夜明け前だというのに夜が薄くなる。昼夜の均衡がまたおかしくなる。
うさぎが外の明るさに慌てた。

「あまり力を使うと、あなた様の力が弱まると思うが」

「かまわぬ」

できる限りの痛みを取ると、私の指はカタカタと震え、全身は刃物で刺されたようにズキズキと痛んだ。私が荒い息を吐く代わりに、喜与の呼吸は静かになっていく。それでいい、それでいいのだ。喜与が痛くなければ、それでいい。

「喜与、よく頑張った。お主の傷が癒えるまで、私が付いているからな」

「ボクも付いててやるから、早く良くなるのだぞ」

うさぎと手分けして喜与の赤くただれた皮膚に薬を塗り、そして清潔なサラシで巻いた。それを三日三晩繰り返した。

時々医者と斉賀の者が様子を見に来たが、喜与の穏やかな顔に不思議そうにしながらも、生きていることに安堵していた。

毎日喜与の痛みを取っていた私は、力を使いすぎたのか、蓄積された痛みに負けてふと意識をなくしてしまった。

夜が薄くなる。私の力が弱まったせいで、また世界の昼夜の均衡が崩れた。それを人の世界では、奇跡だ、(たたり)だなどとざわめいていたことなど、知る由もないことだった。

ただ私は喜与を助けたいだけなのだ。
それ以外何がある。
夜がなくなったっていい。
世界がおかしくなってもいい。

喜与が助かれば、それでいい。
それでいいのだ――