないと言っていたよ。若さではすまされない、何か別の力が働いたんじゃないかって思ってるんだけど」

「そういえば数日間夜が無くなったのう」

「床の間の酒樽が一つ増えておるし」

「喜与さんのさらしが巻き直されていることもあったわね」

「えっと……あの……」

じぃっと見つめられ、たじたじとなる。月読様とうさぎのおかげだけれど、それこそどう説明したらいいかわからない。困って月読様を見ると、月読様も困ったように眉を下げていた。