夜中に満月(みつき)がふえふえと泣く。お乳かおしめか、どちらをやっても泣きやまない。あまりにも泣くので、満月を抱えてそっと外へ出た。

ひんやりとした空気は秋が深まっていることを教えてくれる。夜が来なかったことが嘘のように、夜空にはまん丸の月が煌々と輝き、星がキラキラと瞬いている。

ねんねこね ねんねこね
可愛いお前は 良い子だね

抱っこしながらゆらゆらと揺れる。気持ちがいいのか、満月の泣き声は小さくなって、うとうととし始めた。

「――喜与」

澄んだ声が耳に届く。
はっと振り向いたその先に、月夜に輝く銀色の髪がさらりと揺れる。

「……月読様!」

ふっと目を細めた彼は、満月ごと私を優しく抱きしめた。甘く鼻をくすぐる白檀の香りは、紛れもなく月読様で――

「……うっううっ……つくよ……さま……月読……さまっ!」

「喜与、すまなかった」

私はふるふると頭を横に振る。伝えたいことがたくさんある。あるのに、胸が詰まって何も言えない。涙が溢れすぎて前が見えない。

よかった。
よかった……!
月読様が目を覚ました!

「心配をかけてすまぬ」

「わ、私の方こそ、助けていただいて……」

月読様は袖で涙を拭ってくれる。視界の晴れた私の目の前には優しい微笑みの月読様がいた。

「火傷の具合はどうだ? 痕が残ってしまっているな」

「いいえ、いいえ。こんなに治りが早いのは奇跡のようだとお医者様が言っていました。月読様が薬の神様を訪ねてくださったと、うさぎから聞きました。それと、痛みを取ってくれたとも……。本当にすみません」

そのせいで月読様は力を使い果たしてしまった。申し訳なくて申し訳なくて、どうしたらいいかわからない。

「……喜与が無事ならそれでよい」

月読様は困ったように眉を下げる。
そうじゃない。私は月読様にそんな顔をさせたいんじゃなくて――

ふと思い出される奥様の言葉。

『感謝することはあっても、謝ることはない。謝ったら神様に失礼でしょう』

ああ、そうか。私は謝ってしまった。申し訳なさからすみませんと言ってしまった。そうじゃない、そうじゃないんだ。私が月読様に伝えたいことは、それではない。