「月読様、助けてくださってありがとうございます!」

「私は喜与の力になれたであろうか」

「はい! もちろんです! 私、月読様にいっぱい感謝の気持ちを伝えたくて……ううっ」

「もう泣かずともよい」

「だって、嬉しいのです。月読様とまたこうして会えたことが」

「そうか」

目を細めて微笑んでくれる月読様はとても艶っぽく、ドキリと心臓が揺れる。二人で縁側に腰を下ろし、しばらく星空を眺めた。月読様が夜空に手を伸ばし、くるりと円を描く。いくつかの星が幻想的にキラキラと流れた。

夜が、戻って来た。

「この子は、満月(まんげつ)と書いてみつきと言います」

満月(みつき)か。良い名だ」

「抱っこしてもらえますか?」

「できるだろうか?」

「……きっと、できると思います」

月読様が満月を抱っこできたなら、満月は神様が見えることになる。満月の父親は月読様だ。できれば見えてほしい。触れてほしい。もし見えなくても、月読様の存在は満月に教えようと思う。

月読様はそっと手を伸ばす。満月の小さな手に触れると、満月は月読様の指をきゅっと握った。

「あっ」

「握ったな」

「握りましたね。どうですか?」

「……どれ」

月読様はそうっと満月を抱え込む。そろそろと手を離すと、満月は月読様の腕の中に納まった。しっかりと月読様に抱っこされている満月は、何事もないようにすやすやと眠る。

「そうか、満月も私のことが見えるのだな」

「……嬉しい」

「そうだな。喜与、私に喜びを与えてくれて、ありがとう」

風がやみ、空気が澄む。満天の星空に大きな月。
それらすべてがまるで水の中に潜ったかのように、ゆらりと揺れる。
私は月読様の肩に頭をもたげた。

「満月を抱いているときに泣くでない。涙が拭えぬであろう」

「仕方ありません。月読様が私を泣かせるのですから……ぐすっ」

話すことができる幸せ。
触れることができる幸せ。
ああ、私はなんて恵まれているのだろう。

「喜与はこれからもここに住むのか?」

「いえ、体も回復してきましたし、そろそろ出なければと思っていました。ただ、どこに行こうかと……。伴藤家に戻るわけにも行きませんし」

本来なら戻るべきなのだろうけど。私は伴藤家の嫁なのだから。けれど満月を殺されそうになったあの家に戻るほど、愚かではない。どうせ実家にも帰る場所がないのだ。どこか山奥の静かな場所で、満月を育てられたらいいなと思う。